軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

平凡な毎日には遠い

せっかく場所をお借りして立ち会って下さったのに、話し合いの間ずっと子爵様そっちのけで醜い言い争いをしてしまった。

最中は冷静に話が出来たと思ったけど、十分感情的になっていたみたいだ。本当に失礼な事を……後日改めてお礼とお詫びに行かないと。

「リアナ、あんなもんで終わりにして良かったのか? 言い負かすだけじゃなくて……琥珀に言えば代わりに一発殴ってやったのに。……それとも、別の日にボコボコにするのか? 手伝うぞ」

「暴力はダメですけど、一部同意ですね。リアナ様……今まで我慢した分を考えると、もっとけちょんけちょんに言っても良かったと思いますよ。私も言ってやりたかったですし」

「良いの。今日言いたかった事は多分……全部言えたから。それにね、家族それぞれに『あの時はとても傷付きました』って色々書いた長ーい手紙を全員分用意して渡したから。そっちにたくさん書いてあるの」

師と教え子でしかなかった時みたいに、顔を見たら萎縮してまともに喋れないかもしれないと思っていた。なので今日直接伝えたけど、ジェルマンお兄様とウィルフレッドお兄様の分も用意していたので渡してある。

優勝したのに審査員の前で些細なミスを大袈裟に責められてとても悲しかった事とか、誕生日にプレゼントはいらないから頑張ってる事を褒めて欲しいと言ったのに叶えてもらえなかった事とか、ずっと根に持っていた事を家族全員分ネチネチ長々と書いたのだ。

流石にあの手紙の内容は、アンナやフレドさんに見せたら引かれかねないので詳しく教えるつもりはない。

「お父様とお母様にも、私はずっと家族に認められず辛かったって……いつかは直接会って言おうと思います。今はちょっと、難しいかな……けど手紙だけど、本音を伝えられたの。少しは家にいた時より成長できたかなって……」

「成長、してますよ! 元々才能があるのに努力も怠らず、なのにリアナ様をちゃんと評価しなかった家族ともちゃんと向き合うなんて……! 偉すぎます! 私が一等賞を差し上げます!」

「えっと……ありがとう、アンナ」

アンナは昔から私に対して評価が甘いので、あまり間に受けすぎないように聞いておくとして。

私は自分の中で区切りを付けてスッキリしたけど、まだ問題が山積みというか……残ってる物の方が大きい。

帰りませんとはっきり伝えたのに、お兄様達は私を連れて帰るのはまだ諦めていないみたいだし。

「リアナちゃん、養子だって子……ほんとに助けてあげるつもりなの?」

「助けるって言うほどすごい事じゃなくて……ただ、いきすぎた罰が与えられないように、そこは正したいだけで」

「そんな心配もしてあげる義理は無いと思うんだけど、……気にしないでいいよって言ってもリアナちゃんは無理だよね」

「いえ……私のこれは優しさじゃなくて……自分のためなんです。ふとした時にニナの事を思い出して、『結果的に私はこんなに幸せに過ごせてるのに』って暗い気持ちになりたくないという……完全に、私の都合で!」

「……はは、そっかぁ。リアナちゃんの精神衛生のためなら仕方ないね」

何をするか、どうしたいのか。どういう結末になって欲しいのか……自分でもまだ分からない。

でも家族達からニナだけが責められてる現在の状況が間違っているのは確かだ。

遠く離れた地から介入するのは難しいから、近いうちに一度クロンヘイムに戻る事にはなると思う。そのついでに、学園の退学手続きとか、関わっていたのに放り出して来てしまった仕事の引き継ぎなどもしたい。

あとは友人や、仕事でお世話になった人に手紙を用意出来ればと思っている。

街を出るかどうか、それについてはこれから判断するつもりだけど、どちらにせよ人工魔石については製造方法と一緒に子爵……を通してベタメタール侯爵に売却する前提で動き始める事にした。

これは、子爵様の対応の件とは関係なく決めた。

人工魔石の事業は十分すぎるほどの利益を生み出していて、このままだったらお金について何も心配せず暮らしていけるだろうと分かっているけど、どうしても他の事がやりたくて。

具体的に他にやりたい事があるという訳ではないのだが、自分がやりたいと思える事が何なのか、見つけるために色々な事をやってみたいと思っている。

しばらくは「これを調べてみたい」「こんな物を作りたい」と忙しかった間に細々した欲求が自分の中に生まれていたので、それを解消したい。

孤児院にまた通うようになって、琥珀と依頼にも行く日もある。事件のせいで街でも顔が知られてちょっと有名人になってしまったけど、良い人が多いのでそこまで困る事も起きてないし。

「次の街は美味い食べ物がたんとあるとこならどこでも良いぞ。でも琥珀は暑いのは苦手じゃ、夏も涼しいとこじゃないと嫌じゃな」

「確かに琥珀のこの尻尾は暑い土地では不便そうね」

街を出るのはまだはっきり決めた訳ではないが、「どこに行く?」とまるで旅行先を決めるように楽しい話題になっている。

アンナも最近、小説ではなくて色んな国の旅行記も読んでいるらしい。

「でも琥珀ちゃん、夏が涼しいところだと冬はとっても寒いですよ。雪が積もると大変だし」

「琥珀は寒いのは平気じゃ。 幼子(おさなご) の時は一冬、屋敷の周りは雪に閉ざされてたしの」

「一冬……そこまで雪が積もると、冬の間は保存食が主食になりますね。新鮮な果物などは手に入らないでしょうし、市場がやってるか……そうなると、卵や牛乳を使うお菓子は冬の間作れなくなってしまうかも……」

「リアナ、雪国はなしじゃぞ!」

「ふふ、分かったよ」

慌てて条件を言い直した琥珀につい笑ってしまう。冷え症気味で寒いのがとても苦手なアンナのために、厳しい冬が訪れる国は最初から候補に入っていなかったのだが。

実際、冬の間ずっと雪が積もっているような地域ではどうしても流通が滞るので、アンナが言ってる通り冬の間は市が無い場所も多い。琥珀の望むような「美味しいものがたくさん」の生活は冬の間は難しいという可能性が高かった。

私だって極端に寒いのも暑いのもあまり得意ではないので、夏はそこまで暑くならずに冬もあまり厳しい寒さが訪れない土地を探したい。

「フレドさんは、行くとしたらどんな所が良いとかありますか?」

「うん? 俺も……暑すぎず寒すぎず、あと清潔で、税金が高すぎず安全に暮らせる所が良いなぁ」

「シンプルだけど何気に難しい条件ですね……」

「まぁ、すぐ決めなくても良いんじゃない? なんか違うなって思ったら定住せずに次の街に行っても良いんだし」

なるほど。そういう柔軟な考え方もあるのか。

街を移動するにしても今みたいにしばらく宿屋かホテルに泊まって過ごすのも有りだな、と思う。幸い、それが叶うだけの収入は得ているし。

「失礼します……お客様にお手紙を預かって参りました」

地図を眺めながら話していた所にノックの音が響く。

誰だろう、子爵様? でも子爵様ならホテルの従業員がそう言ってるよね。

しかし、ドアの方から戻ってきたアンナも不思議そうな顔をしていた

「……リアナ様宛てじゃありませんでした」

「え?」

「フレドさんに、だそうです」

ちょっと内心首を傾げたくなる。フレドさんは今もアパルトメンの方で暮らしてて、ホテルには頻繁に……いや、ほぼ毎日通ってきてるとは言えどうしてここに。確かに不思議だ。

「へ? ………………は、」

ありがとうございます、とアンナから封筒を受け取ったフレドさんは裏側に書いてあったらしい宛名を見て固まった。

アンナはペーパーナイフを渡そうとしていたが、それも待てずに封蝋で留められたフラップに指を突っ込んで豪快に開けている。

私は……宛名を見て表情を変えたフレドさんが、手紙を読んでどんな反応をするかをあまり気にしないようにしたかったのだけど。

中を読み始めたフレドさんの様子が余りにも尋常じゃなくて、つい窺うように聞いてしまった。

「……誰から……いや、何の手紙ですか?」

「今頃……どうして、嘘だろ……でもこれ……」

手紙に真剣な視線を落としているフレドさんは、私の声にも気付かないみたいだ。

顔からは表情が抜け落ちていた。前髪の間から見えるフレドさんの瞳がいつもより濃い色をしている気がして、その鮮やかな緋色がほんの少し、知らない色に見えて怖くなった。

「……フレドさん?」

「あ、ごめん……驚きすぎて、……はは、ほんとびっくりした……」

本人の言う通り平静を失う程驚いたみたいで、さっき飲み干したばかりのグラスを持ち上げて口に付けた所でやっとグラスが空なのに気付く、そのくらいうろたえていた。

「俺……俺も、家族に見付かったみたいで……」

「ええ?!」

「それでエディが……俺の乳兄弟が、会いに来てて……今日の六の鐘が鳴る頃に、このホテルの下のレストランで待ってるって……ほんと驚いたな……」

フレドさんは、笑おうとして笑えなかった。「ごめん」と小さく呟いて、片手で顔を覆って顔を俯ける。

「フレド……これ落としたぞ」

「ん……ありがとう、琥珀」

乱暴に中身を取り出した封筒が絨毯の上に滑り落ちていたみたいだ。

琥珀も様子の違うフレドさんに戸惑っている。頭の上の狐耳は、何かを警戒するようにやや伏せ気味になって、尻尾の毛も心なしかいつもより逆立っていた。

「えーと……何があったか事情を尋ねても良いですか……? それとも何も聞かない方が良いでしょうか」

「いや、リアナちゃん……とアンナさんと、琥珀には話しておきたいな。いや、聞いて欲しいから……この待ち合わせにも、三人とも同席してもらって良い?」

当然、断る理由なんてない。

「良かったです。一人で会うって言われたらどうしよう、なんて説得すれば良いのか心配だったので……」

「はは、そりゃあ……頼もしいな」

空元気だと思う。けど、フレドさんはちょっとぎこちないけどちゃんと笑っていて……私はそれを見て少しホッとしてしまった。