軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

帰る場所

やっとリンデメンに帰って来た……依頼以外の事も起きたし、すごく疲れちゃったな……。

助けたら人がたまたまミセルさんのお父さんだったとか、大げさだってくらいに感謝されちゃった事とか、感謝されすぎて家に招待されそうになったのとか、色々。

あと巡礼室がやっぱり寒かったみたいで、体調が万全じゃない気がする。やっと帰って来た、と安心したせいか寒気を感じてきた。これは、今夜あたり熱が出るかもしれない。

リンデメンの外壁前で乗合魔導車を降りると、市場で甘いものを買って帰りたいと言う琥珀に自分の体調の事を話して、寄り道はせずに冒険者ギルドに向かって依頼たっせ報告を行う事になった。

「ダーリヤさん、ただいま帰りました……」

「英雄の帰還じゃぞ!」

「あら、リアナさん、琥珀ちゃん、お帰りなさい。……なんだかとても疲れた顔をしてるわね……? 何かあったのかしら?」

「ちょっと風邪っぽくなっちゃって」

「あら、昨日は寒かったからね。ギルドが用意した宿泊先はよく眠れなかった?」

「いえ、泊りがけの依頼自体にまだ慣れてないだけですよ。えっと、こちら……トネトリ村の森の奥のアビサル・ベア討伐証明部位です」

私はカウンターに、汚れないように紙で包んだアビサル・ベアの右耳を置いた。

「はい、たしかにアビサル・ベアですね。あと売却する素材はある? というより、もし良ければ肝臓を売って欲しいの。半分で良いからって……」

「毒を使ったんですけど、それでも良ければ。アコン=イツムの塊根の毒なので、加熱するレシピなら使えます」

「助かるわ。リアナさんと琥珀ちゃんの仕留めた獲物の素材は綺麗だからとても評判が良いのよ」

書類に記入するダーリヤさんに「リアナとバッチリタイミングを合わせて、琥珀が熊の脚の腱を切って、一発で無力化してやったんじゃぞ」と自慢する琥珀に、ダーリヤさんがほほえましそうに相づちを打ってくれている。

「あと……依頼中に魔物に襲われている民間人に手を貸しまして……護衛は私兵だったので、冒険者ギルドの他の依頼とは競合してません。簡単に顛末を書いて来たので、詳細な報告書と、緊急依頼の申請は後で提出しますね」

「どれどれ……あら、十分きちんと書いてもらってるわねぇ。もうこれをそのまま書き写せばそれでいいわよ」

「ほんとですか?」

私から数枚のレポートを受け取ったダーリヤさんが、感心したようにそう答えた。

どうしようかな、明日もう一度来て報告書等を出すつもりだったんだけど。明日体調が回復してる保証は無いし、今書いて行っちゃおうかな。

「書き写すだけなら私がやっておけるから、リアナさんはもう帰りなさい。顔色が悪いわ」

「あ……ありがとうございます。お言葉に甘えて、今日は早めに帰って休みますね」

私の体調不良を心配してくれたダーリヤさんに見送られて、その日は冒険者ギルドをすぐに出た。次の依頼のチェックは、後日体調が良い日に改めて足を運ぼう。

「ただいま帰ったのじゃ~」

「ただいまアンナ……」

「琥珀ちゃん、リアナ様、お帰りなさい。あらっ……リアナ様、なんだかお疲れの様子ですね……。何かトラブルでも起きたのですか?」

やはりアンナにも一目で見抜かれたか。

私はかいつまんで、依頼の魔物は予定通り討伐したものの、途中で遭遇したけが人を助けて、それが偶然ミセルさん達の父親で、すごく大げさに感謝されてしまってとても困った話をした。

診療所で治療を受けてるゾッコさん達に代わって荷車の番をするような形になり、往来で巡察隊に囲まれて事件の話を聞かれてそこでも称賛の嵐で、とても居心地の悪い思いをした事も。

「まぁ! さすがはリアナ様ですわ! これであの失礼な子も、父親の恩人のリアナ様に頭が上がりませんね!」

「もう、アンナったら。大変だったのよ。宴に招かれそうになるし……琥珀はご馳走に釣られそうになるし……」

「そうだったかの?」

琥珀はもう記憶に残ってないみたいだけど、私があの時内心どんなに焦ってたか、もう。

私の考えすぎじゃなければお見合いの斡旋みたいなことをされそうになってた事と、冒険者ギルドが手配した宿泊先がちょっと寒くて風邪を引いたらしい、という話までを私はやっと話した。

「昨日は冷え込みましたからねぇ。でも宿泊先の設備がそれでは困りますね。ここみたいな宿が依頼先にもあればいいのですが」

「このホテルと同じ水準は流石に求めちゃダメだけど……次は冬用の寝袋と暖房を用意するわ」

「それが良いかと思います。さ、リアナ様。今はとりあえずお休みください。後で寝室に蜂蜜と体が温まるスパイスを入れたホットミルクをお持ちしますね」

「! おやつと一緒に琥珀も飲むのじゃ! あ、でもあの変な匂いのする木の枝は入れなくて良いぞ」

「はい、では琥珀ちゃんにも、シナモン抜きで作りますね」

最近寒くなって来たのでよく登場するホットミルクにおやつをねだりながら、アンナを追って給湯スペースに向かう背中を見送った。

まだ寒気だけだが、本格的に具合が悪くなる前に治るといいのだけど。

「アンナ……?」

「あら、リアナ様起きてしまいましたか」

ホットミルクがやってくるまでもたなかったみたいで、私はベッドの中で布団にくるまってまどろんでいた。おでこにひんやり気持ち良い温度を感じて、うっすら目を開ける。アンナが私の熱をみるように、おでこに手をあてていた。

「ぐっすり眠ってましたね。もうお熱はないみたいで良かったです」

「ホットミルク……」

「喉が渇いているでしょうから、まずは白湯をお飲みください。ホットミルクは今作ってきますね」

「うん……」

寝起きのぼんやりした頭のまま、もぞもぞと体を起こす。二日ぶりにちゃんと暖房の効いた場所に戻って自覚したけど、寒い部屋で寝るのって結構体力が削れてしまうんだな。次からは「このくらい大丈夫」と思わずに寝る仕度をしなければ。

ホットミルクを作りに寝室を出て行ったアンナを見送る。もう外は真っ暗だった。しっかり寝てしまったみたいだ……。

「はい、温めにしておきましたよ。あとお腹が空いてらっしゃると思ってこちらもお持ちしました。簡単なパン粥ですけど」

「わぁ、ありがとうアンナ」

甘いホットミルクを飲み込むと、途端にさっきまで気付いていなかった空腹を感じた。尋ねると、既に階下のレストランも閉まっているような時間だった。琥珀も既に寝たらしい。

ホットミルクを作る鍋の隣でささっと作ったらしい、ほこほこ湯気を立てるパン粥も一緒に提供された。アンナの、私の事を私よりよく分かってる所に改めて感心してしまう。

「そうそう、フレドさんが伝えたい事があったみたいでしたよ。リアナ様が体調を崩して臥せっていると聞いたら、明日また来るとおっしゃってたので、急ぎの用事では無さそうでしたが」

「そっか、悪い事しちゃったな……」

「体調不良は仕方ありませんわ。リアナ様はまずしっかり体を回復させる事をお考え下さい」

「うん……ありがとう。……実家に居た時も、いつもこうして看病してくれたよね」

「ふふ、どうしたんですか? 風邪を引いて心細くなってるのか、いつもよりリアナ様が甘えん坊ですね」

私が食べ終わった食器をお盆に下げながら、困ったように、でも少し嬉しそうにアンナが微笑む。

旅先でも「アンナに甘えてるな」と自覚する出来事があった私は、その指摘にまったく反論が出来なかったのだった。