作品タイトル不明
スフェレライト領に一旦戻ります。
領地を周って戻ってきてから、早くも一ヶ月が経とうとしていた。
正直、全てを立て直すには人手が足りないのと同時に、資金が足りなすぎる。
一応この一年の間に立て直しができれば……と思っているが、トンベリー・マラカイトが残した爪痕が大きすぎた。
「取りあえず……先に温泉町だけでも復興させましょう。」
「まずは富裕層に来てもらえるようにするのがいいわ。避暑地になるようにするの。」
「富裕層を狙うのは、うまくいけばお金を落としていってくれるわ。」
「お金はもらえるところから、もらえる分だけもらう。これが一番いいと思うのだけど、フィリベールはどう思う?」
「そうですね。それが一番かと。」
「特産品となりそうなものも、いくつか出来てきております。ギョルマー殿から連絡がありましたが、最近ではギョルマー殿や漁師の奥さんたちも一緒になって干物などを作ってくれているようですよ。」
いかの一夜干しや、干物は結構人気が出てきていた。
初めは躊躇していた人たちも、一度試食をしてから病みつきになっているようだ。
試食効果恐るべし……である。
日持ちがしないため、隣の領地のフローライト領や、蒸気機関車が通っているホワイトベリル領までしか卸せないのが難点だが、それでも味を知ってもらうだけで勝手に噂というのは広がっていくものだから丁度いいだろう。
あとは蒸気機関車が王都に通って、行き来がしやすくなれば、ゆくゆくは王都に卸すことも可能になっていくはず……。
今はスフェレライト領から王都に向けて工事をしているから、早ければ今年中には開通するだろう。
「そう……いい方向に進んでいるようでよかったわ!」
「漁師さんが外に出ている間、他の人に陸地での作業をしてもらいたかったの。そろそろ次の段階に進めそうね!」
「次は昆布も乾燥させてほしいと伝えてくれる? これも天日干ししてくれればいいから。」
「あとは別の魚でも干物ができないか、色々試してほしいとも伝えてほしいわ。」
昆布は乾燥させれば長持ちするし、和食には欠かせないものだ。
できたら他にも味醂干しや粕漬けなんかも作りたいから、やりたいことは山積みだ……。
「承知いたしました。ギョルマー殿にそのように伝えましょう。」
「それと、サンリード殿からも連絡がありました。街道整備は順調のようで、早ければあと一ヶ月で整備は完了するのではないかとのことです。」
「それと梅がそろそろ着色づいている頃だとも仰っていましたよ。」
梅が黄色くなってきているということは……熟されてきているということだ。
そろそろ梅干しにするにはちょうどいい頃合いだ。
「そう……第二弾でそろそろ収穫するように伝えてもらえるかしら。」
「あとカラハナソウも収穫するように伝えて頂戴。」
「あとは農業の方はどうなっているかしら。」
トンベリー・マラカイトの糞事件があり、畑を元の状態に戻すのに時間がかかったものの、何とか作物が育てられるようになるまでは回復した。
今年は試しに、大根に白菜、キャベツ。それと玉ねぎとトウモロコシを作ってもらっている。
大根は育ってきたら沢庵を作る予定だ。
白菜はビール漬けにするのもいいかもしれない。
トウモロコシは確か食べるだけじゃなくて、ガソリンにもなると聞いたことがあった。
これならもしかしたら車が動かせるようになるのでは……!? と思っているところだ。
「そうですね。無事芽は出て、少しずつ育ってきているようですよ。早ければ一ヶ月半から二か月くらいで収穫できるのではないかと。」
少し芽が出て育ち始めるまでは心配だったけど、育ち始めてくれたようで一安心だ。
「そろそろスフェレライト領で育てている麦も育つ頃だし、あれを作り始めないといけないわね。」
この一年、ずっとこれを作るために色々準備をしてきたのだ。
カラハナソウが見つからなかったときは諦めようとまで思っていたのだが……諦めずに探し続けてよかった。
それに去年作っておいた地酒も良い頃合いだろう。
こちらについては、お兄様とベルリック様にあとで手紙で確認するのも一つかもしれない。
「フィリベール。私、一度スフェレライト領に戻るわ!」
「フィリベールにはこのままここに残ってほしいんだけど、いいかしら?」
「えっ……一体どうしたんですか!?」
私の急な言葉にフィリベールが顔をしかめる。
そんな顔をしなくても、ビールとかビールとかビールとか作ったら戻ってくる予定だ。
「ほ、ほら、エリーたちにずっと任せっぱなしっていうわけにもいかないし、そ、そろそろ王都に戻らなきゃいけないかもしれないじゃない?」
「だから一度戻って様子を見てくるのよ!」
(ビールが作りたいの!)
「エリオット殿下は三ヶ月居れると仰っていませんでしたっけ……」
この顔は……疑っている目だ。
しかし、ここで負けてはお酒がまた遠のいてしまう……。
それだけは絶対避けたいし、焼酎に関しては早めにつくっておきたい。
「確かに三ヶ月居れると言っていたけど、三ヶ月そのまま放置というわけにはいかないでしょう?」
「一応私が領主代行なのだから。あちらの状態も確認しないといけないわ!」
「だから……お願いよ。フィリベールにしかここを任せられないの。」
両手を合わせてお願いすると、小さくため息をついてから「仕方がありませんね……」と返してくれた。
どうやらこの戦い……私の勝利で終わったようだ!
***
ジェラルディーナが急に一度スフェレライト領に戻ると言ったときは吃驚したものの、何か企んでいることはすぐにわかった。
ただ、ジェラルディーナがいない間に私もやりたいことがあったので、一度スフェレライト領に戻ってくれてよかったのかもしれない。
「はぁ、我が主には困ったものですね……今のうちに父上に連絡を取りましょうか……」
領地経営に関してはよく頑張っていると思うが、まだまだ細かいことまでは目が行っていないのがジェラルディーナだ。
その辺りはこれから学んでいってもらわなければならないが、今の状態でこれ以上仕事を増やすわけにはいかないだろう。
父上に連絡を取るのは、トンベリー・マラカイトが連れて行った女性たちの行方を調べてもらうためだ。
それと、この辺りの領主についても気になることが多い。
特にこの辺りは男爵領と子爵領が密集している。
それぞれの領地が大きいわけではないのだが、それもあってか少し無法地帯になってしまっている感じが否めない。
それと、あの二人の行方についてもだ。
マラカイト領を探してもらったが、二人とも見つけることができなかった……。
どこかの領地で匿われているのか……それとも他国に行ったのか……?
どちらにしても、あの二人には罪を償ってもらう必要があるのは間違いない。
子供を袋に入れて捨てた時点で虐待と変わらないし、横領もしているからな……。
あれから子供が増えていないことだけ祈るしかないが……。
そして、それから数日後。
事態は思わぬ方向に向かって動き出した。