軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

私は端っこで結構です2

大人たちのテーブルの正面に立ち挨拶するのは、現アッシュバーン辺境伯爵、ギルフォードのお父様だ。初めてお目にかかったが、顔立ちは伯爵翁様やギルフォードに似ている。

その隣に立つ水色のドレスを着た女性は、アッシュバーン辺境伯夫人だとすぐにわかった。ミシェルそっくりだ。当然ながら二人ともまだ若い。30代という年齢は前世の私と同じで親近感が湧いた。

「皆さん、本日は我が息子、ギルフォードのためにお集まりいただき、誠にありがとうございます。おかげさまで息子も無事6の歳を迎えることができます。本日はささやかながらその前夜祭として、夕食会を準備させていただきました。どうぞごゆるりとおくつろぎください」

いったん言葉を切った辺境伯様は着席せず、起立のまま次の言葉を続けた。

「なお、本日は息子のために遠方よりお祝いに駆けつけてくださった方がおられますので、皆さんとご一緒にお迎えしたく思います。ご紹介しましょう、我がセレスティア王国の小さな太陽、カイルハート・アイゼンベルク・セレスティア殿下です」

辺境伯様の発言に一瞬どよめきが走った。あれ? みんな知らなかったのかな。おとうさまはベイルから聞いたって言ってたから、てっきり全員の耳に入っている情報だと思ったんだけど。

着席していた全員がばたばたと席を立ち始める。子ども席でも小さな悲鳴があがっていた。とくに薄紫と青とピンクと黄色の例の子猫ちゃんたちときたら、驚きのあまり全員がおなじ表情をしている。

そして拍手に包まれながら、まずミシェルが扉を開け、誘導されたカイルハート王子が姿を現した。先ほどの服から紺色の凛々しいベスト姿に変わっている。王子様といえばかぼちゃパンツのイメージだったがそんなことはなく、下は普通の黒いスラックス姿だ。

皆がかしこまる中、殿下は実にきらきらしい笑顔を浮かべての登場だった。さすが王子様。人前に慣れていらっしゃる。

本来ならここで主賓の挨拶などがあるのだろうが、何せ5歳の子ども、しかも非公式の訪問ということが強調され、そのあたりはスルーされた。招待された大人たちは挨拶をしたそうな素振りだったが、辺境伯様がそれすらさせず、ミシェルが殿下を伴いまっすぐこちらにやってきた。

「殿下はこちらでご一緒にお食事なさいます。あぁ、アンジェリカ嬢の隣が空いてるな」

「へ?」

ミシェルの言葉に私は思わず隣を見た。右隣はすでに別の少年が着席している。そして左隣はいわゆるお誕生日席というやつで、角席になっている。その席とさらに左隣、私からいうと正面の席が確かに空いていた。

(え、待って、ここにくるつもり……?)

背中を嫌な汗がつたう。4匹の子猫ちゃんたちのまるで射殺さんばかりの視線が痛い。これ、身体に穴空くやつだわ、間違いなく。

ミシェルの先導で角席に案内された殿下は、私に向かって天使もかくやの微笑みを向けた。

「やぁ、アンジェリカ。さっきは手作りのクッキーをありがとう。とてもおいしかったよ。また会いたいと思っていたんだ」

殿下の「お礼を言い忘れていたから」という続けての一言は、4匹の子猫ちゃんたちから発せられた呻き声らしきものにかき消された。

「さっきはありがとうって、どういうこと……!?」

「あの子、殿下と知り合いなの!?」

「手作りクッキーってなによ!?」

「カイルハート殿下が“会いたかった”って……!!」

いやいやいやいや会いたかったのは「お礼が言いたかったから」って言ってましたから! あなたたちの変な悲鳴のせいで聞こえなかっただけで! そして心の声ダダ漏れですからね? 殿下には聞こえないかもだけど私にはばっちり聞こえてますから! 何この不思議体験……!!!

私が目を白黒させている間に殿下がお誕生日席に、ミシェルが私の正面の席についた。すぐさま給仕係の方たちが炭酸水を注ぎにやってくる。

「あの、ミシェル様、席替えをした方がよろしいのでは? 王子殿下がおいででしたら上座をご利用いただくべきではないでしょうか」

真っ当な理由をあげつつミシェルに提案した。THE常識人の彼ならきっと頷いてくれるはず。

だが、私の予想はあっけなく潰された。

「いや、今回は非公式の訪問だからここでいい。いわゆる“招かれざる客”という奴だ」

「ミシェル、ひどい」

わざとらしく頬を膨らませる姿もこの上なく天使なお子様は、そんな嫌味もどこ吹く風で、私の方に向き直った。

「ミシェルとはいつも昼食を一緒に食べているから飽き飽きしてるんだ。だから僕はここでアンジェリカと一緒に食べたいな」

またしても爆弾発言に4匹の子猫ちゃんたちのぎりぎりという歯軋りが聞こえてきそうだった。殿下、頼むからもうしゃべらないでくれ……私の精神衛生上の問題のために。

心の底からそう思ったとき、さらに火に油を注ぐ発言が聞こえてきた。

「いいなぁ、俺もそっちがいい。おい、誰かそこの席替わってくれよ」

テーブルの中央席にいたギルフォードが、私の右隣とミシェルの左隣の男の子たちに向かって声をかけた。

「いいから! あんたはそこにいなさい!」

声は潜めたものの語気も荒く私がそれを制する。これ以上カオスにしてたまるか、あんたまでここにきたら私が子猫ちゃんたちに引っかかれてズタズタにされるのよ!

なんで俺だけ……とごねるギルフォードを視線で威嚇して黙らせる。すると殿下がまたしても新たな火種を投下してくれやがった。うん、言葉遣いな。

「アンジェリカはギルフォードと仲がいいんだね。……羨ましいな」

僕ももっとギルフォードとも仲良くしたいんだ、ミシェルの弟だからね、と付け加えた殿下の二言目もまた、子猫ちゃんたちのキイイイぃぃぃぃぃぃっ!!!!という鋭い悲鳴に消されたことをご報告しておきます。

……っていうか、殿下、天然なの? わざとなの?

どっちにせよいい迷惑だから! 空気読んで———!!