軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

慰問活動に向かいます

「ここが王都孤児院よ」

シンシア様の案内で到着したのは、王都の西、精霊庁の大教会と同じ敷地内にある孤児院だった。

この国にある孤児院は精霊庁管理のものと、貴族などが個人的に運営する民間のものとに大別される。王都にある孤児院はその規模も最大級で、現在の入所者数は50名ほど。年齢は0歳から15、6歳までと幅広い。この国では13歳頃から働き始める慣わしだから、仕事に就いてある程度余裕ができると独立させる方針なのだそう。

孤児院の子どもたちには幼い頃から将来を見越した職業教育が施されている。13歳になって真っ当な仕事に就き孤児院を巣立っていけるよう、いわば「手に職」的な教育が徹底して行われる。男の子であれば職人見習いが多く、体力的に秀でている子は騎士という選択もある。女の子であればお針子、ハウスメイド、接客業といったところだ。

いきなりその仕事ができるわけではないから、物心ついた頃からそれらの練習をスタートさせる。院長先生はじめ、指導者の先生たちがその子の特性を見極め、適切と思われる仕事の手習いをさせるらしい。10歳頃になれば見習いとして工房などに奉公に出される。まだ幼く、読み書きの教育も中途なため、半日程度の扱いらしいが、そうやって社会人としての準備をさせるのだと、道中の馬車の中で聞いて、私は彼らが置かれた状況の厳しさを知った。

「そんなに小さいうちから働かなければならないなんて……」

10歳なんてまだ親に依存して当然の年齢だ。なのに彼らはその親がいないという理由で早く独立を強いられているのだと感じてしまった。

「この方針が正しいのか正しくないのかは意見が分かれるところね。ただ、何もできないまま13歳になった途端社会に放り出されたら、その子には辛い現実が待っているだけなの。だから小さいうちから自立の道を示唆してあげるのは、決して悪いことではないと私は思っているわ。実際に王都孤児院の卒業者の犯罪率はとても低いのよ。だから、今はこの方針が支持されているの」

シンシア様の言うとおり、なんの技術も生きる術も持たないまま、大きくなったからと孤児院を退所させられ、そこからどうやって生きていくのかと考えると——問題しか見つからなかった。犯罪に走る者や身を売る者が出てきても不思議ではないからだ。

「ただ一方で、本人の希望も何も汲み取られず、ただ生きていくためだけに仕事を覚えさせられるのが本当の幸せなのかと考えると……なんとも言えないわ。私が平民枠で王立学院に入学できたのは、7歳で義理の両親に引き取られたからよ。仕事に就くことを強要されることなく、勉学の機会を与えられた。もし孤児院にいたままだったら……きっと不可能だったわ。小さい頃から賢い子だと言われていたから、将来は商店の売り子か受付になるべきだと言われて、接客や帳簿付けの手習いをさせてもらっていたけれど、正直あまり楽しくなかったわね」

ちなみにシンシア様が引き取られたのは、王立騎士団に所属する騎士の家だった。貴族ではなく平民の、位なども持たない一介の騎士だ。その夫婦には昔娘がいたが、病で早くに亡くなったらしい。その亡くなった娘というのがたまたまシンシア様と同じ名前の同じ髪色だったことで、ある日大教会の手伝いをしていたシンシア様が騎士夫妻の目にとまり、引き取られることになった。家族仲はとても良かったそうだが、20年前のトゥキルスとの戦争で父親は帰らぬ人となった。最愛の夫を亡くした母親の心痛はひどく、後を追うようにこちらも亡くなってしまったらしい。どちらもシンシア様が王立学院在学中の出来事だ。シンシア様はこれで再び孤児となってしまった。

ただ今回は戦争孤児の扱いとなったため、戦争未亡人や戦争孤児への仕事の斡旋をしている騎士団の恩恵を受けて、無事騎士団に就職することができた。もともと平民の身で王立学院に入学できるほどの頭脳だ。騎士団でもすぐに頭角を現し、あっという間に秘書官の座に就くこととなった。

そんな彼女が物心ついた頃に暮らしていたという孤児院。昨日のうちに作り貯めたじゃがいものスコーンやクッキーを携え、私もその地に降り立った。

長い期間援助を継続して行っているというシンシア様に比べれば、私ができることなどほとんどない。

だけど、せめて今日1日の中で、自分が役に立てることを精一杯やろうと心に決めた。