作品タイトル不明
うまくいくことだってあります
大忙しの秋が終わり、冬の到来となる12月。
山の木々は葉を落とし、冬眠する小動物などは姿を消して、しんとした空気を湛える季節。
ダスティン領の冬は比較的緩やかだ。雪が積もることもほとんどないそうで、過ごしやすい土地なのだとか。寒いのが苦手な私としてはありがたい。
冬は畑仕事もほとんどなく、人々は家で過ごすか、出稼ぎに出ることが多い。男性陣は食糧の調達に弓を手に山へ狩りに出る者もいるし、女性陣は縫い物や編み物などの内職に精を出す。作りためたものを定期的にやってくる行商人に売ってお金を得るのだ。
我が家でも冬の備蓄づくりが一段落ついたところだった。秋の間に山で狩った獲物や家畜の豚などを絞めて、燻製肉や干し肉を作る。これは大仕事なので領内をあげての作業になる。領内をいくつかのグループに分け、グループごとに獲物を調理し、分配しながら毎年皆で冬支度をするのだ。
屋敷でも大勢の領民が集まって11月の間に作業を終えた。我が家の場合は社交シーズンの始まりに合わせて例年王都に移り住むが、ロイとマリサは屋敷に残る。ただ両親との話し合いの末、今年は継母も私と一緒にこちらに残る予定だ。そのためいつもより準備に余念がなかった。
ちなみに干し肉作りの様子を見てあることを思い出した私は、サツマイモを蒸した後に薄くスライスし、水気をよくとってから天日干ししてみた。2週間ほど放置しておくといい感じにひからびた干し芋が出来上がった。食べてみると悪くない味で、これも備蓄に加えられることになった。
細かい成分は覚えていないが、干し芋は栄養価も高かったはずだ。健康的に冬を過ごせるいい食材ができて安心材料が増えた。来年はサツマイモの作付けも増やそうと、父が今からはりきっている。
そして12月といえばそう、秋植えじゃがいもの収穫の時期だ。じゃがいもは誰の目から見ても明らかなほどの成長を見せていた。勢いのいい畑を見つめ、父は大層驚いていた。
「なぜこんなによく育つんだろう、秋に植えた方が調子がいいんだろうか……、いやでも、植物図鑑にはそんなこと書いていないし……」
植物図鑑は歴代の植物学者や地質学者たちが記したかなり大掛かりな書物だ。国の叡智とも言える書籍に説明がないものを、あっさりと信じるのは難しい。
このタイミングだ!と思った私は、わざと無邪気な表情を浮かべて隣の父を見上げた。
「どうしてなんでしょう、もしかして肥料がよかったのかしら」
「肥料? おまえ、肥料なんか使ったのかい?」
「えぇ。作物がよく育つには肥料が必要って本に書いてあったので」
「何を混ぜたんだい?」
「灰です。灰を土に混ぜてみました」
「灰だって!? なんでまた……」
「だってじゃがいもとサツマイモを美味しくしてくれたものだから、土にもいい栄養になるんじゃないかなって思って」
アンジェリカの灰すっとぼけ大作戦を発動しながら小首をかしげる。父は目を白黒させながらも現実と向き合おうとしてくれた。
「灰が農業の助けになるとは初めてきく話だが……しかしこの成長具合は驚きだ。こんな大きなじゃがいもはうちでは今まで見たことがない」
父はわずかに土から顔を出したじゃがいもに触れ、土を払った。その一房だけひっぱりあげると、鈴なりになったじゃがいもが姿を見せた。
「大きさもだが数も多い。ひとつの種芋からできる数は決まっているんだが……おそらく春植えのときより栄養分が行き渡ったおかげで、本来の数が実ったのだと思う。アッシュバーン領で騎士として伺候していた頃に、西の農業地帯で馬の飼料確保のために畑作業を手伝ったことがあるんだが、そこでとれたじゃがいもと大差ない出来だ。この実りがうちでも穫れたらなぁと羨ましく思っていたんだが、それが思いがけず叶ったような気持ちだよ」
まだ信じられないという表情を浮かべて父が呟く中、私は心の中でにんまりした。おとうさま、原因はおそらく土壌の成分です。灰でそれが解決することが証明できそうなので、ダスティン領の農業の今後はきっと明るいはずです。
「とにかく、完全に葉が枯れてしまえば収穫のしどきだ。まずはすべて掘り起こしてみよう」
「はい!」
新たな希望となりうるじゃがいも畑を見ながら、勢いよく返事した。