軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

いとことご対面です2

「おまえはいとこじゃない!」

真っ赤な顔は怒りの象徴だ。激昂する少年に対し、私は冷静に説明した。

「いいえ、いとこです」

「はっ?」

「私はこのたび、ダスティン男爵家に娘としてひきとられました。バーナード・ダスティンとカトレア・ダスティンの娘として。もちろんあなたのおっしゃるとおり、継母との血のつながりはありません。ですが籍として、私の名前はこの人たちの娘として刻まれています」

この世界には戸籍制度はないがこの際いいだろう。私は説明を続けた。

「そして継母の兄はケビン伯父様です。その伯父様の息子であるあなたと、娘であるフローラは、私のいとことなり得ます。家系図を書けばそうなります。血のつながりはこの際関係ありません」

「なっ……!」

「あなたが認めようが認めなかろうが、これは厳然たる事実です。私かあなたが廃嫡されないかぎり覆りません」

御大層に意見を述べているが、そう大したことは言っていない。5歳児相手に大人気ないかとも思ったが、子どもだからとやりすごしていては増長するだけだ。これもひとつの教育、と割り切って私は続けた。

「ですのでどうぞ末長くよろしく」

最後も習ったばかりの綺麗なお辞儀で締めくくる。息子と甥を窘めようとしていた伯父と継母もしばらく固まっていた。

そんな中、周りの大人のことなど気にもせずいちはやく動いたのはフローラだった。

「お姉ちゃま、とてもきれいね」

父の腕から降りた3歳の少女は、こちらも赤い顔色で見上げてきた。同じ赤といっても怒りからくるものではない。憧れでぼうっとしているのだ。

「ありがとうございます。フローラ様もとてもかわいらしいですよ」

着ている服装はこざっぱりしたものだが、小さな少女の愛くるしい動きにぴったりのワンピースだ。顔立ちもどこか伯父や継母に似ている。

少女は嬉しそうに笑って「ありがとう」と言いながら、今ほど私が披露したカーテシーをつたない動きで真似してみせた。その行動に一堂がふっと空気を緩めた。

「まぁ、フローラも上手にご挨拶できるのね」

「まったくだ。それに比べてこいつときたら……」

伯父がスノウの頭を軽くこづいたかと思うと、その耳をひねった。

「痛てててててててててっ!!」

「女の子たちが礼儀正しく接してるのにおまえはいったい何やってるんだ! 罰としてしばらく外出禁止だ」

「だって本当のことだろっ!」

「アンジェリカが言っていることが本当だ! おまえのはただの常識はずれな屁理屈だ」

「うるさい! 叔母様と血がつながってるのは俺の方だ、こいつじゃない! 叔母様は俺の叔母様なんだ!」

その言葉に伯父はスノウからぱっと手を離した。継母も口元に手を当てて驚いている。

「スノウ……」

涙目になった少年はひくりと喉を震わせた。

「なんでだよ……っ! 自分の本当の子どもでもないのに、その子の方がいいの? 俺のことはもう、いらないの?」

「スノウ、そんなことないわ。あなたは私の大切な甥よ。あなたのこともフローラのことも大切に思ってるし、変わらず愛しているわ」

思わぬシリアスな展開に私も言葉を失ってしまった。これはいったいどういうことだろう。

私の表情を察したのか、ケビン伯父がそっと説明してくれた。

「すまない、アンジェリカ。うちは家内を、あの子たちの母親を3年前に亡くしていてね。だからこいつらはカトレアのことをとても慕っているんだ。それこそ、母親のように」

思っていた以上にヘビィな内容にざっと血の気が引いた。3年前というとフローラが生まれた頃か。もしかすると出産が原因だったのかもしれない。ということは2歳で母を亡くし、甘える相手を失った彼が、その役割を叔母に求めたという図は頷ける。

「ごめんなさい、私……」

親を亡くした痛みは十分に理解できる。現世の実母はまぁあれとしても、前世で母を亡くしたとき、私は15歳だった。相応の分別はついていた年頃でも、やはり辛かった。

それが2歳で母を失い、母親代わりの叔母をまた奪われようとしていると彼が考えたのなら、私が憎しみの対象になるのも仕方ない。

「アンジェリカが気にすることじゃないよ。私もうすうす気づいていたんだが……。だけど自分の力ではどうすることもできずに、カトレアを頼ってしまっていた」

それは伯父のせいでもない。2歳児と乳飲み子を残したまま妻に先立たれて、女手を無くした家庭がどれだけ大変だったか簡単に想像できた。人手は雇うなりなんなりできるが、母としての愛情は誰しもが与えてくれるものではない。たまたま子どもに恵まれない妹がいて、子どもたちがそこに懐けば、父親としても安心こそすれ、手を打たなければならないとは考えないだろう。

「いいえ、伯父様は悪くありません。私が考えなしでした」

知らなかったとはいえ、5歳児相手に本気になるなんて。反省した私の先で継母が静かに動いた。