軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

新しいお友達ができました

「さて、お嬢様はどういったお品をお探しですか?」

「私のことはアンジェリカとお呼びください、ライトネルさん」

「ありがとうございます、アンジェリカ様。ですが私のことはどうぞライトと呼び捨てにしてください。私は平民ですし、皆様にお仕えする商人ですから」

「でも年上の方を呼び捨てにはできません。ライトさんではダメでしょうか」

ギルフォードやロイのことを呼び捨てにしておいてなんだが、なんとなくこの人には丁寧に接した方がいい気がした。ライトネルは困ったように首を傾げてミシェルを見た。

「ミシェル様からもおっしゃってください。これでは私の商売になりません」

「私のことは呼び捨てにするのに、相手が女の子だと丁寧なんだなぁ」

「……ミシェル!!」

ライトネルが慌ててミシェルの口を塞ぐ。そのまま周囲を見渡し、誰も近くにいないことを確認して手を引っ込めた。

「なんてこと言い出すんだよ! 俺がおまえのことを呼び捨てにしてるなんて親父に知れたら殺されちまう!」

「大丈夫、父君には聞こえてないよ。聞いてるのはアンジェリカ嬢だけだ」

「……!?」

小さな声で応酬していた2人の目が私の方を向いた。1人は落ち着きを払った笑顔、もうひとりはまずいことがバレてしまったという驚愕の表情。

「……その、お2人はずいぶん仲良しなんですね」

かたや平民の商家の息子、かたや辺境伯家の御曹司。肩を並べて気安くものを言える間柄ではない。

だが今の2人のやりとりからは、昨日今日出来上がったのではない深い関係性が見えた。

私の興味津々の瞳に負けたのか、ライトネルは大きく息をついた。

「お許しを。どうか今のやりとりは忘れてください」

「どうしてですか? とても楽しそうです。私も仲間に入れてほしいです!」

「いえ、アンジェリカ様にこのような不敬を働くわけにはまいりません」

「おや、私に対しては不敬ではないのかな」

「だからあれは! おまえが無理矢理俺を脅したんだろうが!」

脅す? 何やら不遜な言葉が聞こえたぞ。

「人聞きの悪い。私はただ君と仲良くしたかっただけだ。父君についてあちこち旅をした経験から、今でも方々にネットワークを持っているという君の特技について、もっと詳しく知りたいと思っただけだよ。友達として」

「だからってその情報網を買おうとするなよ! あれはうちの大事な飯の種なんだぞ!」

「買うつもりなんてないよ。ただちょっと拝借できないかと思っただけで。とても便利そうだし。将来のために役に立ちそうだし」

「人んちのもの勝手に使おうとするなって! おまえんち金持ちなんだから自分で作ればいいだろ!」

「一から作るのはお金も手間もかかるからね、すぐそこに手頃なものがあれば利用させていただくのが効率的だろう?」

「だからそれを盗人猛々しいって言うんだ!」

「大事な顧客に向かって盗人とは、ずいぶんな言い様だね」

「顧客なら顧客らしく物買っておとなしく喜んでろ! 間違ってもオーナーの息子を脅して友達呼ばわりするんじゃねぇっ」

今にも胸ぐら掴んでしまいそうな雰囲気の中、「あのぉ……」と声をかけると、ライトネルはまたしてもはっとした表情を見せた。

「た、大変失礼いたしました」

「うん、大丈夫です。今聞いたことも忘れますので」

にっこりと微笑んで見せると、ライトネルは大きく顔色を変えた。どうやら彼が持っているねっとわーくとやらをミシェルが気に入って、それをバラされたくなければ自分にも使わせろと迫ったあげく、ついでに友達関係も結んだと、ざっくりまとめればそういうことなのだろうけど、なんだかきな臭い話なので忘れることにした。

たぶんこれ、深く知ったらダメなやつだ。アンジェリカは良い子だから危ないことには手を出しません。何も知りません。

目の前で百面相するライトネルに、ミシェルが苦笑しながら声をかけた。

「ライト、こう言ってはなんだけど、アンジェリカ嬢は……たぶん大丈夫だよ」

彼の説明にライトネルは碧の瞳をすっと細めたかと思うと、深いため息をついた。そして意を決したように顔をあげた。

「わかりました。アンジェリカ様、どうぞよろしくお願いします」

「ありがとうございます、ライトさん。できれば敬語も使わないでほしいわ」

「いや、しかし」

「ミシェル様には使ってないのに?」

「……っ」

ライトネルはなぜか顔を赤くして口をパクパクとさせていたが、最後には観念したのか、項垂れるように呟いた。

「わかった。アンジェリカ嬢、これでいいか」

「“嬢”は余計だと思うのだけど」

「勘弁してくれ。ミシェルはまだ男だからいいけど、あなたは女の子だろう」

「わかったわ。妥協します。私もライトって呼んでいいかしら」

「だからそれはさっきから頼んでいま……頼んでいる」

「嬉しいわ、これで私も友達認定ね」

「いや断じて違う、あんたたちは友達じゃない」

「ひどいな」

「ひどいわ」

私たちの素直な呟きに、彼はいい加減にしてくれとカールした赤毛を掻き毟った。

アンジェリカ・コーンウィル・ダスティン6歳と約3ヶ月、初めての王都で新しいお友達ができました。