軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

【ミイラ盗り】③

マーマンの群れを無事殲滅し終えた後。

俺たちは件の盗賊の案内で、ここ三十二層のセーフポイントへとたどり着いていた。

「いやー、ごめんね! 助かったよー」

地面に座り込んだ目の前の冒険者が、ニコニコ笑いながら言う。

「うっかりあのおっきな群れを引っ掛けちゃってさー。適当なところでタゲを振り切るつもりだったんだけど、迷惑かけちゃったね。あ、ボクはテト。見ての通り盗賊だよ」

その盗賊はテトと名乗った。

少し長めの黒髪に、やや高い声、中性的な顔立ちをしていてどちらか迷ったのだが……名前と口調からするとどうやら少年だったらしい。

十代半ばくらいだろうか。ココルやメリナよりも年下、俺が冒険者になったくらいの歳とそう離れていないように見える。

俺は首を振って答える。

「気にしなくていい。冒険者なら困った時はお互い様だ。俺はアルヴィン。剣士だ。こっちは神官のココルに、魔導士のメリナ。このダンジョンで出会って、臨時のパーティーを組んでいる」

「へー、臨時の? まあそういうこともあるよね。それにしてもお兄さんたち強いねー。もしかして、全員ソロでも深層に潜れるような人たち?」

「俺はそうだが……」

「私は何度か行った程度ね。事故が怖いから普段は避けてるわ」

「わ、わたしは、一人で潜ったことはありません……まだ」

とはいえ、二人ならたぶんソロでも問題ないだろう。

テトはニコニコと言う。

「魔導士で行けるだけでもすごいよー、ソロに向かない職なのに。神官のお姉さんは、そりゃそうだよね。回復職がソロで深層なんて行く意味ないし。でも上級神官だなんてかっこいいな。そしてお兄さんは、やっぱり慣れてる人だったんだね。三人しかいないけど、かなりの高レベルパーティーだったんだ」

「言われてみればそうだな」

ココルのおかげで、このパーティーの平均レベルは俺のレベル以上に高い。

思えば、身の丈以上のパーティーに入るなんて初めてかもしれなかった。いつもは弱小パーティーに潜り込み、レベル上げの手伝いとかそんなことばかりしていたから。

俺は訊ねる。

「そういうあんたは一人なのか?」

「ん? そうだよ」

「こんな場所で何をしていたんだ?」

「何って、盗賊職がソロでやることと言ったら決まっているじゃないか。宝箱漁りと、たまに経験値稼ぎだよ」

テトが笑いながら言う。

ステータスに表示される職業は、その種類によって受ける恩恵が変わる。たとえば剣士なら、パラメーターのうち STR(筋力) などが増加し、剣属性武器の攻撃力が上がる。魔導士や神官なら、MPと WIS(魔力) が増加し、攻撃魔法や治癒魔法が使えるようになる。

これが盗賊だと、 AGI(敏捷) が増加し、ナイフや投剣系武器の威力が上がると共に、解錠アイテムの成功率が大幅に上昇する。

宝箱は深層ほどいいものが入っているが、その分鍵が掛かっていることも多くなる。他の職業は高価な解錠アイテムに頼るしかないため、深層の宝箱は半分以上が盗賊職の独占状態だった。

ドロップに頼らずとも採算が見込め、それなりに戦闘力もあり、大量のモンスターにターゲットを取られても高い AGI(敏捷) で振り切れる。それゆえ、盗賊職はもっともソロに向いた職業だと言われていた。実際、テトの言うようなスタイルも珍しくない。

「ボク、こう見えてもそれなりにレベル高くてね。このくらいの階層なら全然余裕なんだ」

「確かに、マーマンも普通に倒していたな」

途中からテトも戦闘に参加していたが、投剣やナイフの扱いも熟達しているようだった。ずいぶんと高そうな武器を使っていたのを覚えている。それだけ実力があるのだろう。

ただ……、

「だが、なぜこのダンジョンに? もっとソロに向いたいい場所があると思うんだが……」

「まあね。でもそういう場所は人気だから、回収できる宝箱の数も限られるんだ。ここは人がいないし、小規模な割りに深層まである。意外と穴場なんだよ」

「そうなのか」

俺は納得する。

同じソロでも、どうやら剣士と盗賊では事情が違うらしい。

「てっきり、あんたもマイナススキル持ちなのかと思ったよ」

「マイナススキル? ああ、お兄さんたちもしかして、あの噂を信じて来たの?」

「噂?」

「ここのボスが、スキルを消すアイテムをドロップするってやつ。あははっ、そんなわけないのにね」

「どういうことよ」

メリナがむっとしたように問い詰める。

「私はここのテキストの大半を確認したと思うけど、少なくともその解釈が間違いとは思わないわ。どうしてそう言い切れるの?」

「簡単だよ。前例が無いからさ。ボクは盗賊だからそれなりにアイテムに詳しい自信があるけど、他に似たようなアイテムは聞いたことがない。アイテムどころか、スキルや魔法にだってそんな効果のものはないでしょ? 仮にそんなアイテムがあったとしたら、激レアだよ。こんな小規模ダンジョンでドロップするとは思えない」

「……パラメーターを下降させるアイテムはあるし、バフの中には、物理耐性貫通のような疑似スキルを付与させるものだってあるじゃない。逆があっても不思議はないわ」

「それ、全部一時的なものでしょ? ステータスをいじって永遠にそのまま、なんてアイテムは、やっぱりないと思うなー」

テトは笑いながら言う。

「もしかして、お姉さんはマイナススキルを持ってる人だった? だったら残念だけど、変な期待はしない方がいいよ。いくらレベルが高くても三人でボスは厳しいだろうし、もうこの辺で引き返したら?」

「……」

メリナは、憮然として押し黙ってしまった。

彼女のことだ。機嫌が悪くなったというより、テトの言うことにも一理あると思ってしまったのかもしれない。

とりあえず、俺は口を開く。

「テトさん。忠告はありがたいが、俺たちはこのまま進むことにするよ」

「ふーん……なんで?」

「俺たちは全員、そのボスドロップが目当てでこのダンジョンに潜ったんだ。その程度の可能性であきらめられるものじゃない」

テトが笑みを薄める。

「お兄さんたちはたぶん知らないと思うけど……このダンジョン、四十層まであるんだよ。当然、ボス部屋もそこにある」

四十層。

それは想定していたよりも、ずっと深い階層だった。

完全に中規模ダンジョンレベルの深さだ。俺もソロではとても潜れないし、ましてやボスともなれば、最低でも同レベル帯で四人以上のパーティーを組む必要が出てくる。

「いくらレベルが高くても、三人じゃあ難しいと思うな。やめておいた方がいいよ」

「それでも……引き返そうとは思わない。確かに想定よりも深い階層ではあった。だから今回の冒険でそのままボスに挑むかはわからないが……少なくともボス部屋に入って、属性や攻撃パターンを確認するくらいはしておきたい。次に万全の態勢で挑むために」

ちらと後ろを見ると、ココルとメリナがうなずいていた。

彼女たちだって、このくらいであきらめようとは思わないだろう。

「……ふーん……どうしても行くつもり?」

「ああ」

「はぁー……わかったよ」

と、そこでテトが立ち上がり、仕方なさそうに言う。

「しょーがないな。じゃあボクが、ボス部屋の前まで連れてってあげるよ」

「えっ」

「お兄さんたち、ここから下はマッピングしてないでしょ? 案内してあげる。ボクは一度行ったことあるし、出るモンスターも知ってるから、効率よく進めるよ。ボスの前に消耗したくないでしょ?」

「それは……助かる」

「いいよ。ちょうどこの辺の宝箱は回収し終わったからね。あ、そうそう――――はい、これ飲んで」

と言って、テトがストレージから小瓶を四つ取り出し、差し出してくる。

中には黄緑色の液体が揺れていた。

何かのポーションのようだが……。

「毒耐性を付与するポーションだよ。猛毒まで防げるやつ。ここから下は毒モンスターが出てくるから、使っておいて」

「あのう、毒耐性なら、わたしのバフでも……」

「お姉さんがMP使うことになっちゃうし、バフだとすぐ切れるでしょ? これは何時間も保つから」

「ありがたいが……いいのか?」

「うん。迷惑かけちゃったお詫び」

テトは俺たちに小瓶を一つ一つ手渡すと、残った一つを自分であおる。

「さ、行こう」

俺たちは顔を見合わせ、立ち上がった。

ボスの階層やドロップのことなど、懸念はできてしまったものの、運が良い。マッピングをせずとも道やセーフポイントの位置がわかるのは素直にありがたかった。

そんなことを考えながら、俺は耐毒ポーションをあおり――――、

「……っ!?」

その直後、地面に倒れ込んだ。

足が動かない。起き上がろうにも、手もつけない。できるのはわずかな身じろぎ程度で、まるで全身の感覚がなくなったかのようだった。

混乱しながらも、俺は、何が起こったのかだけは理解できていた。

視界の隅に、一瞬文字が映ったからだ。

《状態異常:麻痺》。