軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

娘心は複雑です1

ケイティはサリーの娘で、今年17歳になる少女だ。3歳のとき母親のサリーが父親と離婚して以降、母と2人でダスティン領に住んでいる。ルシアンが炭鉱の街で料理教室を開く際、お手伝い要員を領内で募ったところ、サリーと2人で手をあげてくれ、冬の間はお店の運営に活躍してくれた。

いつもアッシュグレイの髪を無造作にひとつにまとめ、背中に垂らしている。瞳は母譲りのハシバミ色。母親のサリーは小柄で細身なタイプだが、彼女は身長が170センチ以上あり、痩せてはいるがやや骨太の体つきで、前世でいうところのスーパーモデル体型だ。性格もサリーとは正反対で、明るく陽気な母と違い、寡黙でおとなしい少女だ。

春からサリーと一緒に通いの下級メイドとして働いてくれているのは前にも説明した通り。奇しくも、もともと働いていた赤毛のミリー、クレバー夫人の娘であるリンダと似たような年ということもあり、彼女たちとも仲良くやっている。3人の休憩がかぶることはあまりないが、顔を合わせればおしゃべりで素朴なミリーと、人見知りさえなければやや勝気なリンダに挟まれて、あまり口を開きはしないが、優しげに相槌を打っている、そんな印象だ。

自分の要求を口にすることもあまりない、そんな彼女から驚きの提案を受け、話はあれよあれよという間にまとまり、今、王都行きの馬車に一緒に揺られている。

季節は7月を迎えていた。ダスティン領では夏野菜が収穫期を迎えている。父も継母もロイたちも忙しくしている中、私はケイティだけを伴って王都に向かうことになった。女の子の2人旅は危ないと、はじめ父が送ってくれる話も出たのだが、折よくケビン伯父が商談のため王都に出向くことになり、同行させてもらうことになった。そうそう、同行はケビン伯父だけではない。スノウとフローラも一緒だ。

「両親に孫の顔を見せてやりたくてね」

そう照れ笑いするケビン伯父は今、馬車の手綱を握っている。その隣ではスノウが、父に御者の仕方を習いながら口笛を吹いていた。馬車の中には私とフローラとケイティの3人。フローラは先ほどからケイティの膝ですやすやと寝息をたてていた。

お昼寝中の彼女を起こさないよう、私とケイティはしばらく沈黙していた。ケイティは今日はお仕着せのメイド服ではなく、紺色のワンピースを着ている。王都行きが決まった後、サリーが娘のためにと用意した衣装のひとつだ。

ケイティの申し出は渡りに船というか、なるほどその手があったかと思えるほど妙案だった。彼女ならポテト料理にも精通しているし、若いから体力もある。見知らぬ土地で過ごすことにも慣れているので、王都でもやっていけそうだ。子どもたちもいかつい男性より、彼女のような人に教わる方がやりやすいに違いない。

だが、心配ごとはあった。

「ケイティ、とてもありがたい申し出なんだけど、サリーは承知しているの?」

「いえ、母にはまだ言っていません」

「それは……困るわね。さすがにサリーの了解なしに、あなたを王都に連れてはいけないわ」

「お嬢様、私は今年で17歳になります。もう十分大人で、自分のことは自分で決められる年齢です。いい加減母から独立したいんです」

口数の少ない彼女が、これだけ言い切ったことに正直驚いた。同時に、少し強い口調が気になった。

「ケイティ、何かあったの? もしかしてサリーと喧嘩した?」

「いいえ。母とはうまくいっています。母のことは大好きですし、それに……とても感謝しています。いつもいつも自分のことよりも私のことばかり優先して。正直、申し訳ないと思うくらいです。だから……」

ケイティは目線を落とし、静かに続けた。

「母には幸せになってもらいたいんです」

その意味するところを思いやって、私もはっとした。

「もしかして、気を遣おうとしている?」

私の質問の意図を察したのだろう、ケイティは頷くでも首を振るでもなく、曖昧に身じろぎした。

彼女が気遣う相手、それは母であるサリーと、おそらくロイだ。ロイが土壌開発の実験で花を育て始め、それがサリーに発見されて以降、彼らは徐々にではあるが距離を近づけつつある、というのが私たちの見立てだ。私たち、というのはダスティン家の住人と使用人たち。

そう、誰の目から見ても彼らはいい感じだった。ただ、双方ともいい歳をした大人で分別もあるから、大袈裟な振る舞いはしない。なんともじれったいというか、やきもきするような光景なのだが、みんな敢えて見て見ぬふりをしている。鬱陶しく思っているからでは当然なく、誰もが応援したいと思っているからだ。

理知的で、領主夫妻への忠誠と仕事以外に興味がなかったロイは、土壌開発と花の育成をきっかけに、少しずつ昔を取り戻しつつある。罪人の父親を持つ事実と当時の記憶で覆われた彼の心が芽を吹くにはまだ時間がかかるだろう。そんな彼にとって、陽気で、雑多なことを気にせず、美しい花をただ美しいと喜ぶサリーは、枯れた地に水が染み渡るような存在に見えた。

この2人ならいつか素敵な花を咲かせてくれるのではないか——、期待をこめて、皆がおせっかいをすることなく、ただ見守っているのだ。

「私たちは他人だから、勝手に応援している気になっているけれど、実の娘であるあなたは気を遣う必要はないと思うわ。あなたにはサリーと一緒にいる権利があるもの。サリーもそれを望んでいるわよ?」

一人娘からすれば、大事な母親が顔見知りとはいえ別の男に取られようとしているようなものだ。その心境は複雑かもしれないと、彼女の気持ちを案じた。

だがケイティは、今度は力強く首を振った。

「あの、たぶん、お嬢様が思われているようなことではありません。私、母の幸せを本当に願っています。ロイ様ともうまくいってくれたらいいなって思っています。私が傍にいるのが母の幸せを邪魔することになるとか、そこまで思い詰めているわけじゃないんです」

「じゃあ、どうして?」

「こちらで働くようになって、いろいろ考えたんです。たとえばリンダさんは私より1つ年下ですけど、親から独立するためにポテト料理と経営の勉強を頑張っています。ミリーもメイドとしてもう3年のキャリアがあって、家族を立派に支えています。それに比べたら、私、何もできないなって思って……」

それからケイティは思うがままにぽつぽつと話し始めた。