軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

変わらぬ想いⅡ

「お止め下さい! 術は使わぬとお誓いします!」

着飾っていた装飾品をすべて外し、地面に置いた。

すべての石を手放したことを確認すると、彼はルルに刃を向けていた男から短剣を受け取り、おもちゃを扱うように、それをくるりと回す。手慣れた仕草に、彼自身も武器の扱いになれていることが窺えた。

(ルルを人質に取られればなす術がないことも、私の術のこともすべて知られている……)

その用意周到ぶりに、ルトガーがこの時をまちかまえていたことを悟る。

初対面のときに、彼に覚えた違和感。

いまならあのときの違和感がなんだったのか分かる。

ルトガーは初対面の時、出立が遅れたと言っていたが、フェイルはその数日前から居城の空を飛んでいた。フェイルだけがルトガーよりも先にドレイク国に来ていたとは考えにくい。

ならば、彼もあの時点からドレイク国に滞在していたはずだ。

フェイルを使役し、ミレーユの近辺を探り、一人のときを狙って近づいた。

「目的は……、貴方がたの目的は何ですか?」

「いまは十年前の報復――とだけお伝えしておきましょう。ここで長話をすれば、不利になるのはこちらですから」

捕まるリスクは冒さぬとばかりに、彼は白地の衣を翻す。

「さて、花嫁殿。侍女を無事に返してほしくば、黙ってついてきてもらいましょうか」

「んん~~っ!」

ルトガーの言葉に、怒りのボルテージが最高潮に達したのか。ルルは人質とは思えぬダイナミックな動きで暴れまわり、右手をルトガーの頭部に直撃させた。その拍子に、彼の頭飾りが外れ、芝生の上に飛ぶ。

「――っ」

額に手を当て、ルルを睨むルトガーの瞳に、ミレーユは息を呑む。

切れ長の瞳が露わになり、目の下に刻まれた濃い影がハッキリと見える。

(あの目は……)

未来に希望を見出すことを諦めた、恐怖と絶望に打ちひしがれた色。

同じようなたくさんの目を、幼いとき見たことがあった。

一瞬、過去の記憶が想起されたミレーユだったが、逃れようと動き回るルルにハッとする。

ルルは口元を押さえていた男の指をがぶりと噛んで、叫んだ。

「姫さまっ、逃げてください! この人たち泥棒です! お部屋から衣を盗んでいたんですっ」

「ルルっ……!」

一人で逃げることなどできるはずがない。

彼の目を見て悟った。

もしもこのままミレーユが一人逃げれば、ルルは確実に殺されるだろう。

見知らぬ侍女を一人殺すなど、いまの彼の精神状態なら容易い。

できるだけ平静を装い、ミレーユはいつもの口調で静かに告げた。

「ルル、私は大丈夫だから。ルトガー様 のおっしゃる通りにして」

「姫さまっ!?」

「お願い」

短い懇願に、ルルがぐっと喉を鳴らす。

ミレーユは真っ正面からルトガーを見据えた。

「私はどこにでも参りましょう。ですが、ルルは解放してください。それが条件です」

その求めに彼は目を細め、薄く笑った。

彼らが盗んでいたとされる衣は、魔力封じの衣だった。

赤銅色の飾り玉がついた衣を被せられたときは、なぜ魔力の低い自分に? と訝ったが、封じの衣は魔力だけではなく、陽力も封じることができたのだ。

陽力は、上位種族であるルトガーたち鷹族でさえ容易には感じられないもの。だが、竜族の門番は違う。すぐにその存在に気づかれてしまう。

ゆえに、ミレーユを人知れず連れ出すには必須の魔道具だったのだ。

(これはどう考えても短期間で計画できるような代物ではない。ずっと前から練られていたものだわ)

鷹族が得意とする風の術で通常よりも速く馬を走らせ、着いた場所は砂漠の地。

辺り一面を砂が支配する大地に立つのは、三階建ての塔。

キラキラと輝く水晶で建てられたそれは、柱が等間隔に立ち並ぶ、壁のない造りをしていた。

強い日差しが砂に反射し、柱間から入り込む。

眩しさに目を細めたくなるも、視覚から入る情報は少しでも逃したくないミレーユは、必死に目を見開き、塔の中を探った。

(周りは砂ばかりで、建物はこの塔一つ)

何もない土地に建てられた理由は、一体何なのか。

灯台か、はたまた牢獄? しかし牢獄にしてはその機能がない。

風と砂が真っすぐに塔を突き抜ける造りには、閉じ込められるような部屋もなく。

あるのは、連れられた最高階の奥に見える石碑のみ。

石碑には何か文字が刻まれていたが、遠目からはなにが書かれているのか解読はできなかった。

「……ルルはどこに。私の侍女は無事なのですか?」

一人連行されてしまったため、ルルの安否は不明のままだった。

不安を滲ませれば、ルトガーは奥へと歩きながらサラリと答えた。

「ご安心ください、殺してはいませんよ。下手に殺せば、遺体を処理するのに時間がかかりますからね。あの娘は、部下が迷い隠しの道に置いてきました。今頃は戻ることも叶わず、ひたすらさ迷っていることでしょう」

「迷い隠しの道に……」

あの道は、竜族の者ですら迷う。人目につかず、戻りたくとも戻れない。そういった意味でも、迷い隠しの道は彼らにとって絶好の幽閉地だったのだろう

だが、あの場所はルルにとっては庭だ。

何度カインやナイルが出入りを禁止にしても、「なんで迷うんですか?」と不思議がるほど。

(よかった。ルルならきっと無事に戻れるはずだわ!)

さすがに侍女の特技までは調べ上げていなかったようだ。

ルルの身を案じていたミレーユは少しだけほっとし、ルトガーに見咎められないように胸をなでおろした。