軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

前世の記憶 モブで悪女

彼女は21世紀の東洋の島国で、社畜として生きていた。

残業続きで、クライアントの予定によっては休日すらつぶれることももはや日常茶飯事。

会社はブラックで労働基準法も何のその、残業代は当然のようにカットされ、労働に見合う分のお給金がもらえない。

だが、世の中は大不況、転職もままならず、ただ黙々と働いていた。当然、出会いなどなく、結婚もできず。

気づけば二十代後半に差し掛かっていた。

中高大の友達の中にはちらほら結婚したり……。

ストレスフルな毎日を送る彼女の楽しみは風呂だ。

バスタブに入浴剤を入れて、のんびり入るのが唯一の楽しみという枯れた生活が続く。

やがて風呂に入ることが趣味になり、バスボムを手作りするようにまでなっていく。

早く帰れる日があれば、好きな香油を選び、百均で買い込んだ材料で作ったバスボムに香り付けして、食紅を使って彩色する。

バスボムの型欲しいがために、会社帰りに一人、ガチャガチャを回す。

後ろで子供が、『あのおばちゃんのやってるガチャガチャやりたい!まあくんも、ボケもんほしい!』

と叫ばれ、思わず青筋を立ててしまったこともしばしば。

(私はボケもんじゃなくて、その殻が欲しいのよ!)

そうして、作ったバスボムは、バスタブでしゅわしゅわと泡立ち、ささくれだった心をいやす。

前世のローザは、たまの休日に手作りのバスボムを入れた風呂にゆっくり浸かりながら、スマートフォンで小説や漫画を読むことを楽しみにしていた。

特に『幸せはある日突然に~隠された令嬢ものがたり』という漫画がお気に入りで、夢中になって課金した。

物語はまさにシンデレラストーリー、そして絵が美しい。

これほど彼氏なし社畜の心を潤すものはない。

主人公のエレンは、伯爵家令息デイビス・モローの子であるが、母が庶民のためモロー家に受け入れられず、市井で育つ。

生活は貧しく、母と娘は肩を寄せ合って生きていた。またそのパートが、けなげで……。

前世のローザは、泣きながら風呂で課金した。

そんなつらい毎日を送る中でエレンはある日暴漢に襲われそうになる。そこへ颯爽と現れたアレックスとその従者にエレンは助けられる。

だが、彼はエレンの無事を確認すると、お忍びで街へ来ていたため名乗らずに去っていく。

ここでも、またのちの展開に期待して課金した。

そんなある日、エレンに劇的な転機が訪れる。

なんとデイビスが伯爵位を継ぐと母子ともに伯爵家に迎え入れられることになったのである。

昨日まで貧しい生活をしていたのに、突然伯爵令嬢になったエレンは生活様式の違いに大いに戸惑った。厳しい淑女教育にも苦労した。

しかし、飢えずに済むということはよいことで、母の笑顔も増え、エレンは満足していた。

だが、その幸せもつかの間、母は流行り病にかかりあっけなく亡くなってしまう。

再び前世のローザは風呂でむせび泣きながら課金した。

そして、父と頼ったデイビスは、母の死にショックを受け、自暴自棄になり、酒浸りになっていく。

モロー伯爵家の財産は目減りし、デイビスの投資も失敗に終わり、とうとう没落寸前まで追い込まれてしまう。

『この先はいったいどうなってしまうの』『ここまで課金しまくったのに!』と、コメント欄は課金勢の皆さまで荒れていく。

そんなときエレンは、第三王子アレックスと王宮の舞踏会で再開した。

「君はあの時の……」

アレックスがエレンに気づき呼び止める。すると振り返ったエレンの大きな瞳が驚愕に見開かれる。

「あなたはあの時、私を救ってくださったお方」

二人は出会った瞬間に運命を感じ、お互いにひかれあい、数々の障害を乗り越えやがて結ばれる。

というご都合主義なシンデレラストーリーで、いろいろと突っ込みどころは多い。

しかし、けなげな薄幸の美少女が、きらきら王子様と出会い幸せになるお話は、疲れていた前世のローザの心を潤した。

そして、二人の恋物語の中での第一の障害は、悪役のローザ・クロイツァーの存在だ。彼女はアレックスに恋慕し、エレンとの間を邪魔する侯爵令嬢である。

二人は愛し合いながらもローザの妨害にあい、切ないすれ違いを繰り返す。

それがまた、前世のローザにとっては胸キュンもので、もう課金の手が止まらない。

だが、ある日突然アレックスがローザに弱みを握られ彼女と婚約することになってしまうのだ。

第三王子であるにも関わらず優秀なアレックスは王太子となる。さらに身分差が広がってしまう。エレンとアレックスは互いに恋心を秘め続けた。

辛い日々がつづくなかで、偶然の再会から、エレンとアレックスはローザの目を盗み再び逢瀬を楽しむようになる。しかし、ローザの知るところとなり、二人の仲は無残に引き裂かれた。

だがアレックスとローザの挙式半年前に、物語は急展開を迎える。

ローザは、その悪行からあらゆる方面に恨みを買っていので、何者かによって毒を盛られ死んでしまうのだ。

その後、アレックスとエレンの仲は、急速に近づいていく。しかし、王太子と没落寸前の伯爵家の令嬢では身分違い過ぎることが障害になってしまう。

エレンの実家ではアレックスの後ろ盾にはなることはできなのだ。

ここで第一章が終了し、第二章が始まる。

結局ご都合主義で父親デイビスが立ち直り、モロー家の財政が豊かになっていく。

デイビスは大商人の信頼を得て、後押しをうけ、伯爵家は次第に豊かになっていった。

ここら辺はお約束である。

このままうまくいくかに見えた二人だが、そこから第三章にはいり、二人の前に新たな試練が立ちはだかる。

王妃と側妃が身分差を理由に二人の仲を反対するのだ。

しかし、やがて周りはエレンの健気さに心を打たれ変わっていく。

最後は王妃や側妃と和解し、二人は周りから祝福され晴れて婚約者となる。

一方、クロイツァー侯爵家はその強引な政治手腕から、憎まれ恨まれ没落し、一家離散し、国外逃亡の末路をたどる。

物語の主軸はあくまでもエレンとアレックスのラブロマンス。

そうつまり、ローザ・クロイツァーとは第一章で毒殺されるモブな悪役令嬢なのだ。

(前世で散々課金したのに! 終わってからのまとめ買いの方が割引がきくってわかっていながら課金したのに! 絶望しかない。裏切られた気分だわ)