軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

雨の日

長雨が続いています。

ここ王都ロージアでは年に2回、ひと月ほど雨が降り続く時期があるのです。

公爵家に来てから初めての雨シーズンの到来です。

雨の日は基本暇です。掃除にしたって洗濯にしたってできることが限られてくるので、少量の仕事ならば使用人さんたちでやってしまう方が早いですし、さすがに彼らの仕事を奪うことはできませんからね!

侍女さんたちと楽しく朝食を摂ったあと、私は私室の快適ソファの上で身悶えていました。こういうことをするのも公爵家に来た初日以来ですね~。

「暇、暇、暇~! でも刺繍はしたくない~。レース編みも無理~。身体が鈍っちゃう~!」

「奥様……」

じたばたする私を、ダリアとミモザが呆れながら見守っています。でも仕方ありません。毎日お邸中だけでなく、広大な庭園のあちこちをちょろちょろしている私にとって、部屋で奥様的に優雅に時間を過ごせと言われるのは苦痛に等しいのです! そりゃあ読書とかはしますし、好きですよよ? でも日がな一日、かつ何日もそうして過ごせるかというと、それは『否』です。発狂してしまいます。本も好きだけど動くのも好きなのです。自分で言うのもなんですが、静と動のバランスが取れてるのですよ!

しばらくソファの上でのたうちまわっていると、部屋の扉が軽やかにノックされロータスが入ってきました。

「奥様、お時間を持て余しておられるようでしたらダンスのレッスンなどされてはいかがでしょう?」

ロータスがにこやかに提案してきました。

「ダンス、ですか?」

思っても見なかった提案にキョトンとなる私。どこでどうやったらそんな提案につながるのでしょうか?

「そうでございます。ダンスならば体も動かせますし、いざという時に身に付けていて損はないかと思われますので」

「……私に『いざ』って時は来ないと思いますが~」

ただ今もこれから先も、ダンスが必要なお付き合いの場に出る予定はないんですけど?

「まあそうおっしゃらずに」

それでもにこやかに食い下がってくるロータスです。なんでしょう、この圧力を感じるいい笑顔は。なんだか断れない気がするのは私だけでしょうか?

「~~~~。ワカリマシタ」

「では、レッスン場にご案内さしあげます」

根負けした私が渋々承知すると、さらにいい笑顔になるロータスでした。

一応社交界デビューはしている私です。

一応社交ダンスはできます。

でも所詮『一応』でした。

「目線は下げない! 口角が下がっておいでです! 笑顔は貼り付けて!! 背筋は真っ直ぐ!!!」

容赦ない指導がビシバシ入ってきます。

「はいぃぃぃぃ~~~!!」

情けない声で返事をするのがやっとの私。苦しくったて~悲しくったって~……泣きたいわっ!

ロータスは鬼コーチでした。

ロータスはダンスのレッスンコーチのお免状を持っているらしいので、とってもお上手です。対する私というと、パーティーなんかで『一応』踊れますレベルなので、ロータス先生から見れば改善の余地ありまくりなわけですよ。

もうほんと、基本の姿勢からやり直させられました。

「これから雨の日はダンスのレッスンをいたしましょう。奥様はなかなか筋がよろしゅうございます」

いい笑顔で爽やかに言ってくれましたが、私は壁際のソファでグッタリーネのバッタリーネですよ! 午前中だけのレッスンだったにもかかわらずこの体たらくです。

ああもう、ロータスの笑顔の圧力に屈するんじゃなかったと後悔しました。

『暇つぶしにいい運動』の範疇を思いっきり超えた厳しいダンスレッスンの後、軽く昼食を摂って私室でグロッキーな私。

「まあ、奥様! まだお疲れが取れませんの?」

そう言ってミモザが、ソファに伸びている私に近付いてきました。

「結構きつかったですからね~! ロータスは鬼ですよ、鬼!」

あ~もう、身体のあちこちがぎくしゃくしています。これは明日、完全に筋肉痛コースですよ!

自分で腰をもみもみしていたら、

「相当しごかれたようですわね。明日にお疲れが残るのもよろしくありませんね。ここは奥様、私たちにお任せください!」

そう言ってとってもいい笑顔で微笑むミモザ。うん、さっきもこんなシチュありましたね。そしてこういう笑顔には、断れない圧力が存在するのですよね。

「わ、わかったわ」

私がぎこちなく微笑んで答えると、

「では少々お待ちくださいませ!」

そう言うとミモザは、はやての如く私室を飛び出していきました。

数分後、ミモザは数人の侍女さんを連れて戻ってきたかと思うとおもむろに、

「これからわたくしどもで奥様をピッカピカに磨かせていただきますわ!」

と言って、またいい笑顔で微笑みました。

……次は何が起こるのでしょう?!

数時間後。

私は頭の先からつま先まで、ピッカピカに磨き上げられていました。そうです。エステのフルコースだったのです!

「私、ずっとこうしたかったんですのよ! 奥様はまだまだ磨く余地がおありですから、これからが楽しみですわ~」

そう言えば、ミモザは折に触れ私を着飾らせよう、磨こうと己の手をワキワキさせていましたからね!

念願かなったからか、ものすごく満足気なミモザ。

しかし私はというと、確かに肉体的疲労は取れましたが、精神的な何かが削り取られたようです。侍女さん数名にもみくちゃ(いやごめん、マッサージよね!)にされ、いい香りの香油を塗りこめられ、仕上げにいつもとは違ったヘアメイクを施され、お仕着せではなくドレスを着せられ。

確かに素敵な奥様は完成しました!

「……素敵ね、アリガトウ……」

鏡に映る私はまるで別人のようです。いや~、メイク技術の高さ、ドレスやお飾り類のチョイスのセンスの良さ、素晴らしいものを持ってますミモザさん。あまりの変身っぷりに思わず『特殊メイク?』と疑いそうでした!

セレブな奥様って、毎日こんなことしてるのよね? ……私には向いていないことが判りました。使用人ライフ万歳!! ナチュラルメイク、ひゃっほーです!

お邸内をうろちょろしている日よりも確実にぐったりした私。

半分魂をどこかに飛ばしながらも、いつも通りダリアとミモザと一緒に晩餐を採るため使用人ダイニングに向かう時、ダリアが一言。

「これから雨の日は今日のように過ごすのがよろしゅうございますね。なかなか充実にお見受けいたしましたわ」

にっこり。

ダリアの笑みにも抗えない何かを感じ取りました……。