軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ただ開店するだけでは面白くありません1

街に到着した翌日は、私も両親も朝からお店の開店準備を手伝った。

サリーがじゃがいもの下拵えをし、ルシアンと継母がパイを焼き、父は鶏の丸焼きの準備にあたった。ダニエルさんは大量のマッシュポテト作りに奮闘中で、サリーの娘のケイティはキッチンで新しい料理に挑んでいる。

私はじゃがいもが入ったスープの面倒をみたり、グラタンの仕込みを手伝ったりしてばたばたと過ごした。なんとか夕方には料理を終え、これで開店準備が整った。

その足で私たちは町にある共同浴場に向かった。浴場といってもサウナのことだ。「私はまだ店の準備がありますので」と遠慮するルシアンをひっぱって、継母と私、サリーとケイティも連れて一緒にサウナを楽しんだ。一応個室もあったので、私と継母はそちらを使わせてもらった。

そうして早々と眠りについた翌朝。早起きした私たち家族は、宿泊していた宿からお店に向かった。馬車の中にはダスティン家から運んだ大きな箱がある。その箱を父が担いでお店の2階に運んだ。扉を開けてくれたサリーとケイティ親娘は心得たとばかりに箱ごと父を迎え入れた。

そして朝7時。新宅から出勤してきたルシアンは、私たちの姿を見て驚いた。

「旦那様! お嬢様もこんなに朝早くから! 申し訳ありません、私、ゆっくりしすぎてしまったみたいで」

顔を青くしたルシアンに「大丈夫よ!」と声をかけ、私は彼女の手をひいた。

「お嬢様、どちらへ? 2階はサリーたちの居室ですよ?」

「いいのいいの、話は通してあるから。おかあさま! ルシアンが来ました」

「待っていたわ」

そして扉を開け、ルシアンを部屋に押し込む。

「奥様、いったいどうなさっ……!!!」

部屋で待っていた継母を見るなり、ルシアンが驚きのあまり固まった。継母を見て固まったのではない。継母の背後、壁にかけられた白いウェディングドレスを見て固まったのだ。

「うそ、そのドレス、まさか……」

「えぇ。あなたのおうちからお借りしてきたの。亡くなった、あなたのお母様のウェディングドレスよ」

「……!!!」

目を丸くしたままのルシアンに、私は背後から声をかけた。

「あのね、今日はお店の開店日だけど、せっかくだからルシアンの結婚式もやろうと思って」

「けっこんしき……え? でも、あの」

未だ思考が追いついていないルシアンに、私は説明を重ねた。

「ルシアン、結婚式を中止するって言ってたでしょ? それはとても残念なことだし、私たちが援助するって言っても受け取ってくれなさそうだったから、どうせならお店の開店のどさくさにまぎれてやっちゃえばいいかと思って」

計画を思いついた私はまず両親に相談し、父からアッシュバーン辺境伯に提案をしてもらった。辺境伯もこの案を快く了承してくれたため、開店準備とともに結婚式の準備も進めることになった。

この話をルシアンの父親に持ちかけると、亡くなった妻のドレスを保管しているからぜひ使ってほしいという申し出を受けた。ドレスをどこかからレンタルしようかと考えていた私たちにとっては渡りに船。かくしてドレスは秘密裏にダスティン家に運ばれ、継母が細かなリメイクを施した。

「ルシアンのメイド服を参考に少しだけ手を入れたのだけど、残りは実際に着てもらわなければ直せそうにないの。だから今から大急ぎで準備するわよ」

「ルシアン、ほら早く!」

「奥様、お嬢様、ひょっとして昨日、サウナに誘ってくださったのも……」

「本当はお湯につからせてあげたかったの。あとエステとかもちゃんとしてあげたかったんだけど、ルシアン、絶対遠慮するだろうなと思って。だからサウナだけになっちゃったの、ごめんね」

私は前世で出席した数少ない女友達の結婚式を思い出していた。みんな式の1ヶ月ほど前からエステに通い、肌ケアや髪ケア、ネイルなども綺麗にほどこして、当日のまだ日が昇らないうちから準備に勤しんでいた。

この世界でルシアンのような身分の人たちはそこまで時間や手間をかけることはないのかもしれないが、それでもほとんど準備なしでいきなりドレスだけを着せるのは申し訳ない気持ちもあった。

だがルシアンは大きく首を振った。

「そんな……! こんなことまでしていただいて、お礼の言葉が見つかりません……。母のドレス、子ども心にずっと憧れだったんです。いつか私もあんなドレスを着てみたい、って」

ルシアンの涙ぐんだ言葉に、継母が「ちょうどよかったわ」と呟いた。

「さぁ、ルシアン、涙を拭いてちょうだい。まずはお化粧からよ。メイドがいなくて今日は私しか人手がないから、申し訳ないけれど本当に時間がないの。まずは鏡に座ってちょうだい。あぁ、アンジェリカ、あなたはダニエルさんの方をよろしくね」

「はい!」

「え、ダニエルって、彼が何か?」

こちらを振り返ったルシアンに、私は説明した。

「だって、花嫁だけが着飾ってちゃダメでしょう? 結婚式には花婿も必要よ。ちなみにダニエルさんとそのご両親には事前にお話しさせてもらっていたの。さすがに足を怪我した状態で、秘密に準備するのは難しかったから。彼も今、花婿の衣装に着替え中だと思うわ。ちなみにサリーとケイティも知ってる……って、ちょっと、ルシアン! 泣かないで! 泣いちゃうとメイクができなくて、準備がますます遅れちゃうわよ!」

私の説明にますます咽び泣いたルシアンの花嫁準備が始まったのは、もう少し遅れてのことだ。

階下に降りてみればそこはまさに戦争状態。サリーとケイティがくるくると動き回っている。父もかまどの火の具合を調整中だ。

私は近くに住むダニエルさん宅に走った。彼の準備はご両親が担当してくれている。そこで問題がないことを確認してから店に戻り、料理の仕上げを手伝った。

外は見事なくらいの秋晴れだった。夏の盛りもとっくに過ぎて、透き通った青空がどこまでも高い。

開店はお昼の12時。その時刻に神官を呼んでいるので、まずは結婚式が執り行われる。

料理の準備にも目処がたった頃、私はお店の表に飛び出した。壁には緑の冴え冴えした文字で「ポテト料理教室」と書かれたカントリー調の看板がある。

看板を背景に、私は声をあげて手元のビラを掲げた。

「町ゆく皆様にお知らせです! 今日はポテト料理教室の開店日、そしてこのあとお昼から結婚式が執り行われます。新郎は皆様ご存知ダニエルさん、新婦はダスティン領からお嫁にきたルシアンです。特別な日ですから皆様にはポテト料理をご披露します! もちろん無料、花婿と花嫁のお祝いに、みなさんどうぞ駆けつけてくださいね!」

大声で宣伝しながら立ち止まる人にビラを渡す。みんな天使のような(って自分で言う)幼女ににっこりと微笑まれれば、受け取らずにはいられない。

こうして手持ちのビラがなくなるまで、私は看板娘よろしく、通りの端から端まで練り歩いた。

さぁ、いよいよ始まるぞ!