軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

プロポーズ

「ちょーっと待ってくださいお義父様!!」

突然の帰宅宣言に、私は慌てて待ったをかけました。

「おや? どうかしたのかい?」

「あのっ、お義父様たちが御領地に帰っちゃうということは、一緒に来ていた侍女さんたちも帰るってことですよね?」

「え? そりゃそうよ?」

私が当たり前のことを確認したからか、お義父様とお義母様が顔を見合わせて首をかしげています。私だってわかってますよ、当たり前なんですよ。

侍女さんたちも一緒に帰るってことは、アマリリスも一緒に帰っちゃうということなんですよ。せっかくロータスと一緒にいられる貴重な時間だったのに!

今までも離れ離れでしたが、もうこの話を聞いちゃった今となっては、このままみすみす引き離すなんてできますか? いいえできません!

ここはヴィーちゃん、一肌脱ぐ時ですよ!

「すみません、お義母様。アマリリスだけこっちに残しておくというのはできませんか?」

意を決してお義母様にお願いしてみました。

「アマリリスだけ? どうしたの? ヴィーちゃん、アマリリスを気に入ったの?」

いきなり私がアマリリスをご指名だったので、お義母様がキョトンとしています。

「あ、えっと、そうじゃなくて……いや、そうなんですけど……ええい! あのですね、アマリリスはロータスとお付き合いしているので、できたら引き離したくないなぁって思ってるんです!」

「えっ!?」

「ほんとに!?」

「あっ! 若奥様!」

どう説明しようか迷ったんですけど、義父母たちはとっても優しくいい人達なので正直に話しても大丈夫だろうと勝手に判断した私は、アマリリスたちのことを義父母にカミングアウトしました。

驚き固まる義父母。

真っ赤になるアマリリス。……勝手なことしちゃってごめん! でも、これで反対されたとしても、絶対私がなんとかするから!

動かぬ義父母をじっと見つめていると、

「……アマリリス、それ、本当なの?」

お義母様がしばしのフリーズから回復してアマリリスに問いかけました。ギギギと音がしそうなほど動きがぎこちないです。

「は、はい」

アマリリスがこくり、と首を縦に振ります。

「いつから、かな?」

お義父様も気を取り直して聞いてきました。

「ええ……と、旦那様たちが御領地に行かれる少し前、くらいです……」

おずおずとアマリリスが答えました。ほんとは少し前じゃないけどそこは謙虚なアマリリス、ちょっと気を遣いましたね。

「「…………」」

別棟にしばしの沈黙が訪れました。

わぁ、大丈夫かなぁ。どうしよう、やっぱり余計なことしちゃったのかな。

私や他の侍女さんたちは、三人のやりとりを固唾をのんで見守るしかできません。やだわ、この沈黙。手がじっとり汗ばんできました。

お二人はどう思うんだろうと、今更ですが私がハラハラしながら見ていると、

「な〜んでもっと早くに言わなかったの!! 知ってたら領地になんて連れて行かなかったのに!!」

そう言ってお義母様がガバッとアマリリスに抱きつきました。

「本当だよ! ロータス、なんで言わなかったんだぁ!!」

「ごめんね、ごめんね! 知らなかったとはいえ、こんな長い時間離れ離れにさせちゃって」

「すまん! 許せロータス!!」

義父母はアマリリスに……いや、今ここにいないロータスにまでしきりに謝っています。

よかった……! やっぱり義父母は優しい人達でした。

「お義父様、お義母様、ですからアマリリスをこちらに残していただけませんでしょうか?」

再度直談判すれば、

「もっちろんよ! アマリリスみたいに優秀で気の利く子がいなくなるのは寂しいけど、一人減ったくらい大丈夫。他の子がその分頑張ってくれるから」

「お義母様、ありがとうございます!」

「奥様……!」

お義母様は快諾してくれました。アマリリスがうるっとしています。

「健気なロマンスに、私もうるっとしちゃいました! あ、そうだ、お義母様!」

「なあに? ヴィーちゃん」

「アマリリスがこちらのお屋敷に戻って来るんだったら、せっかくの機会ですし、もういっそ結婚してしまう方がよくありませんか?」

「あら……そうね、そうね! いいじゃない!」

「どこかの教会でお式を挙げます? それともうちのお庭で人前式とか?」

「素敵ねぇ! せっかくだし、みんなでお祝いしたいから庭でやりましょうよ」

「お義母さまもそう思いますよね? ドレスはどうしましょう? マダムを呼びましょうか」

「そうしましょう! そしてやっぱりロータスは白の燕尾服よねぇ」

お義母様と私が、もうすっかりロータスとアマリリスを結婚させることで盛り上がっていると、

「はいはい、君たちちょっと落ち着いて〜。で、アマリリスはそれでいいのかな?」

私たちの会話に入りそびれていたお義父様が割って入ってきました。

あ、そうだ。肝心のアマリリスの気持ちを聞くのを忘れてたわ!

みんなで一斉にアマリリスを見れば、

「私はとてもうれしいですけど、ロータスが……」

微苦笑しています。そうだ。ロータスの気持ちも聞かなくちゃですよね。私ったらすっかり暴走してしまって、また忘れてました。

「そうですよお義父様! ロータスの気持ちを聞くのを忘れてましたよ!」

「よーし、ロータスを呼んでこい! 今すぐだ!」

「かしこまりました!」

お義父様がキリッと一言命令すれば、さすがは鶴の一声、侍女さんが本館にすっ飛んで行きました。

「……ということでアマリリスをこちらのお屋敷に戻すタイミングで、結婚してはどうかなと思うんだが?」

「はい……」

侍女さんに呼ばれて別棟にやってきたロータスは、初め『何事ですか?』と怪訝な顔をしていましたが、お義父様が先ほどまでのことをかいつまんで説明すると、すこし思案げな顔になってしまいました。あ、いつものことですが微妙な変化ですよ? でもどうしたのかな?

はい、と返事したまま黙るロータスに、みんなも口を開けません。

そんなロータスの雰囲気にアマリリスも不安げな顔になってしまうし。

ちょっと今、別棟の居間は空気悪いです。どうしましょう!?

ハラハラしながら見守っていると、

「……ここで簡単に『そうしましょう』と答えてしまうと、まるで大旦那様たちに結婚しろと言われたからした、みたいになってしまうのが困りましたね」

顔をふっと緩め、微苦笑したロータスが言いました。

え? どゆこと?

何か不都合あるのかと首をかしげていたら、

「ここで今日、大旦那様たちに言われたからではなく、ちゃんと自分の言葉で伝えたく存じますが」

よろしいでしょうか? とお義父様に向かって言うロータス。

ああ、そういうことでしたか! そうですよね、それ大事なとこですよね!

「もちろんだ!」

大きく頷くお義父様。

ロータスはお義父様から許しをもらうと、まだ不安そうにロータスを見つめいているアマリリスの元へ近づいて、

「アマリリス、王都に戻ってくるのなら、私と結婚してくれますか? 長いこと待たせてしまって申し訳なかったです。これからは一番近くで、あなたを守りたい」

跪き、アマリリスの手を取りプロポーズの言葉を言うロータス。

……めっちゃかっこいいじゃないですかコラ。みんなの前で公開プロポーズ! きゃ〜!

アマリリスを真っ直ぐに見つめるその真摯な瞳が、ここにいるみんなのキュンをかっさらっていきましたね。ちなみにお義父様もキュンってしてたよ!

当のアマリリスは、顔を真っ赤にして、

「はい……はい……」

って、何度も何度も頷いて。

「よかったね、よかったね! 私、泣けてきちゃいました〜!」

「ほんとね〜」

お義母様と私は二人手を取り合って喜びを分かち合っています。

「感動のプロポーズも済んだことだし、お式のことをみんなで相談しなくちゃ!」

「そうですね、お義母様!」

私たちがもうすっかり結婚式を挙げる体で進めていると、

「いや、まだそこまで考えておりませんから」

そう言ってロータスが止めに入りました。

ちょ、何言ってんですか! 結婚式なんて一生に一度きりなんですよ、しないなんておかしい!

「絶対しましょう! ね、アマリリスもしたいでしょ? ロータスだって、アマリリスの花嫁姿見たいでしょー!」

「それは……」

「そうでございますが」

アマリリスもロータスも、お互い顔を見合わせていますがまんざらでもない様子。これなら少々強引に押し進めても大丈夫でしょう!

「私はお屋敷の庭園人前式がいいなぁって思いますけど」

「いいじゃない、素敵よ!」

「お義母さまもそう思いますよね!」

「式が終わるまで領地には帰らないぞ〜! 予算はふんだんに使っていいから、納得のいく式にしよう」

「そうですね、お義父様!」

「早速マダム・フルールをお呼びしますわね!」

「ステラリア、頼んだわ!」

「他の使用人たちにも知らせてきますわ!」

「ベリスにも、庭のことを連絡してきます!」

「お願いね!」

義父母に私、そして侍女さんたちがウキウキと動き出しました。

それを苦笑しながら見守るロータスとアマリリスです。

内輪だけのアットホームな式がいいと二人が言うので、親御さんと、あとはお屋敷の使用人さんたちだけのささやかな式にすることにしました。もちろん場所はお屋敷の庭園ですよ!

「このたび、ロータスが結婚することになりました!」

「ええ!? またいきなりだね?」

旦那様が帰ってきてから、私は一番に今日のことを報告しました。だって今日のビッグニュースですからね!

いきなりの話に旦那様は驚きを隠せないようで、ロータスと私を交互に見ています。

「そんな、結婚するような素振りも見せたことなかったのに……」

「か・ね・て・か・ら お付き合いのあるアマリリスと結婚するんです。お義母様の侍女さんのアマリリスです」

「へえ、そうだったのか。知らなかったよ」

私が「かねてから」を強調すると、きゅっと眉をあげた旦那様。

「本当はもっと早くに結婚していてもおかしくなかったんですけど、ロータスが 忙しくて(・・・・) 今までチャンスを逃していたんです」

「え……?」

「本当はアマリリスが御領地に行ってしまう前に結婚できていたらよかったんですけどね」

「ええーと……領地に行く前って」

「お義父様たちがサーシス様に家督を譲って御領地に隠居される時ですよ」

「あ〜……。そんなに前から付き合って……」

だんだん私の言いたいことがわかってきたのか、旦那様の目が泳いでいます。

「まあ、そのことについてはあとでお話があります」

「わかったよ……」

とどめにニコッと笑いかければ、降参とばかりに肩を落とした旦那様でした。