作品タイトル不明
待っていましたよ。旦那様。
作戦を考えてから数日。
痩せ細った子供も、少しずつ固形物が食べられるようになってきていた。
名前が無いと不便ということから、二人に名前をつけることにした。
「そうね。貴方は今日からリゲルよ。」
「リ……ゲル?」
私の言葉を頑張って真似するリゲル。
「そう。リゲル。貴方の名前よ。」
「信念をもって自分の道を突き進めるように。これから色々なことがあると思うけど、乗り越えていきましょう!」
リゲルが私の話した意味を分かっているのかは分からないけど、ひたすら自分の名前を反復していた。
「こっちの子が……シリウス。」
「強い意志で前へ進んで行って欲しいという意味を込めたわ。」
シリウスを抱っこしながら名前を呼ぶと、シリウスはニコリと笑った。
どうやら名前を気に入ってくれたようだ。
どちらも他の子達と同じように、星の名前からつけた。
リゲルには信念を持って我が道を行くという意味がある。
シリウスは希望、未来への期待、強い意志という意味が込められている。
こんな可愛い子たちを捨てるなんて本っ当に許せないけど……。
二人が息絶える前に見つけることが出来たのは本当に良かった。
「リゲルにシリウス。貴方たちにはお兄ちゃんとお姉ちゃんがいるから、今度会いに行きましょうね!」
「その為にも少しだけ部屋で大人しくしていてちょうだい。」
ミナリーに二人を預けて部屋を出ると、私はエリー達の元へ向かった。
「遅くなってごめんなさい。リゲルとシリウスをミナリーにお願いしていたら遅くなったわ……。」
「「「リゲルとシリウス?」」」
どうやら私が来たことで後ろを振り向いた訳では無いらしい。
二人とも、リゲルとシリウスの名前を聞いて吃驚したという感じだ……。
「そう。名前が無いと不便だしね……それに、あの子たちをそのままにする訳にも行かないじゃない。」
ラルフお兄様が盛大にため息をつく。
「本っ当に分かって言ってるのか!?」
「お前!犬猫を飼うのとは訳が違うんだぞ!?」
「それでなくても三人も子供を育ててると言うのに……。」
ラルフお兄様がため息をつく理由も、怒る理由もきちんと理解出来ている。
でも、ずっとあのままという訳には行かないだろう。
それにここにいれば、ある程度大きくなったら従者の仕事を教えることも出来るし……。
「分かっているわ。」
「でも、そのままという訳には行かないじゃない。」
「ラルフお兄様は二人を元の場所に戻してこいとでも言うつもり!?」
「そんなこと出来るわけないじゃない……。」
「だってこの子達は悪くないもの!」
お兄様は私の性格をわかっているからか、何かを言いたそうな顔をしてはいたものの、それ以上何かを言うことはなかった。
でも、お兄様の気持ちも分からなくもないので、小さな声で「ごめんなさい」と謝った。
「ふん。お前の事だ。何を言っても無駄だろう。」
「取り敢えず今は、あのクソ野郎を捕まえることだけ考えとけ。」
「恐らく……こちらの読みが正しければ、明日か明後日には来るはずだ。」
私の頭に手を乗っけてガシガシと頭を撫でる。
少しガサツなお兄様の手が妙に優しく感じた。
そしてそれから二日後……。
お兄様の読み通り、クソ野郎が邸内に訪れた。
私やエリー達は、クソ野郎の位置から見えないよう待機をする。
今回も前回同様、マルセルが対応をしてくれるようだ。
「おい、主人が帰ったぞ!出迎えは無いのか!!!」
侍女や従者には、何も知らない素振りをして欲しい。
いつも通りにして欲しいと言ってあるので、クソ野郎が大声をあげるとパタパタとエントランスへ向かう。
「お、おかえひ、なさいましぇ。御主人様。」
パウルの言葉に続けて皆が頭を下げると、清々しいくらい横柄な態度で中に入ってきた。
「ふん。今日はあの小煩いジェラルディーナは居ないようだな。」
「お前ら、俺が帰ってきたことは言うんじゃねーぞ!」
「さっさと金と米と麦を寄越しな!!!」
もはや言う言葉が強盗のそれと変わらないのだが……そう感じるのは気のせいだろうか……。
パウルなんか怖いのか「ひぇ」って言ってるし……。
誰一人そこから動かないことに痺れを切らしたのか、目の前にいる侍女の頭を鷲掴みにし、勢いよく前に投げた。
侍女の女の子はそのせいか、尻もちをつく。
「ひ、い、いたい。」
「お前みたいな侍女がヒィヒィ言うんじゃねーよ!」
「ほら、さっさと出さねぇとこいつと同じ目にあうぞ。」
本当に言葉遣いが悪くなって……どうしたらあんなふうになるのか不思議だ。
遠くで見守っていると、マルセルが動いた。
「オディロン・スフェレライト様。」
「残念ながら、貴方様にお渡しするお金も、米も麦もございません。」
「ですので、お引き取りください。」
マルセルが侍女の前に立ち、一言伝えると……さらに逆ギレしてくるオディロン……。
ついには、ナイフのようなものまで持ち出してきた。
「はぁ?なぜ俺に渡せないんだ!」
「俺はここの当主だぞ!」
「当主を舐めるのも大概にしろよ!!」
そろそろ限界かと思い、仕方なく前に出ていこうとすると、マルセルがこちらに手のひらを向けて待つように指示を出してくる。
「はぁ。大概にするのは貴方様の方でございます。」
「そもそも現当主は貴方ではございません。」
「その証に、貴方の印章は使えないはずです。」
「それに今の貴方は、ただのこそ泥にしか見えませんよ。」
確かに印章は既に形も変わっているし、私しか使えないことになっている。
それに、薄汚れていて無精髭を生やしているオディロンは、こそ泥にしか見えなかった。
「はぁ??お前は馬鹿じゃないか。」
「俺がここの当主じゃないだと!?」
「そんなの誰が決めたんだよ!!」
オディロンの言葉にエリーが出ていった。
「誰が決めた?それは、私の父上であり、この国の国王陛下であるクリストフ・カルブンクルスだよ。」
「オディロン。久しぶりじゃないか。」
エリーが近づいていくと、「な、なんでここにお前が……」って声が聞こえたが、エリーはそのまま続けて話をしだした。
「なんで、お前が?」
「それはお前が行った愚行のせいで、この領地を立て直さなければならなくなったからさ。」
エリーが話し出すと、オディロンは都合が悪くなったのか扉に向かって歩き出した。
が、扉には既にラルフお兄様が立っている。
「逃がすと思うなよ!」
お兄様が怒っているのがわかったのか、すぐさま踵を返す。
しかし、踵を返したところで逃げ場などあるわけが無い。
ついに私の出番となり、ゆっくりと外に出ていくと、オディロンは私の姿が見えたのか徐々に表情が抜け落ちていった。
「お久しぶりでございますね。旦那様。」
「いえ、クソ野郎。」
「貴方にはたーっぷりお伝えしたいことがありますので、是非とも私たちとご一緒に王都まで着いてきてください。」
そう言うやいなや、フィリベールが出てきてオディロンを縛りあげた。