軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ローザ新たな人生を踏み出す(最終回)

今ローザとイーサンは、王宮近くにある公園でボートに乗っている。

初秋の穏やかな風が吹き抜け、気持ちがいい。

ボートの上は内緒話にちょうど良いのだ。

きっと婚約のことについて、話があるのだろう。

「君、溺れかけたのに水が怖くないのか?」

「ああ、それヘレナとヒューにも言われます。馬が怖くないのかとか、水が怖くないのかとか。でも、馬についても水についても楽しい思い出の方がずっと多いので、怖いなんてありませんよ。もったいない!」

世の中、楽しまなければ損である。

「皆が君のように考えられたらいいのに」

イーサンがふと寂しげな表情を浮かべている。

彼はアレックスをとてもかわいがっていたので、いまだに複雑な感情を抱えているようだ。

いつの間にかアレックスがイーサンにコンプレックスや競争心を抱くようになっていたらしい。

叔父と甥の関係とはいっても、たったの二歳しか変わらないのだ。

イーサンにとってアレックスはかわいい甥だったが、アレックスにとってイーサンは嫉妬の対象だった。

「これですべて終わったね」

イーサンがあっさりとした口調で告げる。

「はい、それではかりそめの婚約も解消しましょうか」

ローザは肩の荷が下りた気がしたが、それでもイーサンと別れるのはさみしい気がしている。

いままでピンチの連続だったからか、彼とはそれなりに絆があったと思う。

「私は、そうは思わない」

「は?」

「今の状態はなかなか得だと思うけれど。ローザも私も縁談除けになる」

ローザは驚く。

実はまだ結婚したくはなかった。

この婚約が解消されれば間違いなく、ローザのものとには縁談がくる。

なによりクロイツァー侯爵家の名が欲しい者たちも多い。

「なるほど、でもどうして?」

「君は自分の始めた事業に夢中だからね。今度は泡ぶろだっけ?」

「はい、雲の上にいるような極上のお風呂に入りたくて。それにローゼリアンの二号店も出店したいんです」

前世で風呂好きの東洋人だったせいかスポンジなどのグッズも充実させたい。事業も好調だし、いろいろ発表したい商品の構想もある。

そしてなにより、人をあてにするのではなく、自分で稼ぎたい。いまは売り上げを伸ばし、成功しつつある。

ローゼリアン二号店も現実味を帯びてきた。

「君の家はうなるほど金を持っているのに、まだ稼ぐのか」

「貴族なんていつ誰の策略によって失脚させられるかわかりませんからね。私は私で独立して、財産を築きたいんです」

と言って笑う。

ローザは漫画の結末を知っている。

あっけなく家は没落した。

漫画の世界から逸脱したので、クロイツァー家は安泰かもしれないが、人生何があるかわからない。

前世では、恐らく過労死したように。

ある日突然、不幸や思いもがけない幸福に恵まれる。

『禍福は糾える縄の如し』とはよく言ったものだ。

とはいえ、気の持ちようで変わるのも人生だ。

「なるほど」

イーサンが微笑みながら頷く。

「となると妻が商売をやることに賛成の殿方はいらっしゃらないでしょ? 私、経済力がなくて、妻の実家の財産や権力をあてにするような殿方はこりごりなのです」

ローザは肩をすくめる。

「確かに」

「だから、しばらくは縁談を受ける気はありません」

ローザはアレックスを思い浮かべる。

ああいう手合いに引っ掛かるくらいなら、独身でいたほうがずっとましだ。

しかし、貴族の娘にそれはゆるされない。どれくらいの期間、自分は羽を伸ばしていられるのだろう。

「私は別に構わない」

「え?」

「妻が働くのには賛成だ。君はたくましいし、何より見ていて面白い。いつも次は何を始めるのかとワクワクする」

イーサンが穏やかな笑みを浮かべる。

「え? それはどういう?」

ローザは、彼の意図することがわからない。

「どうやら私は君を気に入ってしまったようだ。ローザ、かりそめの婚約ではなく本気で結婚を考えてみてはどうだろ?」

「は、はい? 私と結婚って本気ですか? 私、ものすごく贅沢で散在しまくりますよ?」

イーサンの申し出にびっくりして、ローザは彼の紫の瞳をのぞき込む。

そこにからかうような色はない。

「安心してくれ、ローザの散財に耐えられるくらいは、私も金持ちだ。それに君の言う条件に、私は当てはまっていると思うが?」

「ええ!」

ローザは悲鳴を上げる。どうやらイーサンは本気のようだ。

「私たちは良い協力者となれると思う。それに結婚生活は妻を縛るものではなく、お互いに助け合って築き上げていくものだと考えている」

彼の言う通りだとローザは思う。

「まあ、確かにそうですが」

どちらかが寄りかかるのではなく、不足な部分をお互いに支えあう。

だが、そこに愛はあるのか……と考えるとローザは言いよどむ。

(友情? それとも信頼?)

「ローザとは気が合うし。それにどうやら私は君が好きなようだ」

(なんですって? 愛が、あるだと?)

ローザは心の中でプチパニックに見舞われる。

「い、意見が合いましたね。私もイーサン様のお顔も含めて、す、好きです」

狼狽したローザは大切な場面でうっかり噛みまくってしまった。

艶然と微笑みながら、余裕の返事をしたかったのに。

しかし、性格は真逆なのに不思議だ。ローザもイーサンとは気が合うと思っていた。

「そうか、なら君の気持ちが決まったら、教えてくれ」

とんとん拍子に進む話に、ローザは目を見開いた。

「本気……なんですよね? えっと、返事はいつまでに?」

ローザは落ち着かなくて、おろおろし始める。

(え? 私が『推し』と本当に結婚?)

思いもよらない未来絵図。ぼっと頬が赤くなる。

「いつまででも待つよ。まだまだ時間はたっぷりある」

そんなふうに言ってくれるイーサンに、ローザは思わず笑ってしまった。

確かに事業は続けたいが、自分の子を持ちたいという気持ちもある。

流れは完全に変わり、ローザ・クロイツァーの新たな人生が始まった。

今度は前世のように流されるままではなく、すべてを自分で選択しつかみ取る。

ローザはそんな決意を胸に抱き、からりと晴れた青い空を見上げた。

fin