軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

悪役令嬢へのお願いです2

「ところでアンジェリカ様。今日おうかがいしたかったのは、来年の精霊祭の発表会のことなんです」

「あ、はい」

「その、本当に私が世話人をしてもよろしいのですか? もとはアンジェリカ様の立案ですわよね」

「えぇ、もちろんです。むしろエヴァンジェリン様に取り仕切っていただければ、来年も必ず盛り上がるに違いありません。私のような下位貴族の声かけでは、正直出場者を集めるのも困難なのです」

そう、今年の精霊祭の付属イベントとして開催した大教会での発表会。才能ある孤児院の子どもたちを発掘し、パトロンを募るために開催したあのイベントを、ぜひ今後も継続したいという要望がクレメント院長から出ていた。その世話役を、エヴァンジェリンに手紙で依頼していたのだ。

昨年、準備まで1ヶ月ほどしかなかったにもかかわらず、10名近くの貴族の子息令嬢が集まってくれたのだが、実は参加者集めに苦労していた。アッシュバーン辺境伯爵家のパトリシア様があちこちで宣伝してくれたものの、パトリシア様の息子であるミシェルとギルフォードは出場しないとあって、出足はかなり鈍かったのだ。

それが最終的に発表会としての体裁が整うまでに集客できたのは、エヴァンジェリンが参加を表明したからだ。数年ぶりに王都の社交界に復帰したエヴァンジェリンの母エルシア・ハイネル公爵夫人が、愛娘を自慢する目的で参加させたことで、追随する人たちが現れた。

もし来年もイベントを開催するなら、私よりももっと求心力がある人に世話人を任せるべきだというのは、イベント立案中にも考えていたことだった。

エヴァンジェリンは名門ハイネル公爵家の御令嬢で、本人の才覚も申し分なく、広告塔にうってつけだ。それに領地には戻らず王都で過ごしているから、準備に十分な時間がとれる。

そうしたことから彼女にお願いしてはどうかと提案してくれたのは、実はシンシア様だ。私も同じことを考えていたので、一も二もなく同意した。

ただ、懸念事項もあった。発表会については私の立案だが、そもそもこれはシンシア様が長い時間をかけて王都孤児院を支援してきたことに端を発している。我が家はもともとアッシュバーン家の庇護下にある家だから、シンシア様の元で私が采配をふるったのは、何も行き過ぎた行動ではない。だがそれをエヴァンジェリン嬢に譲るということは、孤児院支援にハイネル公爵家が関わるようになる、ということでもある。

ご存知の通り、ハイネル公爵家は名門中の名門だが、領地で生活する期間が長かった。我が国は精霊との契約があるから、領地で過ごす当主筋が多い。その結果、王都には当主以外の貴族が多く居を構え、さまざまな職に従事している。アッシュバーン家でいえばシンシア様たちがそうだ。

シンシア様は平民の出だが、王立騎士団副団長の妻という立場にあり、婚家は辺境伯家ということで、その地位は王都でも高い。そんな彼女が孤児院支援をしている話は有名で、貴族たちの中で同じように孤児院に支援をしたいと思う者たちは、まずはシンシア様に相談するのが慣わしになっていた。

けれどここにハイネル公爵家を引き入れてしまえば、孤児院支援の筆頭役が公爵家に移ってしまいかねない。シンシア様が長年に渡って情熱を注いできた取り組みを、すべて奪われてしまう可能性もあった。真っ当な人であればシンシア様を尊重し、彼女を排除するようなことはしないだろうが、相手はハイネル公爵家のエルシア夫人だ。社交界を牛耳りたくて仕方のない夫人がシンシア様を尊重する姿は、まったく想像できない。

そんな懸念をシンシア様に打ち明けると、彼女はそれを笑い飛ばした。

「大丈夫よ。ハイネル公爵夫人は、エヴァンジェリン嬢が発表会を取り仕切ることは見栄えもするから大いに推すでしょうけど、ご本人が孤児院に関わることはないわ。あの人が子どもたちの手習いを見学する姿なんて、想像できないでしょう?」

「たしかに……」

「私も乗りかかった船であなたの案に協力してきたけれど、そもそもそれを実行するだけの力を孤児院は持ち始めたのだから、あとは手放すつもりよ。行き過ぎた支援は毒になりかねませんからね。私はまた子どもたちのためにボロ布や木材なんかを細々と寄付する形に戻るわ。その程度であれば、公爵家の目にもとまらないでしょうしね」

「では、本当にエヴァンジェリン様にお願いして大丈夫なんですね」

「えぇ。あのお嬢さんだったら、うまくやってくれるんじゃないかしら。アンジェリカちゃんとも仲良くしてくれているのでしょう?」

「仲良くしてくれているといっても、一時的な関係だとは思いますが」

今はポテト料理からの流れがあるので交流がなんとなく続いているだけだ。本来は彼女だって私にとっては雲の上の人だ。

とはいえ、一番の理解者であるシンシア様がよしと言ってくれるのであれば、私も異存はない。エヴァンジェリンの才覚を信頼しているというのもあるが、孤児院の子どもたちと関わり続けることは、彼女の悪役令嬢化を阻止する一端になるのではないかと思うのだ。

「アンジェリカ様がそこまでおっしゃるのでしたら、私、やってみますわ」

「ありがとうございます。もちろん、お手伝いできることはなんでもしますので、またおっしゃってくださいね」

こうして発表会イベントは無事、エヴァンジェリン嬢に引き継がれた。

シンシア様と私が見越した通り、エヴァンジェリンはこの発表会を独自のセンスで見事に展開し、精霊祭期間中のメインイベントとして他国にまで知られる存在に育て上げていくことになる。

彼女の結婚により世話役は次世代へと受け継がれ、孤児院の子どもたちを支援する目的の発表会イベントは、長きに渡り維持されることになるのだが——それは少し先の未来の話だ。