作品タイトル不明
変化
なるほど、バーベナ様のための夜会だったのですね。
若いご子息方につられて(?)、若いお嬢様方の参加率も高まる。だから若い人の参加率が高かったのですね。納得です。
バーベナ様から旦那様を奪ったような形になってしまっている私としては、ぜひとも立場を代わって差し上げた……「ヴィー。今何かおかしなことを考えましたね」そう言うと旦那様が、ぎゅううって、つないだ手にやたら力を籠められましたよイタイイタイ。
「滅相もない!」
旦那様が私の心を読んだ~?! あれあれぇ? 口に出してないはずなんだけどなぁ??
急いで否定しましたが、私を見下ろす旦那様が氷の王子様のようになってます。
おずおずと上目遣いに見上げれば、
「ヴィオラの顔を見ればわかります」
顔に書いてあったそうです。
……こほん。立場を代わって差し上げることはどうやらできなさそうですので、この夜会でバーベナ様には是非とも素晴らしいお方との出会いがあればいいなと願わざるをえません。
ひととおり挨拶まわりも終えたので、私たちはお次のサファイア見せびらかし作戦・ダンスをしようということになりました。
曲の切れ目を待つ間、ダンスをする人たちを眺めていると、
「おや、バーベナ……?」
旦那様がダンスをしている人たちの中にバーベナ様を見つけたようでハッとされたのですが、ちょっと様子が違います。
なんでしょう、ちょっと困惑したような?
「バーベナ様、どちらにいらっしゃいますの?」
私も旦那様の視線を追って探しますが、それらしき人が見当たりません。
ワタシ的には、バーベナ様とは一度しか――前回の夜会ですね――お会いしていませんので、はっきりと覚えているかと言われたらあやふやなんですけどね!
確か豊かな金の 御髪(おぐし) を立て巻きにした、スタイルもドレスもいろいろゴージャス系のお嬢様だったような……ん? 某愛人さんと何かが被る……。
まあそれはおいといて。
記憶を頼りにバーベナ様を捜すのですが、一向に見つかりません。
「あそこです」
きょろきょろといつまでもバーベナ様を見つけられない私に、旦那様が指し示してくださいました。
「あ~……ええっ?!」
はしたなくも大きな声を上げてしまったので慌てて口を押えましたが、思わず二度見してしまいましたスミマセン。
示された先にいるバーベナ様が、記憶の人と全然違うっ!!
どこかのご子息とダンスをしている本日の主役・バーベナ様ですが、私の記憶の中のゴージャスなバーベナ様ではないのです!!
旦那様もどこかぽかんとした感じでバーベナ様を見ています。その反応から見るに、旦那様の中のバーベナ様でもないようなので、やはり変わっているのでしょう。
前回のバーベナ様は、スタイルの良さをことさら強調したシルクのフリルもふんだんに盛られた重厚なドレスに、これでもかとぐりぐり巻かれていた金の御髪というゴージャススタイルでした。
それが今日は、光に煌めく金の髪はナチュラルに緩やかに編み込まれて背中に流されています。小花なんかを散らしてキュートです。そしてドレスは、バーベナ様のナイスバデーを引き立たせるようなシンプルなデザインのドレスに変わっています。マゼンタ色がよくお似合いです。
……って。
「旦那様、バーベナ様がとっても変わられたように思うのですが」
ひそひそ。
「ヴィオラもそう思いますか。僕も同意です」
こそこそ。
二人でこそこそとバーベナ様の観察結果を耳打ちし合います。
じろじろと見過ぎたのでしょうか、私たちの視線に気が付いたバーベナ様が、こちらをじとんと睨んできました。ちなみにそのじと目は、ダンスパートナー様からは見えないところでやってましたのでちょっと安心です。
でもよかった。私の記憶違いじゃなくて、ちゃんとバーベナ様だ~!
でも何がバーベナ様のイメチェンを促したのでしょうか?!
旦那様と二人、秘かに唖然としながら踊るバーベナ様を見ていると、
「ヴィオラ様! お久しぶりでございますわね!」
不意に後ろから声を掛けられました。
聞き覚えのある声に、ずっと追っていたバーベナ様から視線を外して後ろを振り返ると、そこにはアイリス様以下、いつもの夜会メンバーがいらっしゃいました。
パーティー参加率はほぼパーフェクト、なおかつ今日は選りすぐりのご子息が集まる夜会ですから、この方たちがきてないわけがないですよね~!
でもアイリス様、いつもピラピラフリフリ、かわいらしい色とデザインを好まれていたのですが、今日は落ち着いたホリゾンブルーの、シンプルなドレスを着ています。え、なに? アイリス様までイメチェン?!
「アイリス様、お久しぶりでございます! ……今日はいつもと違った雰囲気ですのね?」
アイリス様には直球で聞いてしまいました。
アイリス様は、私がイメチェンに気付いたことがうれしかったのか、
「うふふふふ! 気付いてくださったのね! これ、前にヴィオラ様が着ていらっしゃったドレスのデザインをアレンジしてもらったんですのよ。最近はシンプルなドレスが流行りですから」
そう言ってふわり、とその場で華麗なターンを見せました。おお、そう言われてみれば、どこかで見たことのあるデザインかも?
「とってもお似合いですわ! アイリス様、私と違ってスタイルがよろしいですから、ドレスのラインがとてもきれいに出ています~!」
スレンダーだけど私と違うアイリス様(どこがなんてあえて言いませんよ!)ですから、女性らしいラインがとっても綺麗です。マダムも仕立て甲斐があっただろうなぁ。
う、うらやましくなんてない! ないものはない。仕方ない!
私が素直な感想を言うと、
「私なんてまだまだ。流行りはヴィオラ様のようなスレンダーですもの」
大袈裟に眉をしかめるアイリス様と、
「そうですわ。さすがにわたくしもこの流行りに乗り遅れまいと減量に励みましたもの!」
そう言って一歩前に出てきたのは、クロッカス伯爵令嬢。
おおっ! ややぽっちゃりさん……ふくよかだったのがふつうになってます!!
あとの二人も、シンプルな感じのドレス。
え?! なに? 私が社交界に顔を出さない間に何があったの?!
バーベナ様といいアイリス様たちといい、流行が変わったから?
盛り盛りゴージャス系からシンプルスタイル重視系へと、ガラッと雰囲気が変わったのに驚き周りをよく見ると、確かにシンプルなドレスを着た人が多い気がします。主に若いご令嬢方に。
そう言えば、先日私のドレスを作りに来たマダムとステラリアが『最近はシンプルなドレスが流行りだ』って言ってましたねぇ。私が着てたのと同じようなデザインのドレスを、って注文が増えたとも言ってましたねぇ……。これかぁ……。
一瞬眩暈を覚えました。
「そうか、ドレスの流行りが変わったのですか」
それまで黙って私たちの話を聞いていた旦那様がアイリス様に向かって言うと、
「そうでございますわ。若い娘はみんな、ヴィオラ様に憧れていますもの! でもやっぱりヴィオラ様には敵いませんの」
少し顔を赤らめながら、アイリス様が答えましたが私は騙されませんよ、それ、絶対嘘です、社交辞令です! 誰がこんなツルペタ地味娘に憧れるんですか!
「そんなことないですわ。誰かと私を間違えてるんですよ、きっと! ほら、私ってあんまり夜会とか行かないじゃないですか~」
と、私はアイリス様の社交辞令をきちんと理解して反論しているのに、
「そうでしょう! そうでしょう! みな、ヴィオラの素晴らしさを解っているんですね!」
満面の笑みで社交辞令をもろに受け止めてる人がいました。……私の隣に。
待って、旦那様! それはまともに受けちゃダメなやつですよわかってます?!
やばい、これ。前回の夜会の二の舞になるっ!!
旦那様が暴走する前に止めないと、また訳の分からない『奥さん自慢』という羞恥プレイまっしぐらになるっ!!
旦那様がおかしなことを口走る前に何とかしないと! と焦る私。ああもういっそその口をこの手でふさいでやろうかと思ったその時。
「あ~いたいた。団ちょ……じゃなかった、ふくたいちょー。奥様もこんばんは~」
と、なんともゆるーい口調で現れたのは、なんとユリダリス様でした。
いつもの凛々しい騎士服と違って、今日は夜会用の燕尾服姿。シックな青鈍色が似合っていて素敵です。片手を上げ、フランクな感じで笑いながらこちらに寄ってきました。
ユリダリス様、マジ救世主!!
「なんだユリダリス。人がせっかくヴィオラのいいところをお嬢様方に語ろうと思ってたところを……「こんばんは、ユリダリス様! ユリダリス様もいらっしゃっていたのですね」」
一瞬でそれまでの微笑みをかき消して苦虫を潰したような顔になった旦那様でしたが、私は逆に最高の笑みでご挨拶です。旦那様の苦情は聞こえないよ☆
「今日はプルケリマ侯爵家の三男として出席しろと、脅迫状……ではなく招待状が届いたもので」
私に今夜の夜会の参加理由を説明してくださるユリダリス様は、ちょっと苦笑いしてみせました。
「まあ、脅迫状というのは近いものがあるな。セロシアが、わざわざ近衛の屯所に来て、丁寧にわかりやすくユリダリスの机の上に置いていってたからな」
「執政官、卑怯ですよね~。しっかり副隊長に見えるように置いていくなんて。あれじゃ招待状を人知れず闇に葬ることなんてできないじゃないですか」
「あいつはそんなやつだ」
面白そうに笑う旦那様とげんなりしているユリダリス様です。旦那様、セロシア様のこと言えないくらいアナタも黒いと思いますけど……。
なんだかんだ言いながら仲のいい旦那様とユリダリス様を見ていると、
「プルケリマ前特務師団副団長ですよね?」
アイリス様が、私にこっそりと耳打ちしてきました。
「ええ、とっても面白くて素敵な方ですよ」
私も同じように囁き返します。
「お仕事もおできになるってお聞きしてますわ。そして性格もよさそうですし、素敵な方ですわよね」
そうつぶやくアイリス様の瞳がきらり、と光ったような気がしたのは気のせい?!
アイリス様、ユリダリス様にまさかのロックオンでしょうか?!
旦那様と話しているユリダリス様を、眼光鋭く見つめるアイリス様。
「おっしゃる通り素敵な方ですわ! おほほほほ!」
びくびくしながら笑ってごまかす私に、
「公爵様と並んでいても見劣りしないなんて」
うっとりとした目でユリダリス様を見るのはクロッカス伯爵令嬢。
「騎士服を着た姿をお見かけしましたけど、あちらは凛々しくてさらに素敵でしたわ」
と言うのはナスターシャム侯爵令嬢。
「今夜ここに来ているということは、婚約者もいないということですものね」
こちらもきらりと瞳を煌めかせるのはコーラムバイン伯爵令嬢。
えーとみなさん? 仲良しグループで同じ人にロックオンしたら、この先に見えるものは修羅場しかないですよ?
「素敵なのはユリダリス様だけではありませんわ! 今日こちらにいらしている方、みなさん違ったタイプの素敵な方ばかりで目の保養になりますわよね! 目移りしちゃう!」
四人で一人の取り合いになっては困ると焦った私は、とっさにおかしなこと口走っちゃいました。いや、事実なんですけどね、事実なんですけどね……。
間が悪く、ちょうど旦那様たちの話が途切れたところだったようで、
「ヴィー。どういうことかな? 素敵な方ばかりだから目移りするんですか?」
ユリダリス様と話していたはずの旦那様がこっちを見て微笑んでいます。キラキラ微笑なのに威圧感ハンパないです。しかしなんでそんなビミョーなとこだけ聞き取るかなぁ。
そしてまたぎゅう~って手を握ってきました。指が絡んでるから地味にイタイ!
「今日は目移りしちゃくらい素敵な方ばかりですけど、やっぱり旦那様が一番素敵だな~って言おうとしたとこだったんですよ~! あはっ☆」
絶妙に誤魔化したつもりなんですけど。
「ふ~ん。まあ、話はあとでじっくり聞かせていただきましょうか」
「話します話します、じっくり話しますとも!」
にこ~っと氷の微笑の旦那様と、にこ~っと引きつり笑いの私。お屋敷に帰ったらすぐさまロータスの背中に隠れようっと。
お互いに微笑んではいますが睨み合いのようになっていると、
「う・ふ・ふ! 公爵様とヴィオラ様、いつも仲睦まじくいらっしゃって羨ましいですわ~! 本当、ヴィオラ様ってば愛されてますわねぇ」
ニマニマしながらアイリス様がそっと耳打ちしてきました。
「へっ?! え? や、これは……」
不意打ちにビクッとなる私。
あ、愛されてる?!
…………。
…………。
…………。
すぐさま否定できないですね……。