作品タイトル不明
お酒を作ろうと思っていたのに!!
フィリベールにアクアマリン領を任せて、馬車でスフェレライト領に戻っていた。
行くときは異様な臭いを放っていた畑たちも、皆のお陰で臭いは消え去り、きれいな畑になっている。
今回は、フレデリクお兄様とエルミーヌお義姉様が子供を連れてアクアマリン領に遊びに来ると言っていたので、双子たちと子供たちはそのままアクアマリン領に置いてきていた。
どうやら私と入れ違いで、お父様もアクアマリン領に遊びに来るらしい。
お母様が以前よりもお父様と居られる時間が増えて嬉しいと言っていたくらい、お父様がちょくちょく連休を取って遊びに来ている。
これはきっと、“近くにいると当たり前になりすぎて気づかないが、少し離れたことで大切さがわかった”とかそんなところだろう。
それからスムーズに馬車は進み、スフェレライト領地に入り始めた頃……馬車が急に足を止めた。
急に止まったこともあり、バランスを崩す。
「ミナリー、大丈夫!? 急に止まるなんて……一体何があったのかしら!?」
この辺りに盗賊が出るなんて話は聞いたことがないし、治安もそこまで悪くないと思っていたのだけれど……。
御者に何があったか聞いてみると……今にも死にそうな子供が目の前に飛び出してきたのだという……。
「すみません。すぐ端に寄せますんでお待ちくだせぇ。」
端に寄せるって……倒れてしまったとかなのか……。
私は心配になって外に出てみると、そこには今にも息絶えてしまいそうな子供と、すやすや眠る赤ちゃんが横たわっていた。
「と、とりあえずこの子たち二人をすぐに馬車に乗せて頂戴!!」
「それと近くに水飲み場があればそこに連れて行って。」
「ミナリー、何か食べるものがあったか探してくれる!?」
二人の状態を見て、今できることを急いで指示を出していく。
一人の子はやせ細っているし、もしかしたら何日もご飯を食べられていないのかもしれない……。
もしかしたら固形物は無理かもしれないが、何も食べないよりはましだろうと急いで準備をさせる。
「ジェラルディーナ様。近くに掘っ立て小屋と井戸を見つけたので、一旦そちらまで進みますね。」
御者が歩いて探してきてくれたらしい。
「お願い!」と一言伝えると、ゆっくりと馬車が動き出した。
掘っ立て小屋に着くと、最近まで誰かが住んでいたような感じはあるが……出て行ってしまったのか誰もいない。
掘っ立て小屋についてしばらく経つと、お兄ちゃんが目を覚ました。
「目が覚めたようね? 大丈夫? あなたの名前は?」
身体を軽く起こし、コップに入れた水をあげると、ごくごくと飲み出す。
「な……ま……え?」
名前……がない!?
そんなことってある!?
見たところ、年齢は二、三歳くらいだろうか。
ステラと同じか、それより少し小さいくらいだろうけど……。
「名前は分からないってことなのね? じゃあ、パパとママは?」
「ぱ、ぱ……? まま……?」
首をコテンと傾げるこの子は、もしかして何も知らないのだろうか……。
迷子とかであれば、お母さんとお父さんのところへ連れていくこともできそうだけど……それも少し難しいように感じる。
もしちゃんと育てていたらこんな感じにはなっていないだろうし……虐待の線も拭いきれない……。
「んー……何か知っている言葉とかあればいいんだけど。無理かしらね……。」
「ただ、すごく誰かに似ている気がするのは私の気のせいかしら……ミナリーどう思う?」
髪は汚れているけど、洗い流せばきれいな金髪なのではないだろうか……。
目の色もきれいな碧眼だ。
貴族ではよく見かける風貌だけど、平民の間ではなかなか見かけない気がする。
「そうですね。私も一人だけ心当たりがあるのですが……そ、その。オディロン様にそっくりかと……。」
ミナリーが言った言葉が子供にも聞こえていたようで、名前を聞いた瞬間、少し体を震わせた。
「お……で……ろ」
「あなた、オディロンを知っているの?」
「その人はどこに行ったか知っている?」
オディロンについて聞いてみると、コクリと頷いてからフルフルと首を横に振った。
何となくだが……見えてきた気がする。
やっぱりあの時、レイナのお腹が大きくなっていたのは間違いではなかったということだ。
そのあと、私があまりスフェレライト領を空けることがなかったから、戻って来ることはなかったんだろう。
そしてマラカイト家が没落する寸前、レイナと一緒にこの掘立小屋まで逃げたはいいが……生きていくことが難しくなった。
「また、あの二人は自分たちの子供を捨てたのね。」
「後回しにしていたけど、本当にもう限界ね。」
「先にあの二人を捕まえて去勢しなくちゃだめだわ! 野良猫よりも厄介なんだから。」
それから私たちは二人をつれてスフェレライト領に戻った。
私が子供を連れてきたことにエリーもラルフお兄様も吃驚していたが、子供たちの風貌を見て何となく察した二人は、それ以上何か言うことはなかった。
うぅぅ~……お酒を作りに戻ってきただけなのに……。
まさかこんな面倒なことになるなんて。
あのくそ野郎どもには、つくづく嫌な思いをさせられるわ!
絶対許さないんだから!
あの二人を捕まえたら、おいしいお酒とご飯をたらふく食べてやる~!
そう心に誓って、二人を捕まえるために動き出した。
***
「エリー。ラルフお兄様。話があるのだけどいいかしら。」
ディーナが久しぶりに帰ってきたと思ったら、二人の子供を連れてきたものだから吃驚した。
周りの従者たちも初めは吃驚していたが、その前に似たような子供を三人面倒見ていることもあってか、チャカチャカと動き出している。
二人を侍女たちに預けてきたのだろうが、ディーナが一人で私たちのいる応接室にやってきた。
「あぁ。大丈夫だ。」
そこからディーナが話したことは、耳を疑いたくなることばかりだった。
「あの二人なんだけど、誰かに似ていると思わない?」
「髪は金髪で碧眼なの。あんな綺麗な金髪、貴族ではいるけど平民では中々見かけないし。顔はあのクソ野郎にそっくりなのよね。」
俺は一瞬考えてから、「オディロンか……。」と伝えた。
「そう……恐らくオディロンとレイナの子供だと思う……。」
「二人がね、たまたま馬車の前に飛び出してきたのよ……」
どうやら近くに掘っ立て小屋があったから、落ち着くまでそこにいたらしいのだが、誰も帰ってくる様子はなかったらしい。
それどころか名前がないらしく、名前を聞いても分からなかった。
かすかに反応したのはオディロンという名前だけだったそうだ。
「それでね。領地のことで忙しかったから後回しになっていたんだけど、そろそろあの二人を捕まえないと本当に厄介なことになる気がするの。」
「だから一緒に捕まえるのを手伝ってくれないかしら……まぁ何もしなくてもここに戻ってくる気はするんだけど。お金もないだろうし……」
確かに、以前もいない時を見計らっては戻ってきていたようだし、ありえなくはないな……。
それに、あのまま放置しておくと、いつまでたっても俺はジェラルディーナと結婚ができない!!!
それだけは絶対に困る。
ジェラルディーナが俺を好きになってくれるかはわからないが……それでも旦那がいる以上、アピールすることができないのだ……。
これはチャンスかもしれない!
「いいだろう! オディロンにはこの辺りで退場願いたいと思っていたしな!」
(俺たちの未来のために)
「二人を捕まえるのを手伝おう!」
そう言うと、ジェラルディーナは笑顔でこちらを向いた。
「ありがとう!!」
(これで早くお酒が飲めるわ!)
「助かるわ!!」
ラルフは二人のやり取りを見て、すごく噛み合っているように見えて全く噛み合っていないんだよな……と思っていたとか、いなかったとか……