軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

何気ない、お休みの日

ダリアがさ、突然さ、

「奥様も早く『お母様』になりましょうね」

なんて言ってくれちゃったから、旦那様をまともに見れないというかなんというか。

やっぱり『跡継ぎ』は大事ですよね〜。由緒正しき公爵家ですもんね〜。

今まで面と向かって言われたことがなかったから全然意識してなかったけど、これって結構なプレッシャーですよ。「世継ぎが欲しい」って言ったら「はい!」って、ポンッて出てくるわけじゃないですもんねぇ。それどんな魔法だ。

こればっかりは運を天に任すしかないと思うんですよ。

「ヴィー、どうした? 体調悪いとか?」

ダリアの爆弾投下に悶々としていた私に、旦那様が心配そうに声をかけてきました。

そうだ、今日は旦那様のお休みの日でしたよ家にいるんですよ。

「あ、大丈夫ですよ〜。ちょっと考え事してただけですから!」

すっかり自分の殻に閉じこもっていましたね。私がちょっとでもボーっとしてると大騒ぎする人ですからね、危ない危ない。

でも旦那様と目が合うと、私が先に視線を外しちゃうんですけどね。

そんな私の不審な動きを旦那様がじっと見てたなんて、全然気付いてませんでした。

「そう? 無理はしないように。で、今日は何しようか?」

「そうですねぇ」

旦那様と二人で今日は何しようかなぁと考えていると、

「せっかくですから、たまには旦那様に剣の稽古をしていただいてはいかがですか、奥様」

とロータスがのたまわりました。

その言葉にさっきまでのアンニュイがぶっ飛んで行きましたよ!

マジか。旦那様に剣の稽古をつけてもらえと? 現役の騎士様だぞ! しかもオーランティアの王太子をコテンパンにやっつけちゃったのを目の当たりにしたんですけど? あんな流麗な剣技を持つ 旦那様(プロ) に稽古をつけてもらえなどと、ロータスは私にどうなってほしいんだ??

せいぜい短剣で護身ができるくらいでいいんです、と言おうとしたんですけど、

「たまにはいいね」

なんて。旦那様まで乗り気になっちゃいました。おーまいがー。

「きゃー、サーシス様までのっからないで! 私そんなに強くなるつもりなんて毛頭ありませんから! 自分の身を護れたらそれで十分ですって!」

全身全霊で抗議したのですが、

「どこでどんな強敵が現れるかわかりませんからね。前回はたまたま軟弱な相手だったからよかったものの、もしアレがもっとタフな敵だったらと思うと……」

オーランティア王太子事件を持ち出してくる旦那様。

「前回というのは、例の王宮で追い掛け回された件でしょうか…?」

「それしかないでしょう?」

うう、確かに。あれは想定外の敵でした。で、でもフルールはそんなに危険なところじゃない!

「でも私、騎士様を目指してるんじゃないですから!」

「はいはい、でも稽古はしましょうね。どれくらい実力があるのか、僕もみてみたいし」

私はあっという間に旦那様に捕獲され、大広間に連行されていきます。

どうやらお稽古は確定のようです。ならば。

「…………では、サーシス様はお仕事の制服を着てくださいますか?」

「はあ?」

剣のお稽古はしますから、私の意見も聞いて下さい!

私は旦那様に『制服着用』をお願いしました。王宮で剣を抜いたあの日、制服を着た旦那様が剣を握っていらっしゃったお姿がとーってもかっこよかったんです!!

あの旦那様に稽古をつけてもらえるなら、私、頑張ります!!

「制服を着た旦那様が剣を構えているお姿がとっても素敵だったので、また見てみたいなぁって思ったんですけど、ダメですかぁ?」

私の突拍子もないお願いに怪訝な顔をしていた旦那様でしたが、ちょっとかわいらしくお願いすれば、

「ええ……そう? じゃあ、着替えてこようか」

って、テレテレしながらいそいそと着替えに行ってくれました。

ふふふ。私もお願いが上手くなったもんです。

制服に着替えた旦那様はいつもの二割り増しでやっぱり素敵です。きりりと剣を構える姿なんて、なんて眼福……!!

本当にこんな人が私の旦那様なんだなぁと、ちょっと信じられないですね。

ちょっと目をハートにしていたら、

「ヴィー?」

旦那様が首を傾げています。はいはい、今からお稽古するんでしたね!

「大丈夫ですか〜? 全力でいきますよ〜」

私も剣を構えました。

「なかなか構えが様になってますね。さあ、どこからでもどうぞ」

「いざっ!」

にっこり余裕の表情で練習用の剣を構える旦那様に、本気でかかっていきます。旦那様だからって手、抜かないよ!

カンッ! カンッ! カカカカンッ!!

渾身の一撃☆ と見せかけてからの連続攻撃! ‥‥‥のはずが、さらりと剣で受け流されてしまいました。うそん。

しかも最初の攻撃は結構打ち込んだはずなのに全然衝撃こなかったよどうなってんの? 木でできた模造とはいえ剣と剣がぶつかったら、衝撃が走って痛いはずなんだけど。

「どうしました?」

「いえっ! まだまだ!」

悔しくて凹みかけてたら、旦那様が煽ってきましたよやだこの人!

また私は構えなおして旦那様に挑みました。

それからも、打てども打てども躱されてばかり。だめだ、子供と大人くらいの実力差あるよこれ! って、向こうはプロだもんね、仕方ないか。

全然歯が立たないなぁとあきらめかけたところで、

「じゃ、そろそろ終わりにしましょうか。なかなか上手くなってますよ」

最後まで余裕の態度が崩れぬままだった旦那様はそう言うと、くるくるくるっと私の剣に自分の剣を絡めてきて、「あら?」と思った時にはまあ不思議。しっかりと握っていたはずの剣が奪われてしまっていました。

手品のような早業に感心してしまいましたよ。

ロータスも満足そうに頷いていますので、今日のお稽古はこれにて終了ですね!

お天気が良かったので、そのままお昼をワタシ庭園でいただくことにしました。

新築の東屋でゆったりソファに座って。

「お昼からはどうしようか」

「もうお稽古はこりごりです!」

旦那様の質問に即答しましたよ。ロータスもこれなら口を挟めまい!

「さすがにそれはないよ! そうだなぁお稽古も頑張ったことだし、これから散歩にでも行こうか」

「はい!」

それにも即答しました。お散歩バンザーイ!

旦那様に誘われて、私たちはロージアの町中にお出かけすることになりました。

何度も散歩に行ってますからね、もう何も言わなくても『散歩』は徒歩で、適当にぶらぶらと町中を歩きまわるというのがお約束になっています。

旦那様も私も気取らない楽な服に身を包み、いつものように手をつないで町へと歩き出しました。パッと見町の若夫婦です。

この間の散歩では、久しぶりにマルシェに行ったんですよ! でも贔屓だった八百屋さんのマダムに顔を忘れられてショックでしたけど。長いこと行ってなかったからなぁ。くすん、さみしい。

そんなことを思い出していると、今日はどこに行くのかワクワクしてきます。

「今日はどこに行きましょう?」

隣を歩く旦那様の顔を見上げれば、

「え~と、ロータスからいいカフェを教えてもらったんだ。そこに行こうと思ってるんだけど、どうかな?」

ということでした。

「いいですね!」

あれから何度か連れて行ってもらったレモンマートルのカフェもいいのですが、 あの(・・) ロータスのおすすめカフェ。一体どんなところか気になります。

旦那様と手をつないでのんびり歩いてたどり着いたのは、大通りから一本入った路地にある、隠れ家風なお店でした。

「いらっしゃいませ」

きぃ、と、扉を軋ませ中に入ると、オーナーさんと思しき年配のおじ様が人の好い笑顔を浮かべて声をかけてきました。

シックな濃い茶色で統一された店内は、落ち着きのある心地よい空間です。

「なんだか落ち着きますね〜」

「そうだね」

初めて来るお店、物珍しくてキョロキョロしてしまいます。

「空いているお席、お好きなところへどうぞ」

私たちが入り口に立ったままでいると、ニッコリ微笑んだオーナーさんが、心地の良いバリトンでお店の中に誘います。

柔らかい陽光が入る明るい窓辺の席を選んだ私たちは、古いけどいい感じに馴染む椅子に腰かけました。

「お茶のいい香りがします。とっても落ち着くいいお店ですね。さすがロータスのオススメ」

「本当に。一人でふらっと来てもよさそうだ」

「あ~! サーシス様だけズルいです!!」

「ははっ。じゃあヴィーも誘うよ」

「ならいいです」

他愛のない話をし、オーナーさんおすすめのお茶とお菓子をいただき、ゆっくりくつろぎます。

オススメのお茶は、コクのあるお茶でミルクがよく合います。お屋敷で飲むお茶とは種類が違うのかな?

目をつぶって、香りと味を楽しんでいると、

「このお茶、気に入ったの?」

と、旦那様が聞いてきました。

「ええ、とっても」

「そんな顔をしてた。うちにあるのとはまた違うね。どっしりとしたコクがあって香りもいい」

旦那様も美味しそうに味わっています。

「ちょっと元気が出たかな?」

「? 何か言いました?」

「いや、なにも」

旦那様の声が小さくて聞き取れなかったのですが、もういいのかしら? 旦那様はまたお茶を楽しんでいるようなので、邪魔しちゃいけませんね。

お店を出る前、旦那様がオーナーさんと何か話をしていたので、私は瓶に入れられて並べられているお茶(売り物)や茶器(売り物)を見ていました。割れ物には近づかない! お屋敷の高価な置物を壊したという前科者の私は、ちょっと距離を置いての観賞です。

話を終えた旦那様と一緒に外に出て、家路につこうとした時。

「はい、これ。今日のお土産」

そう言って旦那様が私に差し出したのは、葉っぱのレリーフがあしらわれた薄緑のビンでした。

中身は……茶葉?

「え?」

「さっき飲んでたお茶、ヴィーはとっても気に入ってたでしょ。顔に書いてあったよ。屋敷に帰ってまた飲もう」

にっこり優しく微笑みながら私の手に瓶を握らせる旦那様。

うわ~。ナニコレうれしいっ!

「うれしいです! じゃあ、帰ったらさっそく淹れましょうね!」

「いいですね。ヴィーが淹れてくれるのかな?」

「淹れますよ~! 全力で美味しく淹れますよ~! サーシス様、ありがとうございます!」

私はうれしさのあまり旦那様に抱き付いてしまいました。

って、ここ外! 道端!! 私ってば何やってんの!!

「あ、失礼いたしました〜!」

私は慌てて旦那様から離れようとしたのですが、

「全然!」

逆に抱きしめられてしまいました。

……まあ人通りの少ない裏路地だからよしとするか。