軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

早速 お店を探しますわ!

空は抜けるように青く、今日は気持ちの良いくらい晴天だ。

ローザはまだ朝の香りが残る空気を深く吸い込むと声を上げた。

「さあ、店探しに出発よ!」

屋敷のポーチから、さっさと馬車に乗り込むローザの後をヘレナが追う。

「お嬢様、そんなお急ぎにならなくてもお店は逃げませんよ」

「違うわ。ヘレナ、チャンスは逃げるものなのよ。目抜き通りに向けて馬車を流してくれる」

ローザは張りのある声で御者に指示を出す。

「お嬢様、店の場所をもう決めているのですか? 旦那様からお話があったのは昨日ですよ」

そう、ローザは昨晩父から店を持っていいと言われた。その場で金庫から金を出してもらい資金を調達したのだ。

「店の位置はだいたい決めていたの。王都の目抜き通りなら貴族も庶民も身分に差なく人が集まるでしょう? それになんと言っても中心には広場があって人が集まるし」

「そういうところにある店は皆流行っているのではないのですか?」

ヘレナの疑問はもっともだ。

「流行ったり、つぶれたり、それぞれよ。それに少し路地を入れば、店舗の値段も下がるだろうし。居ぬきで買い取りたいから、飲食店は避けたいのよね。食べ物は匂いが残るものだし」

「お嬢様、もうそこまでお考えでしたか。

ところで話は変わりますが、旦那様がお嬢様のために雇われた護衛騎士が、後ろから馬車を必死で追いかけてきていますが、いかがなさいます?」

石畳の街路を軽快に走る馬車を、ローザは慌てて止めさせた。

父が、活発に動き回るローザの護衛のために、新しく彼を雇ったことをすっかり忘れていた。

「ごめんなさい、トム。すっかりあなたのことを忘れていたわ」

「いえ、私の名前はヒュー・アトキンです」

全力疾走で馬車を追ってきた割に息を乱していない。

父がローザの護衛に付けるということはかなりの腕なのだろう。

だが、護衛騎士が着いたところでローザの毒殺の未来は止められない。

「そう、ヒューね。覚えておくわ。ごめんさい」

「いえ、私のことはお嬢様のお好きにおよびください」

なかなか謙虚で礼儀正しいようだ。

「わかったわ。そうそう、あなたその剣をぶら下げて街を歩くつもり?」

護衛騎士は、無表情だが黒髪にアンバーの瞳を持ち整った顔立ちをしている。

だが、広い肩幅に高い身長、護衛騎士だけあって馬車の中でも場所をとるし、見下ろされたら威圧感がある。

「はい、腰に剣を佩いているだけでも抑止力になりますから」

「それはそうなのだけれど、あなたは護衛だから私の近くにいなければならないのよね」

「はい」

「今日は店を買い取りに行く予定だから。あなたが私のそばについているだけで、まるで脅しになってしまうのよねえ。私は庶民が経営している店舗を土地ごと買い取る予定だから」

するとヒューはわずかに眉根を寄せる。きっと困惑しているのだろう。ローザにぴたりとくっついているように、父から言い渡されているのだ。

そんなやり取りの間にも馬車は広場に入り、中央に噴水のあるロータリーを時計回りに走る。

ローザの前世より視力のいい目は、中央広場や目抜き通りから外れた左側の路地に、庶民専用の店舗が立ち並んでいるのを見つけた。

ローザは御者に路地に入ってもらう。すると店はすぐに見つかった。

「ヒュー、ちょっとマントを着て、腰に佩いた剣を隠してくれない?」

ローザはヒューに言うと、ヘレナに金を渡しマントを買ってくるように指示をだした。

するとヘレナはすぐに騎士のサイズにぴったりのマントを調達してきた。

しかも廉価で。

(やはり、ヘレナ、できる女だわ。私のメイドにしておくのは惜しいかも)

すぐにヒューにマントをきせて、馬車を降りる。

ヒューが後ろに立っただけで、ローザは日光から遮られる。

「困ったわね。あなたすごく目立つわよ。少し離れた場所を歩くことはできる」

アンバーの瞳はこの国では珍しい。おそらく彼には異国の血が混じっているのだろう。

「お嬢様から、離れれば離れるほど。リスクは高くなります」

生真面目な様子で騎士が答える。

「それがそうでもないのよねえ? 私、毒殺の予定だから」

「は?」

騎士がキョトンとした顔をする。意外に幼い表情を見て、彼はまだ若いのかもしれないとローザは思った。

馬車は路地にかなり入ってきていたので、ローザは中央広場の方向に歩く。

「お嬢様、目抜き通りではなくこの路地に店を持つつもりですか?」

意外そうにヘレナが聞いてくる。

「ええ、扱っているものがバスボムだから、宝飾店やドレスデザイナーの店が並ぶところにあっても浮くだけと思うのよ。

場所が良ければいいってものでもないだろうし」

「そこまでお考えだったのですね」

ヘレナが感心したよう頷いた。

しばらく歩くと目抜き通りのある中央広場見えてきた。

「ここら辺がいいのよねえ。目抜き通りからすぐで、しかも見えるところにある店舗」

ちょうどローザの目に小さな生地屋が目に入った。

「ああ、あそこがいいわ。店主に聞いてみましょう。いくらで売ってくれるかしら。店だけではなく土地の権利も店主が持っていると、買取が楽でいいのだけれど」

そういってローザはサクサクと店の方向に進んでいく。

「お嬢様、あの店舗、少し小さくはないですか?」

「でも間口はそれほど狭くないわ。それに都合よくお隣の店はつぶれているようだし」

「都合よくですか? ……なるほど、二店舗分の土地に店を立て直すのですね」

「違うわ。居ぬきで買うって言ったでしょう? それに木組みの店なんて風情があるじゃない? 花の鉢植えで飾ったらきっとかわいいわよ。つぶす必要なんてないわ。詳細は店の買い取りに成功してから、あなたに説明する」

ヘレナが驚いたような顔をする。

「お嬢様。興味はありますが、私は一介のメイドなので別にご説明いただかなくても、お嬢様のご命令に従うまでです」

「何言っているのよ。あなたは私の右腕になる予定なのよ」

「はい?」

ローザはヘレナの驚きをよそに店にずんずん入っていった。

すると当然のように後ろから護衛騎士がついて来ようとする。

「ヒュー、ステイ!」

ローザが声をかけると護衛騎士はぴたりと動きを止める。

「ねえ、ヒュー。店員を見て」

店先に出てきた老婦人はヒューの姿を見て怯えていた。

「立ち退きでしょうか? それともみかじめ料でしょうか?」

震える声で、ローザに問うてくる。

それを聞いたヒューはすぐに店先から離れ街路の向こう側に待機した。

(多分、ヒューだけのせいではないわね。私は悪人面だし、ヘレナは基本無表情で冷たそうだし、怖いわよねえ、この集団)

ローザはできる限り柔らかく見える笑顔を向けた。

しかし、失敗したようで、店主の老人が慌てて店の奥からできて平身低頭で挨拶をした。

(さあ、この誤解をどう解きましょうか?)

残念美人のローザは、僅かに残る乙女心を痛めた。