作品タイトル不明
【器用さ上昇・小】⑥
ミート・ゾンビは、ほどなくして見つかった。
「いたいた!」
テトが弾んだ声で言って、ストレージから数本の投剣を取り出す。
それにしても……あらためて、奇妙な見た目のモンスターだった。
ミート・ゾンビは俺たちの前をペタペタと歩き回るだけで、襲いかかってもこなければ逃げ出しもしない。
「じゃあ、さっくり倒しちゃうねー」
そう言って、テトが投剣をまとめて放つ。
【投剣術】スキルのおかげか、それらはすべて正確にミート・ゾンビへと向かっていく。
だが……肉塊のモンスターは、突如横に跳び、それを避けた。
「嘘っ!?」
テトが驚きの声を上げる。
攻撃をガードしてくるモンスターは多いが、避けるモンスターは珍しい。
テトの横を抜け、俺は大きく踏み込んでミート・ゾンビへと横薙ぎを放った。
肉塊は後ろへ跳び、それを避ける。
追撃の刺突は、横に避けられた。
見た目に反し、かなり機敏なモンスターだ。
その時、やや上方から落ちてくるような軌道で、矢が飛んできた。
あまり勢いのついていなかったそれを、ミート・ゾンビは斜め前に踏み込むように避ける。
ちょうどそのタイミングで、突進してきたテトのナイフが突き立てられた。
【短剣術】スキルの一つ“スタッブ”は、ナイフ系武器の刺突攻撃の威力を大幅に上げられる。
四散する肉塊。
その前で、テトが参ったように頭を掻く。
「えー? なんか思ったより手こずったなぁ……」
「ゾンビ系モンスターの割には素速いわね」
「でも話に聞いていたとおり、全然攻撃してこなかったですね」
「それよりテトせんぱい。どうだったッスか? ウチの追い立て方は」
「え? あれ普通に外しただけじゃなかったの?」
「違うッスよ!!」
頬を膨らませるユーリに、俺は訊ねる。
「なあ、さっきのって……」
「? なんスか? アルヴィンさん」
「……いや、やっぱりなんでもない」
ただの見間違いだろう。ユーリは【弓術】スキルを持っていないのだから。
それよりも、経験値だ。早速ステータス画面を開く。
経験値の獲得履歴を見てみると、ミート・ゾンビの名前と共に、予想より多めの数字が表示されていた。
なるほど……二十九層で、安全に倒せてこの経験値なら、冒険者が群がるわけだ。
「……多いわね」
「は、はい。予想以上でした……」
「どれどれ……うっひゃあ! こんなにもらっちゃっていいんスか!?」
ユーリは目を丸くしている。
レベル【19】の彼女にしてみれば、常識外れの数値に見えるだろう。
まあ……俺たちにとっては、そこまででもない。
普段攻略のために潜る階層の通常モンスターの方が、まだ多くの経験値をもらえる。
ただ、せっかく来たのだからもう少し倒していこう。
「今のでなんとなく、動きのパターンは掴めたな」
「そうね」
「もうちょっと効率よくいけるかなー」
「わたしは、 AGI(敏捷) バフでもかけておきますね」
俺は剣を鞘に仕舞いながら言う。
「よし、次に行こう」
****
これほど経験値がもらえるだけあって、ミート・ゾンビは数が少ないようだった。
ダンジョンはバランスが取れているものだから、当然と言えば当然だ。こんなモンスターがしょっちゅう湧くなら、冒険者たちのレベルはあっという間に上がってしまう。
だから、最初の一匹以降はなかなか 会敵(エンカウント) しなかったが……それでも、他のパーティーよりはまだ効率的に探せていただろう。
テトの持つ【気配察知】のスキルは、障害物越しにもモンスターのシルエットを見ることができる。
「おっ、発見!」
墓石の陰から飛び出してきたミート・ゾンビに向け、テトは数本の投剣をまとめて放つ。
それらは、今度は避けられることなくすべて命中した。
テトは今、ミート・ゾンビが姿を現す前から投擲モーションをとり、ちょうど出てくる位置に向けて投げたのだ。そりゃあ当たる。
【気配察知】をこんな風に使う冒険者を、俺は初めて見た。
さすがにそれだけでHPがゼロにはならなかったが、ミート・ゾンビはその場でごろんと転がると、そのまま動かなくなった。
よく見れば、上の方に『Zzz…』のエフェクトが出ている。
睡眠の状態異常になっている証だ。
テトが拍子抜けしたように言う。
「あれっ、これだけで眠るんだ。睡眠耐性低いのかな、こいつ」
先ほど投げたのは、どうやら睡眠ナイフであるようだった。
威力が低い代わりに、確率で睡眠状態にさせる投剣の一種だ。
テトはすたすたと近寄ると、眠っている肉塊へ、ナイフを勢いよく突き立てる。
ミート・ゾンビが四散するエフェクトの中で、テトはナイフを回しながら笑って言った。
「これで二体目ー」
****
「やっと出てきたな」
ようやく現れた次のミート・ゾンビを見て、俺は呟いた。
それから、皆へと言う。
「ちょっと、こいつは俺にやらせてくれないか」
皆の了承を得ると、俺はゆっくりとミート・ゾンビに接近する。
一つ、試してみたいことがあったのだ。
肉塊のモンスターは、俺たちの前をぺたぺた歩き回るだけで何もしてこない。
本当に変わったモンスターだ。
攻撃もしてこなければ、逃げることもない。
ただ、こちらの攻撃を避けるだけ。
そしてその避け方にも、パターンがあるようだった。
俺は剣を振り下ろす。ミート・ゾンビは機敏に右へ避ける。
俺は刺突を繰り出す。ミート・ゾンビは機敏に左へ避ける。
「やっぱり……」
俺は、今度は横薙ぎを浅めに放つ。
ミート・ゾンビは、そのまま後ろに跳ぶようにして避けた。
その瞬間、俺は【剣術】スキルの一つ、“踏み込み斬”を発動。スキルの 補助(アシスト) によって AGI(敏捷) 値以上の速度で間合いが詰まり、跳んだ直後の肉塊をその剣先に捉えた。
ミート・ゾンビがエフェクトと共に四散する。
俺はふう、と息を吐いた。
やはり考えていたとおり、ミート・ゾンビはこちらから離れすぎないような、最小限の動きで攻撃を避けるようだった。
それさえわかれば倒すのも楽になる。
俺はパーティーメンバーを振り返って言う。
「よし。これで三体目だな」
****
それから四体目、五体目と、順調に倒していった。
そして六体目。
「……なんだか、さすがに疲れてきたな」
「うん……」
ぺたぺたと歩き回るミート・ゾンビを眺めながら俺が呟くと、テトが元気なさげに同意する。
見つかるまで時間がかかるうえに、倒すにも攻撃がなかなか当たらずイライラする。
HPが減る緊張感もないので、いい加減飽きてきていた。
それでもせっかく 会敵(エンカウント) したのだから……と剣を構える。
その時、後ろでココルが小さく声を上げた。
「あっ、いいこと考えました!」
それから、何やら詠唱し始める。
呪文が終わっても、俺には特に何も起きない。
その代わり、後ろでメリナが声を上げた。
「えっ、これ……」
「どうです? メリナさん」
「あなた、こんな呪文も覚えてたのね……でも、おもしろいわね。やってみる」
メリナが呪文を唱え始める。
俺は後ろを振り返りながら、微かに眉をひそめた。
魔法は速度が遅いので、小さくてすばしこい敵とは相性が悪い。
ミート・ゾンビにならば、普通に避けられて終わりな気がするのだが。
俺の心配を余所に、呪文を唱え終わったメリナが魔法を放つ。
ミート・ゾンビがいる場所を中心に、激しい爆発が起こった。
爆裂魔法は、敵に向かって飛んでいくわけではなく、座標を指定するタイプの魔法だ。
指定が正確なら放射系よりも当てやすいが……それでも、前兆エフェクトがあるせいでわずかな隙ができてしまう。
案の定、ミート・ゾンビは爆発から飛び退くように避けていた。
だが――――次の瞬間、その先でさらなる爆発が起こる。
「っ!?」
ミート・ゾンビが一撃で四散する。
後ろではココルが歓声を上げていた。
「わっ! やりましたねメリナさん!」
「どうにか当てられたわね」
ほっとしたように呟くメリナ。
少し経って、俺は気づく。
「ああ、そうか。《連続魔法》か」
《連続魔法》とは、一度唱えた魔法を連続使用できるようになるという変わったバフだ。
呪文を唱える時間が省略できる分、強力ではあるのだが……効果時間が短く、一度使ったら終わりで、さらに強力な魔法には使えないといった制限がある。
使いどころが難しいので、相当なマイナー呪文のはずだが、ココルはよく知っていたものだ。
二連続で撃てるとはいえ、当てるメリナもメリナだが。
「とはいえ、これで……」
「はい! 六体目ですね!」