軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

良い子は早く寝ましょう1

(なぜこうなった……)

胸に枕を抱えた私は、もう片方の手でこめかみを押さえ呻いた。

なぜ私がこんな「考える人」よりも深い苦悩のシワを刻んでいるのか——それは目の前の光景が信じられず、到底受け入れられなかったためだ。

(……ありえない)

これを信じて受け入れろというのか——いや、無理だ。

よし、やっぱり帰ろう。両親の待つ部屋に帰ってさっさと寝よう。私に安らかなる眠りをもたらすのはあの場所だけだ。

だがしかし。

くるりと踵を返した私の後頭部に、突然「ぽふっ」という、音からは想像できないなかなかな衝撃が喰らわされた。

「あ、アンジェリカに当たっちゃった。ごめんね」

振り返れば天使のような寝巻き姿の少年——我が国の王子・カイルハート殿下——が、てへ、という擬音がぴったりの表情で小首を傾げていた。ここまでくると一周回ってあざとい気さえしてくるのは、さすがにもう慣れてきたからなのか。

少々むっとしながら、それでも黙って部屋を立ち去ろうとした私にさらなる追い討ち——別の枕——が飛んできた。

「あ、アンジェリカに当たっちまった、すまん」

ベッドからひょっこり覗いたのは、くすんだ金色の麦わら頭。彼の隣にはなんとも形容し難い表情の長髪の少年の姿もある。今は湯あみを終えた後ということで、髪はまとめず流したままの姿だ。

(なぜ……)

我が国の次期王太子と称される王子殿下と、我が国の防衛の要である辺境伯爵家の御曹司の1人が、揃って枕投げに興じているのだろう。そしてなぜもうひとりは止めもせず、残念な達観した表情で眺めているのだろう……。

いや、百歩譲ってそれらは許そう。世の中には見て見ぬふりをしなければならないことも多々あるのだと、三十年以上生きてきたこの身は十分理解しているから。

——だがしかし。

ふつふつと胸に湧き上がってくるものを、私はついに抑えきれなくなった。

「なんで私がそこに巻き込まれることになったんですか——!!!!!」

心の叫びがつい口の端にのぼってしまったことに、動転した私はしばらく気づけないでいた。

ことの発端は数刻前。

私たちは辺境伯夫妻主催の晩餐に招待されていた。出席したのは辺境伯夫妻、伯爵翁様、ミシェルにギルフォード、私の両親、私、そしてカイルハート殿下だ。

晩餐の中心はゲストである殿下だが、実際のところは大人中心にどうしてもなってしまう。子どもが口を挟んではいけない場だとわかっているので、ギルフォードですらおとなしくしていた。そのおかげもあってか、夕食は和やかに進んだ。

だからそこまでは問題なかった。問題はそのあとだ。

さぁ今からお風呂に入るぞと準備をしていた最中、部屋にノックの音が響いた。

「失礼いたします」

入ってきたのは先ほど私にドレスを着せてくれたメイドさんのひとりだ。彼女はパトリシア様からの伝言を預かっていた。

「アンジェリカをパジャマパーティに招待したいですって?」

継母とともに私もぎょっとした。パジャマパーティ? なんだそれ。

「はい、カイルハート殿下は滞在中、坊っちゃま方と一緒にお休みになっておられます。アンジェリカ様ももしよろしければとのお誘いでございます」

「まぁ」

どうすべきかと振り返った継母は、父と私を交互に見たが、父は難色を示した。

「いや、しかし、殿下方に何か失礼があってもな……」

ぶんぶん、と私も強く首を縦に振る。彼らと一緒に寝るとか、なんの拷問だろう。生理的に受け付けないとかそういう話ではなく、精神衛生上の話だ。たぶん緊張して眠れない。

「ご心配には及びません。坊ちゃま方がおやすみになるまではメイドが必ずつきそいます。パトリシア様も頻回にいらっしゃいます」

メイドの完璧な答えに、父は「いやしかし……」と言葉を濁した。頑張れおとうさま! 貧乏だけど男爵だよ!

「あなた、よろしいのではなくて?」

「おかあさま!」

それ助け舟じゃないから!

「いや、だが、アンジェリカは女の子だし」

「まだ5歳の子どもですよ。それに、スノウとフローラが泊まりにきたときも同じベッドで眠ったじゃないですか」

確かにそんなことはあった。だけど彼らはほら、弟と妹みたいなものだから。身分的にもさほど大差ないし、一応親戚だし。

「せっかくのパトリシア様のお誘いですもの。それにアンジェリカは礼儀正しいから、問題をおこすこともないわ、きっと」

そんな感じの会話が繰り広げられ、私にも意見を求められた。当然のごとくぶんぶんと今度は首を横に振ったのだが、「まぁ、これも経験よ」と意味のわからない継母の言葉でまとめられ、父も私もそれ以上何も言えなくなってしまった。