軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

商売のアイデア大募集です2

透明ポットの発案について怒涛の意見交換(ただし双子間のみ)がなされた後。

落ち着きを取り戻したライトネルとキャロルは咳払いをしながら、私たちの前に座り直した。

「すまない、話が脱線してしまったな。今日はじゃがいもの話だった」

彼らの意見展開はとても面白いので、私としては耳を傾け続けるのもやぶさかではなかったが、こちらは2日後にバレーリ団長との面会が控えている。騎士団でのプレゼン内容は父やロイとも相談してほぼ固まりつつあるのだが、ぜひ彼らの意見も聞いておきたい。

すでにじゃがいものアク抜き方法や調理方法については説明済みだが、手土産に用意していたクッキーとスコーン、パンを彼らに披露しながら、復習がてらもう一度案内した。

「じゃがいもの利点はたくさんあるわ。このように小麦粉の一部の代替品として使用できること、じゃがいもそのものを主食として食せること、不作に強いこと、痩せた土地でも実りやすく、地の精霊石の力を借りずに栽培できること……」

この世界の主食は小麦だ。だが小麦の出来は天候に左右されやすい。それに我が領のように土地自体が小麦の作付けに向かないところもある。だがじゃがいもはそれらの悪条件を大幅にカバーできる。

「加えて栄養価が高いこともあるね。家畜の飼料として使われるのは、何も麦わらの代わりにというわけではない」

ミシェルが利点を追加してくれた。そうなのだ、麦わらだけで育てた牛より、芋類を食べさせた牛の方が肉も牛乳もおいしくなるとされているし、馬も丈夫になると言われている。だからこの世界では家畜の餌用として広く栽培されている。

双子たちはポテト料理の味見をしながらふむふむと頷いていた。

「その栄養価は何も家畜にだけという話ではないからな。人にも当てはまるというわけか」

「じゃがいもが流通すれば小麦の原価は今より割れるでしょうね。パンもスコーンも、これなら十分通用する味だわ」

うちが生鮮食品を扱わないのが残念、とキャロルが地団駄を踏む。数日前こそ大騒ぎだったが、今このように双子が落ち着いて話を聞いてくれるのは、じゃがいもの食用化が彼らの商売に直接的な影響を与えないからだ。

彼らが平民向けに展開しているハムレット商店で扱うのは雑貨がほとんど、食品となれば日持ちのする小麦粉などの粉類や一部の酒、お茶の類いと調味料辺りで、肉や野菜など生鮮食品の取り扱いはない。そのため冷静にものが見られるようになったようだ。

とはいえ新しい技術革新のひとつには違いないので、興味は尽きない。もし仮にじゃがいもが普及すれば、小麦や家畜の飼料の流通に影響を与えるため、彼らからすれば商売上がったりな気もするが、そんな狭い視野で物事を見る人たちではないようだ。だから私も安心して相談できる。

今相談したいことは、騎士団寮の話とルシアンのお店についてだ。じゃがいもの実用化を大陸中に広げるのは大事だが、急がば回れ。まずはそっちを片付けよう。

「この方法に王立騎士団のカエサル・バレーリ団長とロイド・アッシュバーン副団長が興味を示してくださって、私たちはこの冬、騎士団寮に招待されることになったのは以前話した通りなんだけど。問題はどうやって彼らにじゃがいも料理の良さを知ってもらうか、なの」

今までじゃがいもを領内や炭鉱の街で紹介したときとは違い、今回はまず騎士団の重鎮にじゃがいも料理を披露することになっている。形だけ見れば伯爵翁様を家に招いてポテト料理のフルコースを披露したときのようなものだ。

騎士団からこのような依頼があったことの背景には、騎士団の予算不足があるのでは、というのは私の父の見立てだ。その話をするとライトネルが「なるほどな」と頷いた。

「その線はありうるな。王立騎士団は王国の砦だが、その予算は年々削減されているという話だ」

「20年前のトゥキルスとの戦が終わって、和平の証としてヴィオレッタ王妃が輿入れされたから、情勢は比較的安定していますものね」

「国力が削がれたのはトゥキルスも同じだから、当面戦争は仕掛けてこない。よって軍部に金をかける必要性も限られる」

「となればあのマクスウェル宰相が真っ先に切り込むのは騎士団の予算ですわね」

「だが騎士団を預かるバレーリ団長たちからしたら面白くない話だよな。戦争はいつ起こるかわからない」

そのために騎士団の増強は続けなくてはならない、でも国からの予算は出ない、となれば節約に走る話も肯けるというわけだ。双子の話の展開は父やロイが想像したのとまったく同じで、私はやはり舌を巻いた。

静かに話を聞いていたミシェルもまた「そうだね」と相槌を打つ。

「私もその考え方で合っていると思う。実はギルフォードの誕生会が終わって王都に戻ってきた後、伯父にじゃがいもの話をしたんだ。そのときは半信半疑の様子であまり取り合ってもらえなかったんだけど、秋頃に今度は向こうから話を聞かれたんだよ。ちょうどうちの領でポテト料理が食されるようになった頃だね」

「我が家に伯爵翁様がいらしたのが夏で、その後アッシュバーン家の料理人たちが何人かうちに滞在してポテト料理を学んでいったの。彼らが自領に戻ったのが秋頃だから、話は合うわね」

「伯父はどちらかという慎重派なんだけど、父は祖父に似て行動が早いからね。すぐにこれは使えると踏んだんだろう。我が領にも自前騎士が大勢いるから、彼らの食い扶持を維持するのは簡単なことじゃない」

「アッシュバーン領でそれなら、王立騎士団はなおさらだな」

「ですわね」

全員の見立てが一致したことが、私の大いなる自信になった。最初の見極めの段階から間違っていたとなると、方針を大幅に変更しなければならないところだった。

「それで、父やうちの執事と考えたんだけど……つまり、どのように騎士団にポテト料理を紹介するか」

自領とルシアンのお店で披露したときは領民や街の人向けのパーティの場だったので、平民が晴れの場で食べられるご馳走、というものを意識した献立にした。そこにパンやパイなど、日常的に食されるものも交えて、家でも作ることができるというのをアピールした。伯爵翁様のときにはお相手の身分のことも考えて、貴族向けのフルコースを用意した。

そして今回のお相手は騎士である。もちろんバレーリ団長とロイド副団長は貴族の身分も持ってはいるが、目的は騎士団全体の食料事情を改善することだ。ポテト料理を使って食費を抑え、予算を浮かせることにある。

「だからね、今回は“THE普通”でいこうかと思ってるの」

私たちが考えた案はこうだ。

今回のお相手は団長と副団長だが、フルコースは用意しない。なぜなら騎士団でフルコースが振る舞われることは稀だ。あったとしても上層部だけだろう。

それよりは彼らが日常的に食べているメニューを、こうすればじゃがいもに置き換えられる、という提案をしたらどうだろう、ということになった。ここにはかつて短期間ではあるが騎士として生活した父の意見がある。

「騎士団の1日は至って規則的で退屈なものだよ。朝から鍛錬、馬の世話、見回り、見張り、畑仕事なんかもある。捕物劇なんてそうそうあるわけでもない。そんな中で唯一の楽しみが食事だったっけ」

平民も貴族も、下っ端騎士たちは朝昼晩の食事をそれはそれは楽しみにしていたそうだ。娯楽もほとんどない中に放り込まれたらそうなってしまうらしい。

「食事といってもそんなに豪勢なものが出るわけじゃない。パンに具沢山のスープかパスタ、メインはだいたい何かの煮込み。甘いものや果物なんてほとんど出ない。代わり映えしない内容だけど、みんな夢中で食べてたなぁ。たまに行軍なんかに出ると食事はもっとひどくなって、干し肉に水だけなんて日もあるから、寮の食事はご馳走だったんだ。休憩時間も決まっているから基本早食いだったけどね」

そんな話を聞いて「それならばフルコースを……」なんて言えない。時間のかかりすぎるかまど料理も無理だ。それならば手早く調理できて、お手軽で、おなかいっぱいになるポテト料理を用意すべきでは、ということになった。目指すは「はやい・やすい・うまい!」だ。

そんな話を彼らに披露すると「いいんじゃない?」という返事がもらえた。

「クライアントの内情の分析もよくできているし、彼らの望みを叶えるアイデアになってるんじゃないか?」

「手の込んだ料理ばかりが受けるわけではありませんものね。“はやい・やすい・うまい!”は流行の兆しかもしれませんわ」

「味や見た目より実用的かどうかを見る騎士団だから、私もその案でいいと思うよ」

「ありがとう! なんだか自信が持てたわ」

全員のお墨付きをもらって、私は大満足だった。帰ったらマリサと最終調整をすることになっている。今更大幅な変更は難しかったから、このままGOサインが出せそうなことにほっとした。

「騎士団の件はこれでいくわ。それで、もうひとつ相談事があるのだけど……」

私はルシアンのお店の件について、詳しく話をした。