作品タイトル不明
苦節十年……やっと見つかりました!
海の町を出て、次は山間に向かって進む。
干物や一夜干しを作ることが出来て、作り方も教えた。
同じ干物の作り方でも色々あるだろうし、魚の種類によって変えていく必要もあるだろうけど、そのあたりは今後ギョルマーさん達が試行錯誤してくれることだろう。
「フィリベール。山間の町まで馬車でどのくらいかしら。」
「そうですね。そろそろ山の中の道に入ってく頃かと思うのですが……。」
先程まで見えていた海が見えなくなってきたと思うと、今度は山の中を進み始めた。
木を切って道を均しただけのけもの道がずっと続いている。
「これは……馬車には不向きの道だったわね……。」
道には石が沢山落ちているのか、ガタガタと縦に大きく揺れる。
話していると舌を噛んでしまいそうだ。
それどころか馬車が転倒する可能性もあるだろう……。
「こ、こ、この辺りの道は早急に整えましょう。さ、さ、最優先だわ……。」
「そ、そ、そうですね。す、すぐに手配いたします。」
そして、揺れること数分……。
あまりに揺れるので外を眺めながら吐き気と闘っていると、外には見た事のある実が沢山成っていた。
「ちょ、ちょっと、一旦ここで止まってー!!」
私の声に二人がこちらを見る。
二人とも酔ってしまったようで顔色が真っ青になっている。
「二人はちょっとここで休んでいて。私は少し確認したいものがあるから。」
「し、しかし……」
フィリベールの言いたいことも分かる。
一応女だし、これでも一応爵位を持つ領主だ……。
一人では危ないと言いたいのだろう。
「大丈夫よ!! それにすぐ戻ってくるわ!」
「それに貴方達……今の状態で動いたら倒れてしまいそうだもの。馬車が見える位置にはいるから安心して頂戴。」
なにか言いたそうな二人を手で制してから、私は馬車の外に出た。
馬車の外に出ると、辺りには緑の丸い実が出来ている。
「これは……ずっと探して見つからなかったやつよね……。」
フローライト領でお米を作った後、ずっと探していたものだ。
手に取ってみると、私が探していたものと形は一致している。
一口食べて確かめたいところだけど、もし本物なら有毒成分を含んでいるし、私は匂いを嗅いでみることにした。
クンクンと鼻に近づけて嗅いでみると、桃に似た香りがする。
「桃の……香り。」
「昔漬ける時に、子供たちがこの匂いをよく桃と間違えていたのよね。」
「“お母さんだけ桃食べるなんてずるい!”って、よく言われたものだわ……。」
前世の記憶を思い出しながら懐かしそうに見つめる。
この実を探し始めて十年以上……。
こんなに近くにあったなんて。
「やったわ!! ついにこれで……梅干しが作れるわぁぁぁぁ!」
「それだけじゃないわ。梅ジュースや梅酒も作れるし……」
私は拾えるだけ拾って帰ろうと、梅を拾い始める。
そしたら、まさかのまさか、フローライト領にもなかったビールのもう一つの材料であるカラハナソウまで見つけることが出来た。
「いやぁ! これでついにビールまで作れる。ここは宝の山ね!」
本当であればこのまま山の中を散策したいところだけど、あの二人をそのまま放置しておくわけにはいかないだろう。
私は梅とカラハナソウを採れるだけ採ると、急いで馬車に戻った。
馬車に戻ると、先程より少し顔色が良くなった二人が出迎えてくれる。
「二人とも少し顔色が良くなったみたいね。見たいものも見れたし、先を急ぎましょう!!」
私が持っているものを不思議そうに見ているが、何かを聞くほどまだ余裕は無いらしい。
馬車に乗り込むと、ゆっくりと進み始めた。
獣道を進み始めて一時間くらい経った頃、次第に視界が広くなって明るくなり始めた。
どうやら森の中を抜けたらしい。
馬車もゆっくり動きを止めた。
「フィリベール。ミナリー。どうやら到着したみたいよ。」
二人に声をかけると、よろよろと立ち上がる。
あまりの顔色の悪さにそのまま馬車に乗っていてもらおうかと思ったのだが、二人は海の町でのこともあってか絶対降りると聞かなかった……。
「本当に大丈夫? 無理はしなくていいのよ……?」
「大丈夫です。また何時間も放置されたらたまったものではありませんし。」
「あとで話を聞くより、一緒に聞いてしまった方が手間も時間も省けますから……。」
さすが仕事が趣味というだけあるフィリベール……。
拍手を送りたいくらいだ。
「そ、そう。まぁ無理はしないようにね。じゃあ、行きましょうか。」
馬車をゆっくり降りると、集落の人たちが不思議そうにこちらに近寄って来る。
これだけの山間だし、人があまり来るということがないのだろう。
杖をついたおじいさんが、息子か孫っぽい若い男に連れられてこちらにやってきた。
「急にすみません。」
「新たにこちらの領地の領主になりました、ジェラルディーナ・アクアマリン・スフェレライトと申します。」
「トンベリー・マラカイトが諸事情により領主ではなくなりましたので、その挨拶に参りました。」
トンベリー・マラカイトの名前を出すと、皆嫌そうな顔をする。
こんな山間の村でも、トンベリー・マラカイトは嫌われていたらしい……。
「姉ちゃんはあいつの手下か!!!!」
「手下なら用はねぇ! さっさと帰ってくれ!!」
あいつの手下など死んでもごめんだが、後任と聞けばそう思ってしまうのも仕方がないだろう。
私は大声で皆さんに聞こえるように言った。
「トンベリー・マラカイトは私にとっても敵です。」
「あの方は他領に迷惑をかけてまいりました。」
「先日捕縛されて、すでに王都に送られています。」
「以前この領地で若い女性たちが連れ去られたという話は伺っております……。」
「あなた方の心労は計り知れないことでしょう。同じ貴族として謝罪させていただきます。申し訳ございません。」
「すぐにとは参りませんが、できる限り探し出すとお約束いたします。」
自分の思いのたけをぶつけると、渋々だが納得してくれたようだ。
中には、
「そんな若い娘に何ができるんだ!」
なんて声も聞こえたけど、敢えて聞こえないフリをした。