軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

新ビジネスを考えます1

机の上には瓶詰めの乾燥花が数種類置かれていた。それを囲むようにして集まったのは私とマリウム、それに執事のロイと、彼の奥さんでメイドのサリーだ。

「へぇ、これがトゥキルスの花ですか。いい香りですねぇ」

瓶の蓋を開けてサリーが深呼吸する。ロイも興味深そうに試しつつ、お土産に持ち帰ったサボテンの苗に目を向けた。

「この不思議な植物にこんな豊かな香りの花が咲くとは。植物はやはり奥深いですね」

もともと植物採集好きが高じてその道に進みたかったという彼は、サボテンにも花にも興味津々だった。自分でも育ててみたいと言ったので、持ち帰った苗を預けることにした。

「こっちは精油と香油よ。どちらもマリアさんのお手製らしいわ」

新ビジネスを展開するに当たって、リカルド様の姉であるマリアさんも協力してくれることになった。トゥキルスでは製品として精油も香油も出回っているが、手作りしている家庭も多いのだとか。植物のエキス100パーセントの精油も、そこに油脂を混ぜて肌や髪につけられるよう調合した香油も、サボテン本体よりもはるかに高価なため、富裕層しか手にすることはない。庶民にとっては花びらのサシェの方がずっと手に入りやすい。

マリウムが試しにと適当に花びらをブレンドしたあと、スポイドを使って精油を一滴垂らした。途端にふわりとした異国の香りが立ち上がった。

「驚いた。香りが増幅されましたね」

「本来の精油と花びらとはまた違った香りになりました。面白いですね」

サリーとロイが目を丸くしつつ、マリウムの手元を見つめる。

「そうなのよね。これ、花びらのブレンドの具合をちょっと変えるだけで香りが面白いくらい変わっていくのよ。たぶんこの精油は普通のバラとか百合とか、こちらの植物とも相性がいいはずよ」

マリウムが嬉々として別の花びらの瓶を手に取る。

「ねぇ、お嬢ちゃん。やっぱり香りを打ち出す商品にするんでしょう?」

「そうね。この独特の香りを使わない手はないわ」

「だとすればやっぱりサシェかしらね。あとは精油や香油を輸入するってのも手だけど」

「精油や香油は数は少ないけれど、すでにこの国にも入ってきてるわ。だから今更そんな方法で新しいビジネスを、というわけにはいかないわね」

トゥキルスとの国交は制限はされているが、完全に禁止されているわけではない。例えば王家御用達の看板を掲げるハムレット商会も、年に数度はトゥキルスに商隊を送って輸出入を行っている。その際、あちらの精油や香油を入手しては独自のルートで販売していた。乾燥花にまで目がいかなかったのは、それが庶民向けの、しかも嗜好品だったからだろう。お金と時間をかけて他国まで行ったからには、相応の実利をあげなければならない。商品が貴族向けの物や、庶民向けの実用品に偏ってしまうのは致し方ないことだ。

だがそのおかげでこんな素敵な商品が手付かずで残っていたということにもなる。ここはひとつ知恵を絞ってこの香りを商品化し、他の商会たちが良さに気づく前にリードしておきたいところだ。とはいえハムレット商会とは既に提携済みで、双子たちを敵に回すつもりはないから、この新商売のことも情報提供していくつもりだ。

そんなことをつらつら考えていると、ロイが「お嬢様」と声をかけてきた。

「この香りはとても素晴らしいですが、乾燥花という特性上、商品化の道が限られてくると思います。マリウム殿がおっしゃるようにサシェにすれば売れないことはないでしょうが、単価を高くは設定しにくいですし、何より貴族にとっての化粧水のように、日常的に利用するというわけにもいきません」

「そうね。サシェは売り方次第では貴族向けにも庶民向けにもできるけれど、爆発的に売れるものではないわね」

「その中で隣国の王族の方々を納得させるようなビジネスとなると、かなり難易度が上がりますね」

「その点はもう考えてあるわ。確かにサシェは規模として小さい商品かもしれないけれど、売り方を工夫すれば面白い商品になると思うの」

「売り方、ですか?」

「えぇ」

私は花びらの瓶と精油を手に取り、マリウムに向き直った。

「ねぇマリウム。ここにある花びらと精油を全部使っていいから、いろんなパターンのサシェを作ってもらえないかしら」

「それは構わないけれど、パターンってどれくらい?」

「そうね。ざっと百種類くらい」

「百種類ですって!?」

「あら、できないことはないでしょう。だって花びらのサンプルが5種類、精油が3種類、それをちょっとずつブレンドしたら数十種類になるし、精油を変えればあっという間に百になるわよ」

「それはそうだけど……っ」

「あと、サシェっていつかは香りが褪せちゃうわよね。精油を垂らして、日にちが少し経ってから今度は別の精油を垂らしたら、また違う香りになったりするかも。その辺りも試してほしいわね」

「ちょっと待った! ストップ!」

「なぁに、どうしたの?」

いつもはイケイケどんどんなマリウムが顔をしかめてぴん、と指を立てた。

「説明してちょうだい。どうして百種類も必要なのよ」

「それは数で勝負したいからよ」

「数ですって?」

「えぇ」

私はトゥキルスで見聞きした知識と今後のプランを披露した。