作品タイトル不明
はじめてのお買い物です2
お店は広くて、それこそ前世のデパートのような雰囲気だ。至るところに制服を着た店員さんがいるし、マネキンらしいものも置いてある。私としてはまったく違和感ない光景だが、両親には珍しいらしく、きょろきょろと興味深げに見回している。
ガイドをするライトネルの横顔を見ながら、私はルシアンのお店のことを思い出していた。パッケージしたものでなく量り売りを導入したことで売り上げがぐんと伸びたのだけど、それだって特別なことをしたわけではない。ポップや日替わり一押し料理だってただのアイデアだ。
この少年が生み出したのもまたアイデア。それがこんなふうに人気店につながるなら、この世界にはない前世のアイデアをどんどん取り込むことで、ルシアンのお店やポテト料理の可能性も広げられるかもしれない。
「こちらがアクセサリのコーナーです」
美しい宝石が並ぶコーナーに案内され、継母の表情が一際輝いたように見えた。うちは貧乏男爵家ではあるが、さすがに年に一度の王宮のパーティでみすぼらしい格好はできない。とはいえ毎年衣装を新調するというわけにもいかず、ドレスは2年前に着たものをリメイクしていた。見た目は全然違うふうに仕上がっているあたり、さすがは継母の腕だ。
ドレス代が浮いたので、せめてアクセサリくらいは流行の物をと、父がプレゼントすることにしたらしい。
ライトネルは継母にドレスの色や形をヒアリングした後、店員に指示をしていくつかの髪飾りを出させた。私も興味があったので継母の隣からカウンターを覗き込む。
そして「へぇ」と感心した。品物にはすべて値段を示すプレートが添えられていた。
貴族は買い物の際に値段など見ないのが常識だ。売る方も聞かれれば答えるが、そもそも聞くこともタブーというか、値段を尋ねるのは少々品がないことという通念がある。私が子爵領でドレスを作ってもらったときも、値段の提示は最後まで行われなかった。
だがこの店はそんな慣習を無視し、商品の値段プレートを添えて堂々と表示していた。カウンターの中に残った商品もすべて値段つきだ。
なるほど、この店が急速に売り上げを伸ばしてきた理由が垣間見えた気がした。値段を聞いて購入するのはタブーとはいえ、貴族だって人間、思わぬ金額に「ええっ!?」となることだってあるだろう。しかしそれを顔には出さず札束を出すのが矜恃でもある。とはいえいつもいつもそんな買い物の仕方をしていたら困ることだって出てくるかもしれない。
けれどこうしてあらかじめ値段がわかっていれば、買い物はずっとしやすくなる。店側からすればうんと高い物は売れにくくなるかもしれないが、ほどほどの物を購入した顧客が、その安心感からまた店で買い物してくれるようになり、結果的にリピーターが増えて売り上げも上昇することになるだろう。
常識に囚われない商売、それがハムレット商会を今王都で最も人気のあるお店に押し上げた理由のようだ。このお店、なかなかのやり手だと思わざるをえない。
(これもこの子が考えたのかしら……)
継母に髪飾りの由来を説明する赤毛の少年をちらりと見ながら、ますますこの子と話がしてみたいと思った。