軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

夜会と取引2

「ほほほ、お戯れを。もっと評判の良いご令嬢を選んだらいかがでしょう?」

失礼なのは重々承知だが、ローザは笑って流すことにした。

扇子をパサリと広げる。

「戯れなどではない。今のローザ嬢ならば、貴婦人方の信頼も厚いし、きっと王族としての役目を果たせることだろう」

(だから、お断りだって言ってるでしょ。あなたと婚約したら、私毒殺されるのよ?)

ローザはこの場をどう切り抜けるか考える。一瞬でよいアイデアが浮かぶ。

「あら、あちらにエレン様が?」

ローザがそう言って会場の隅に目をやった途端、アレックスが振り返る。

(反応はやっ! やっぱり、好きなんじゃない。付き合っているのよね?)

「では、私はこれで失礼いたしますわ。ちょっと花を摘みに」

下品かと思ったが、今更体裁を気にしている場合ではないのだ。

ローザは礼をするとさっさと逃げ出した。

周囲からとげとげしい視線が刺さる。

アレックスから声をかけてきたと言うのに、きっとローザが言い寄っているという風に取られてしまうのだろう。

「これは、まずいわね。ダミーの婚約者とかどうかしら? 誰かなってくれないかしら」

ふとそんな独り言が漏れた。

化粧室に逃げ込んで一息ついた。

宴もたけなわで、会場に人が集中しているせいか、中は閑散としている。

「もう帰りたい……」

とりあえず、ローザが逃げたことにより、アレックスはまたどこぞの淑女たちに囲まれていることだろう。

しばらく化粧室で休んでから、ローザはそろりと会場に戻る。案の定、アレックスは囲まれていた。

ついでに兄のフィルバートも今宵は淑女の皆様につかまってしまったようだ。

ローザは哀れな兄の救出を早々にあきらめ、彼らに見つからないように会場の隅をバルコニーまで移動する。

ちょっと外の空気をすいたいと思ったのだ。

だが、残念なことに広いバルコニーには点々とカップルがいる。

「ちょっと居づらいわね」

ローザがぼそりと呟く。

「気配を消していれば大丈夫なようだ。カップルはそれぞれの世界に入り込んでいて、周りが見えないんだよ」

答える声にぎょっとして振り向くと、イーサンがバルコニーの隅にある暗がりに一人佇んでいた。

「な、なにをしているんですか!」

「静かに」

ローザは慌てて口をふさぐ。

「で、閣下はいったいどうなさったのですか?」

打って変わって、ローザはひそひそと話しかける。

(王宮主催の夜会で、この人、むっちゃ、こそこそしているわ。まさか変態なの? 私の推しはどこまで墜ちてしまうの?)

「会場から逃げだしてきたに、決まっているだろう」

ローザは初めてイーサンを気の毒に思った。

「ああ、囲まれていましたものね。よかったです。覗きではなくて」

ほっと胸をなでおろす。

これからも良好な客と店主としての付き合いができそうだ。

「それはどういう意味かな?」

「以前も、庭園で覗きをしていたではないですか?」

アレックスとエレンの密会現場を確かに彼は覗いていた。

「やめてくれないか。誤解も甚だしい。私は覗きをしているわけではない。前回も今回も会場から逃げ出しただけだ」

「ああ、すみません」

イーサンが少し気分を害したようなので、ローザは謝っておく。

「で、君はなぜ一人でこのような場所に?」

(いや、あなたに聞かれたくないんですけれど?)

と本音を言うわけにもいかず。

「ちょっと外の空気がすいたくなって出てきただけです。まさかこれほどカップルがいるとは思わなくて。だから、庭園に移動しようかとも思うのですが、また何か目撃しそうで悩ましいところです」

ローザは顎に手を当てる。

実際、ここにイーサンと一緒に潜んでいてもしょうがない。

それともこの隙に高いバスボムでも売りつけようかと思案する。

「私も君と同じで、ここから動けないんだ。理解してもらえたかな?」

「いいえ、全然違います。閣下はモテすぎて困って逃げてきたんですよね? 私はアレックス殿下にうっかりつかまって隙をついて逃げてきたんです」

ローザがきっぱり言うと、イーサンは小さくため息をつく。

「アレックスはまだ君に執心しているのか」

「そうでもないみたいですよ? 『あら、あちらにエレン様が?』といったら、秒で振り返られたので、エレン様が好きなのではないですか? おかげさまでその隙に逃げられました」

ローザは取り繕うのも面倒で、ありのままを告げる。

「なるほど、君も苦労しているわけだ」

イーサンが自嘲気味に笑う。

「はい、殿下から話しかけてきても、まるで私から積極的に近づいているようにいわれてしまうのですよ。なぜですかね?」

「誰かが噂を操作しているのだろう」

「はあ、いっそのこと私に婚約者がいればこんなことにならなかったのに」

(こんなに美人なのに、モテない自分が憎いわ! 何が悪いの? このゴージャスすぎる雰囲気? それとも金遣いの荒さ? どっち?)

「選り好みしているからできないのでは?」

意表を突くイーサンの意見にローザは目を見開いた。

「はい? 違いますよ。うちが大金持ちだと言うことはご存じですよね? 財産狙いの殿方しか寄ってこないんですよ。それはいいとして。もし、その殿方がほかに女性を作って私が邪魔になったら、殺されてしまうかもしれないではないですか!」

ローザがそう訴えると、イーサンはかなり引いた様子だ。

「いや、それは考えすぎではないのか?」

「それならば、閣下はなぜご結婚なさらないのです? そうすれば、しつこく女性に追いかけ回されないで済むではないですか」

「君と似たような理由だ」

「まさか、そんなことはないと思いますよ」

ローザはぶんぶんと首を振る。

「私は何度も毒殺されかけている。女性が信用できないんだ」

いきなりの重い話にローザは胃もたれを起こしそうになった。

(ちょっと待って? そんな告白、私にしないでほしい)

どこで会話を間違えたのかと、ローザは途方に暮れた。