作品タイトル不明
楽しい時こそ何とやら……。
乾杯をしたあと、皆がそれぞれ気になるお酒やご飯を取りに行ったりして楽しんでいる。
夫婦でゆっくりとお酒を飲む人や、友人同士で楽しむ人。
一人でゆっくり楽しむ人等、それぞれだ。
因みに私は一人でゆっくり楽しむ派だ。
誰かと一緒に飲むのも嫌いではないけど、一人の方がお酒の味や匂いを楽しむことが出来る。
「ふふふ。やっぱり一杯目はビールを飲みながら枝豆よね。貴族らしくは無いけど……」
本当は枝豆を鞘のまま、ゆっくり中身を出して食べるのが好きなんだけど、今回は一応貴族の集まりということで、中身だけを取りだしてオリーブオイルと唐辛子に、ニンニクを少し入れて炒めた。
枝豆ペペロンチーノ風だ。
ニンニクの匂いが空腹を誘う。
「やっぱりニンニクの匂いは最高ね。あとビールによく合うわ。」
一人、ビールを片手に食べていると、一人の女性が声を掛けてきた。
「あ、あの……」
「ひゃぃ!?」
急に声をかけられて思わず声が裏返る。
先程から男性陣に婚約者はいないかと聞かれるばかりで疲れていたのだ。
まさか女性が話しかけて来てくれるなんて、なんだか嬉しい。
「あ、の……申し訳ございません! それで、私に何か御用でしょうか?」
「突然申し訳ございません。私、アナイス・クリソベリルと申します。ずっと、ジェラルディーナ様とお話したいと思っておりました。」
クリソベリルと言えば、クリソベリル伯爵家でホワイトベリル侯爵家の遠縁に当たるはずだ。
「それはそれは……クリソベリル伯爵家の方に話しかけられるなんてとても光栄です。」
ビールを片手にニコりと笑うと、アナイス様が隣の席に座った。
「あの、ずっと女子爵として領地改革をし続け、更には国全体を動かしていく姿に感銘を受けました。」
「同じ女性が頑張っていると聞いて、私も前を向いて頑張ろうと思うことができました。」
「実はある女に婚約者を奪われまして……ずっと落ち込んでいたんですよ。でも、ジェラルディーナ様の話を聞いて前を向くことができました。本当にありがとうございます。」
まさかこんなかわいらしい女の子が婚約破棄されていたなんて。
やはりクソな男はどこまで行ってもクソなのね。
ビールを片手につまみは不幸話……ある意味最高ね……。
しかもある女に取られたっていうのがなんだか気になる。
もしかしてレイナだったりして……
「そ、うでしたか。因みにその女の……」
名前を教えてください……と聞こうとした瞬間。
ガチャりと扉を開けて、ズカズカと女性が会場に入ってきた。
アナイスの顔を見ると、その女の顔に見覚えがあるようで顔を真っ青にしている。
私もその女の顔を見ようと思って身体ごと振り向くと――
「ちょっと、あんた! オディロンをどこやったのよ!!」
まさか本当に来るとは思っていなかった相手。
レイナ・マラカイトだった。
「はぁ……あなたのことは招待していないはずなのですが。どうやってこちらに入られたのですか。」
私は立ち上がって、隣で顔を真っ青にしている女の子の前に立つ。
この真っ青な感じ……恐らく男を取られたのはレイナなのだろう。
「うるさいわね! それよりもオディロンがいなくなったのよ。どうせあなたが隠したんでしょ!!」
隠した……!?
あんなクソ野郎を隠して何になるというんだ。
寧ろあんな奴、こっちから願い下げである。
「ハァ……お話があるのでしたら、あちらでお話を聞きましょう。今日は貴女方のために舞台まで用意したんですよ?」
少し壇になっているところを指さす。
そう……初めからこいつらが来ることは分かっていたのだ。
それに来ていただいた貴族の皆さんには前もって伝え済みである。
そのためか、私が指を指すと、さっと道をあけた。
私はビールの入っていたコップをテーブルに置き、歩いて壇上へと向かう。
「さぁ、こちらへ。レイナ・マラカイト様。」
「それと……その後ろにいる四名の方々もです。」
「アウジリオ・アパタイト様、カルロ・オパール様、ジルド・カイヤナイト様、メダルド・アレキサンドライト第三王子殿下。」
そういうと、アレキサンドライト国の国王と、我がカルブンクルス国の国王が前に出てくる。
「お、親父!!!」
メダルド第三王子殿下は、アレキサンドライト国王を見た瞬間顔色を変えて外に出ていこうとした。
しかし扉の前にはすでに兵士たちが立っている。
「このバカ息子が!!!」
そう言うや否や、勢いよくメダルドの頭に拳骨を落とした。
「さて、あなた方には聞きたいことがたっぷりあります。」
「まず一つ。この領地にいた女性たちが貴族によって連れ去られたと耳にしました。」
「この国では人身売買、奴隷制度は廃止されております。」
「それで女性たちをどちらに連れていかれたのでしょうか。」
メダルドは何も話すことができないのか、それとも覚えていないのか、だんまりしている。
「いえないですか……? そうですか。」
「でもちゃんと証拠もそろっているのですよ。あなた方が女性を拉致したという証拠が……」
女性たちが攫われたという現場にいた領民たちが、この邸の中に入ってくる。
その中にダイダンさんやサンベールさん達もいる。
―――「俺たちは見たぞ! こいつらが袋に入れて嫌がる女性を連れて行ったんだ!!!」
―――「俺もだ。意識のない女性を抱きかかえて馬車に乗せているところを見たぞ!」
―――「俺は船に乗せているところを見たな。その時も女たちの意識はなかったよ……」
次から次に出てくる証言……。
本当にこの人たちは隠す気がなかったのだろうか。
それだったら、かなり頭の悪い犯罪者だ。
皆の証言を聞いていると、レイナが話し出した。
「わ、私は関係ないわよ……。やったのはこいつらなんだから。」
「……って言っていますけど。実際どうなんですか? そこの方々。」
レイナの言葉を聞いて、改めて四人に声をかけると、その中の一人が話し出した。
「おおおお俺はレイナがやれと言ったからやったんだ。」
そう言って話し出したのは、ジルド・カイヤナイトだった。
「金が入るいい仕事があると言われて……ダメなことくらいわかっていたが……目先の大金に目がくらんだ。そして、一度やったら感覚がマヒしてきて……いつの間にか犯罪に手を染めていると分かってもやめられなくなっていた。」
ジルドは元々カルロ・オパールと友人だったらしい。
そしてカルロから紹介された仕事がこの仕事だったそうだ。
そしてカルロは、ある女から言われた仕事だったと話し出した。
「そこにいるレイナがいったんだ。」
「アレキサンドライト国に連れて行けば金がもらえる。そしたら一緒に暮らせるようになるわ……って。」
「それで仕方なく……。」
カルロは女を見る目がないな……。
どうしてそんな女がいいと思ったんだ……。
お前も、唇が少し分厚くて目が二重で大きい子がタイプなのか!!
「なるほど……そうでしたか。」
「それでアレキサンドライト国まで連れて行った女性を弄び、そのまま娼館に売ったということですね。メダルド第三王子殿下。」
「俺がやったっていう証拠はあるのか!!!」
証拠って……。
あなた第三王子殿下なのだから、見ただけで大体の人は分かるでしょうよ。
自国なんだから……なんでそんなことも分からないんだ。
私は仕方なく、娼館に女性を売ったときの売買契約書と、メダルドのサインが入った契約書を出した。
「証拠でしたら……サミュエル第三王子殿下が態々アレキサンドライト国まで行って、サインの入った用紙と女性たちを連れ帰ってくれました。」
「これで……間違いないでしょうね。」
国王陛下がもってきた契約書を目の前に突き出すと、アレキサンドライト国王が近寄ってきて、またメダルド王子の頬を勢いよく殴った。
その瞬間、部屋の端までメダルドは吹っ飛んでいった。
「このバカ息子が。つくづくお前には愛想が尽きた。お前はアレキサンドライト国の王族から除籍する。せいぜいこの国で罪人として罪を償うのだな。」
それだけ言うと、アレキサンドライト国の国王は我が領地の領民に深々と頭を下げた。
「うちのバカ息子が本当に申し訳ないことをした。謝って済む問題でないことは分かっているが……せめて罪滅ぼしとして、賠償金を支払おう……本当にすまない。」
一人の父親として謝る国王陛下を見て……ただ呆然とするメダルドだった。