軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

【首級の簒奪者】⑤

聞いたココルが目をしばたたかせる。

「な、なるほど。言われてみれば、そうですよね……。あれ? じゃあさっきの、ずっと一緒にいてくれとか言ってたのって……」

「ああ。このダンジョンを出た後も、引き続きパーティーを組んでほしいんだ」

「……はぁ」

「どうした?」

「……なんでもありませんっ」

そう言って、ココルがそっぽを向く。

怒らせてしまったかと少し焦るが、やがて戻された顔は小さく笑っていた。

「でも……うれしいです、そう言ってもらえて。わたしのこんなスキルでも、役に立つことがあるんですね」

「そうだ、だから……」

「だけど、やめておいた方がいいと思います」

ココルが、力なく笑いながら言った。

俺が何か言う前に、ココルが続けて話す。

「言ったじゃないですか。わたしとパーティーを組んでいると、キルボーナスが一切手に入らなくなるって。さっきの戦闘だって、アルヴィンさんにはパーティーメンバーとしてもらえる経験値しか入ってなかったはずです。あれがずっと続くんですよ? それでもいいんですか?」

「構わない」

俺は強くうなずく。

「言っていなかったが、俺もレベルは【43】あるんだ。あんたに比べれば低いかもしれないが、普通の剣士としては十分高い。これ以上はレベルも上がりにくくなってくるし、結局ソロでは限界がある。経験値よりも、俺は仲間が欲しいんだ。一緒に戦える、同じパーティーの仲間が」

「……それでも、ダメですよ。わたしとパーティーを組んでも、所詮は神官と剣士の二人です。行けるダンジョンは限られます。そして、これ以上メンバーが増えることもきっとないです。わたしが経験値を奪ってしまうから……。アルヴィンさんほどの剣士なら、もっといいパーティーにだって、入れると思いますけど……」

「行けるダンジョンが限られたって、ソロよりはずっとマシだ。余所のパーティーにまた入ることも、もしかしたらできるかもしれないが……もう追い出されるのはごめんなんだ。あんたならわかるだろ? それに、他のメンバーだってきっと集まるさ。高レベルの前衛と回復職が揃ってるんだ。有望なパーティーだと思わないか?」

「でも、わたしのスキルが……」

「経験値のことで文句を言う奴がいたら、そいつを追い出してやるよ。俺が必ずあんたの味方になる。あんたがいないと、俺はまともなドロップにありつけないんだからな。だから、頼む」

「うう……」

ココルは短く唸ると、うつむいてしまった。

自然と、俺の言葉も止まる。

会話が止んでしまったが、ここからどう声をかけたものかわからなかった。

思えば俺はずっと、人付き合いというものが苦手だった。マイナススキルのせいでいつパーティーから追い出されるか知れないともなれば、自ずと深入りは避けるし、卑屈にもなる。

女の子への声のかけ方も、よくわからない。

ひょっとすると……ココルは、俺だから嫌がっているのか?

性格を直した方がいいと言われたばかりだしな……。

とはいえ、はいそうですかとあきらめられるものでもない。

「その……俺の性格に問題があるのなら、直すよう努力する」

「ええっ、そんなことは全然ないですけど……さっきも助けてもらいましたし……」

そう言うと、ココルはまた黙ってしまった。

とりあえず、これ以上無理を言っても仕方がない。

俺はぎこちない笑みと共に助け船を出すことにした。

「あー……そうだな、今無理に決めてくれなくてもいい。とりあえずこのダンジョンに潜っている間だけでも、同じパーティーでいてくれないか? 後のことはそれからってことで」

「うーん……わかりました。それじゃあ、少しの間ですけどよろしくお願いします、アルヴィンさん」

「ああ」

俺はうなずく。

ひとまず、これでいいだろう。

あとは誠心誠意剣士としての役割をこなして、いいところを見せるようにしよう。

新しくパーティーに入った時とやることは変わらない。

とにかく頑張って役に立つんだ。

「よし、じゃあそろそろ……」

先へ進もうか、と言い終える前に。

俺は、通路の隅に光る物を見つけた。

「あっ、宝箱ですよアルヴィンさん!」

俺の視線を追って、ココルも同じ宝箱を見つけたようだった。駆け寄る彼女の後に続く。

「うーん、ミミック……じゃありませんよね?」

ココルは宝箱の前で足を止めて唸る。

ダンジョンではたまにこうして、古めかしい造形の宝箱が見つかることがある。

中に入っているのはコインやアイテムなど。価値のある物は少ないが、時々モンスターがドロップしない珍しいアイテムを拾えたりもする。

ただ一方で、鍵がかかっていたり、モンスターの一種であるミミックが化けていることもあった。

「俺が開けるよ。ココルさんは下がっていてくれ」

前に歩み出ながら、俺は言う。

この程度の階層なら、ミミックもさほど怖くない。

それに何より、今俺の後ろには回復職がいる。

ソロだったら多少ためらったかもしれないが、今は心配する理由がなかった。

宝箱の蓋に手をかけ、引き上げる。

幸い、鍵はかかっていなかった。

「えっと、どうですか?」

「……ミミックではなかったが、ハズレみたいだな」

俺は宝箱を覗き込みながら言う。

アイテムはない。あるのは大量のコインだけだ。

ダンジョンで拾えるコインは、実はそれほど価値がない。正式な貨幣を鋳造する原料となるので一定の値段で買い取ってもらえるが、麻袋いっぱいに詰めても大した額にはならない。

ただ、拾える物は拾っておこう。

「アイテムやコインは俺が運ぼう。レベル差はあるが、それでも運搬上限は俺の方がきっと上だ。ダンジョンから出たら平等に分けよう」

「あっ、はい。じゃあお願いします」

俺はステータスを開くと、画面を操作し、宝箱のコインをストレージに収納していく。

ストレージにはすでにいくらかのアイテムやコインが入っていたが、まだまだ余裕があった。

もしかしたら、ここが俺のドロップで埋まる時も来るんだろうか……。

レベルと共に無駄に上がっていった運搬上限だが、ここに来て役に立つ見込みがやっと出てきた。

にやけながらコインを収めていると。

「……ん?」

ふと宝箱の隅に埋まっていた、コイン以外の物を見つけた。

「あ、羊皮紙ですね」

ココルが隣に来て、宝箱を覗き込んで言った。

俺は無言で、その丸まった羊皮紙を手に取る。

白紙の羊皮紙がアイテムとして見つかることもあるが、その場合もっと束になっているはずだ。

これはおそらく……。

羊皮紙を広げる。

案の定、そこには文字が記されてあった。

隣でココルが言う。

「テキストみたいですね」

「ああ」

思わせぶりな原典(フレーバー・テキスト) は、こういう形でも見つかることがある。

俺はココルにも見えるように羊皮紙を広げながら、内容に目を通してみる。

“その▒▒▒▒▒▒は、使用者の持つ才の一つを失わしむる。”

「これは……」

俺はすぐに思い至った。

これはボスドロップであると噂されていた、スキルを消すアイテムの説明文だ。

おそらくここに潜っていた他の冒険者も、これと同じテキストを見つけたんだろう。

同時に思い出す。

俺が、このアイテムを目当てにこのダンジョンへ来たことを。

「あの……アルヴィンさん」

同じ事を考えたのか、ココルがおずおずと口を開く。

神官の少女は、へにゃりと笑って言った。

「もしもボスを倒せて、このアイテムが手に入ったら……アルヴィンさんが使っていいですよ」

「は?」

呆気にとられる俺に、ココルは言う。

「アルヴィンさんには恩がありますし……それにほら、わたしのスキルがなくなるとアルヴィンさんは困るでしょうけど、アルヴィンさんのスキルがなくなっても、わたしには影響ないじゃないですか。もし何かあって、アルヴィンさんが別のパーティーに入りたくなった時のことを考えると……その方が絶対いいですよ」

へにゃへにゃ笑うココル。

俺は口を閉じ、少し考えてから言う。

「……もしかして、また見限られると思ってるのか?」

「……」

「俺がいつかあんたのマイナススキルに嫌気が差して、パーティーから追い出す時が来る……とでも思ってるんじゃないか? アイテムを譲ると言って、俺がどうするかを試しているのか?」

そう言うと、ココルはうつむいてしまった。

俺は思わず溜息をつく。

「あのな……いや、いい。気持ちはわかる」

俺だって何度もパーティーから追い出されてきた身だ。

仲良くしていた連中に、代わりが見つかったからとある日いきなりお役御免にされたこともある。

卑屈になるなと言う方が無理だ。

「言っただろう。俺だってマイナススキル持ちなんだ、同じ境遇の奴を裏切るような真似なんて絶対にしない」

「はい……」

「それにな……アイテムのことは、たぶん大丈夫だ」

「え……?」

不思議そうにするココルに、俺は説明する。

「こういうボスドロップが消耗品であることはほとんどない。使って終わりなアイテムではきっとないはずだ。才の一つを、って書いてあるから一人に複数回は使えないだろうが……二人以上に使える可能性は十分ある」

「それじゃあ……!」

「ああ。俺たち二人とも、マイナススキルを消せるかもしれない」

ココルが、ぱあっと顔を明るくする。

今まで見た中で、それは一番いい表情だった。

「絶対! 二人でボスを倒しましょうね! アルヴィンさん!」

「ああ。頑張ろう」

羊皮紙をストレージに仕舞う。

俺たち二人は宝箱に背を向け、ダンジョンの更なる深層に向かい歩き出した。