作品タイトル不明
約束の期日。
試飲会を終えて一ヶ月が経った。
試飲会のお酒は貴族たちの中で大人気となっており、アクアマリン領だけでなくホワイトベリル領やスフェレライト領、フローライト領全ての領地に買付けが殺到している。
そのお陰でアクアマリン領も収益が安定し、まだ復興出来ていなかったところにも手を伸ばせるようになってきていた。
中にはアクアマリン領と提携を結び、お酒作りなどを行っていきたいという領地もあった。
お酒は同じ作物を使っていたとしても、作り方や気候などによって全然味が変わってくる。
私的には色々な味を楽しみたいところだから、他の地でもお酒を作ってくれるのはとてもありがたいし大賛成だ。
製法を売って買い取ってもらうというのもひとつだと思う。
もしくは、うちから人を派遣して一緒に作っていくかだが……その辺は領地のやり方に任せるのがいいかもしれない。
あれからレイナたちは、それぞれ別の所へ収容されたと聞く。
メダルドはオディロンと同じように去勢をされて、アレキサンドライト国の鉱山に奴隷として収容されたそうだ。
メダルドの一件があってから、アレキサンドライト国とカルブンクルス国は不可侵条約を結び、アレキサンドライト国の国王陛下が即位している間は戦などをせず、友好的な関係を築いていくことになったらしい。
アレキサンドライト国からしたら痛手かもしれないが、カルブンクルス国としては良かったのかもしれない。
それと合わせて、娼館に連れていかれていた女性たちは無事にアクアマリン領へ帰ってくることが出来た。
精神的、肉体的にボロボロになっている人も多かったが、戻ってきたことで少しずつ傷が癒えていけばいいなと思っている。
もちろん私も、できる限りの事はするつもりだ。
レイナに関しては、オディロンたちと共に税金を使っているのを分かっている。
それに子供を捨てた罪は重い。
去勢されて子供を作れない状態になったあと、アレキサンドライト国の娼館に売られたらしい。
売られたと言っても、傷物だからびた一文にしかならなかったようだが……。
なぜアレキサンドライト国の娼館かと言うと……女性たちを買ったお金を全額アレキサンドライト国王陛下が負担し、そのお金をアレキサンドライト国王に返し続けなければならないからだという。
税金に関しても、レイナが使った分はアレキサンドライト国王陛下がまとめて返金してくれた。
恐らく、あちこちでお金が動くのが面倒になったのだと思う。
こちらとしても纏めてくれた方が管理がしやすいのでありがたい。
あとの三人の男たちに関しては、領主たちが代わりに全額支払った上で、それぞれ別の所へ鉱山奴隷として送られた。
今回支払った金額は相当なものだったようで、三家とも没落寸前だそうだ。
このまま行くと早ければ今年中にお取り潰しになるだろう。
「遂に……残り一年か……実際残りの借金ってどのくらいなのかしら……。」
少しずつ毎月返してはいたけど……本当に返し切れるのか不安なところである。
一応子爵の爵位と領主になったし、お父様だって孫をかわいがっているから取り上げるなんてことはしないと思っているけど……。
今日、王都に一旦戻ると言っていたから、その前に聞いてみようとお父様の元を訪ねた。
「お父様……お聞きしたいことがございます。」
リゲルを膝の上に乗せて絵本を読んでいるお父様。
なんだかシュールだ。
お父様が顔を上げると「なんだ?」と聞いてくる。
「えっと……約束の時間まであと一年ですが……残りの借金はどのくらい残っているのでしょうか……。」
二人の間に無言の時間が続く。
そんな私達をリゲルは不思議そうな顔で交互に見上げていた。
もしかして、自分で借金の金額を把握していないことを怒っているのだろうか。
いや、たしかに把握してなかったのは悪いと思っている……。
でも私にも理由があるのだ……。
とにかく忙しくて、なかなか確認する時間が取れなかった……というのと……お父様だから安心だろうと……。
うん……ただの言い訳です……。
お父様はなかなか話し出さず、少し待っていると急に笑い声が聞こえてきた。
「クク……ク……。ずっと話しに来ないから借金の金額を把握しているものだと思っていたんだがな……」
「も、申し訳ございません……」
「構わん。で、残債だったか……?それなら……もうないぞ?」
「……え?も、う……ない?」
お父様の言葉が信じられず聞き返す。
「あぁ……もう既に払い終わっておる。アレキサンドライト国王陛下が支払ってくれた金額で返済完了だ。お疲れ様。」
そう言って私の頭を撫でる姿は、子供を大切に思っている親の顔だった。
私は全額返済できたことに安堵すると、涙がポロポロと出てきた。
ずっと泣かないって思っていたのに……。
全てが終わったからだろうか。
「ジェラルディーナ。私こそお前に伝えなければならないことがある。今までオディロンの事で力になってやれずすまなかった。」
この婚約が決まった経緯。
それと結婚までの真実を、お父様が教えてくれた。
元々、オディロンの父親とお父様の仲が良く、自分たちの子供同士を結婚させたいという理由から婚約が決まったそうだ。
「ロンベルトとディアナが亡くなってから、スフェレライト領の税金が支払われていないと聞いてきてな。そのまま結婚させるか迷ったのだが、結婚すればオディロンも何か変わるのではないかと思ったんだ。ただ、何も変わらなかったな……むしろどんどん酷くなっていく一方だった……。オディロンを止めることが出来ずすまなかった。」
お父様の話を聞いて、お父様もずっと悩んで、苦しんでいたのだと、この時初めて知った。
「お父様。顔を上げてください。確かに色々ありましたし、苦しい思いもたくさんしましたが……。それでも楽しいことの方が多かったですし、色々なことを学べました。それに仲間も沢山出来たんです。私にとって、今この時間が何よりも宝物で幸せです。」
お父様に自分の気持ちを正直に伝えると、小さな声で「ありがとう」と言ってくれた。
お父様が帰ったあと、私は次の一年、何をするかを考える。
まだまだやりたいことはいっぱいあるし、借金が無くなったからと言って領地経営が無くなる訳では無い。
「次は何を作ろうかしら……。味醂は勿論だけど、それ以外にも交通機関も充実させたいし。料理も色々広げていきたいわね!時間は有限だもの。色々やっていきましょう!!」