作品タイトル不明
家族皆で温泉旅行に来たはずが…!?
マラカイト子爵の一件から一週間が経った。
子爵が捕まったあと、オディロンとレイナも子爵家にいるのではないかと探したのだが、既にもぬけの殻でどこを探しても見つけることができなかった。
国王陛下が前日に行く予定を伝えたと言っていたから、逃げた後だったのだろう。
まぁ、お金もほとんどないだろうし、そんなに遠くにはいっていないだろうから、すぐに見つかるのではないかと思っているが、今は敢えて探さずこのままにすることにした。
というよりも、あの二人に構っている余裕は無いというのも一つである。
機関車の運転も始まり、他領地との行き来が活発に行われるようになり、流通が盛んになったのはいいものの、それと比例して新たな問題が増えてきていた。
その辺を解決するためにも、早急に他領とやり取りをして問題解決の方法を考えていかなければならないだろう。
そしてこれから一年かけて何とかしていかなければならないのは……子爵領を改革することだ。
子爵領を貰い受けたはいいが、スフェレライト領の経営もあり、正直いくら時間があっても足りないような状態である。
「せめて……あと何人かフィリベールやパウルみたいに動ける人がいればいいのだけど……」
パウルはフィリベールの下でこの一年ずっと働いてきたということもあり、以前よりも仕事が出来るようになっていた。
本当は同じように何人か育てたかったのだが、あそこまで仕事が出来る人間にするには時間がかかる。
「はぁ……どうしようかしら。マラカイト子爵領を復興するのであれば、少なく見積もって一年は必要だし。かと言って、スフェレライト領をずっと空ける訳にも行かない……。」
一人で悶々と考えていると、エリオット殿下とラルフお兄様が王都からスフェレライトへ帰ってきた。
「ディーナ。久しぶりだな。」
「エリーに、ラルフお兄様、久しぶりね! 会いたかったのよ!
(二人がいるなら安心して家族でマラカイト子爵領行けそうだわ。)」
二人に近寄り話しかけると、ラルフお兄様が頭を軽く撫でてくれる。
エリーであれば、私がここの領主代行になる前まで、ここの領主を一時的にしてくれていたし、任せても大丈夫だろう。
しかし、問題はどのくらいここにいられるかだ。
もし王都の仕事が忙しいとかであれば、お願いすることは難しくなる……。
「俺も、ディーナに会いたかったんだ!」
エリーの言葉に「私もよ!」と返すと、顔を赤くするエリオット。
きっと王都での仕事が大変だったんだろう。
フィリベールが側近から抜けたのだから、余計大変だったに違いない。
「それで、二人はここにどのくらいいれるの?」
挨拶も程々に、二人にどのくらいいれるのか確認すると、ラルフお兄様が少し考えてから答えた。
「そうだな……一ヶ月くらいか。」
「いや、三ヶ月はいれるぞ! 三ヶ月だ!!」
ラルフお兄様の言葉を遮るように話すエリー。
本当に三ヶ月も居ていいものなのかラルフお兄様を見ると、肩を小さくすくめた。
諦めていると言ったような、そんな感じだ……。
「そ、そうなのね。なら、丁度よかったわ! じゃあ、三ヶ月、申し訳ないのだけど、スフェレライト領をお願いしてもいいかしら。パウルに聞けば一通りわかるようになっているから! もし分からなければ手紙を頂戴ね。」
三ヶ月あれば子爵領の視察もできるし、ある程度どうしていけばいいのか計画を立てることも出来る。
こうして私はエリーとラルフお兄様に任せて、家族皆で温泉旅行も兼ねたマラカイト子爵領へ向かったのだった。
***
「なぜ、父上はジェラルディーナに会いに行くのに俺を連れて行ってくれなかったんだ。」
国王陛下がホワイトベリル宰相と一緒に蒸気機関車を見に行くことは事前に聞いていた。
国王陛下本人から聞いた訳では無いが、父上が教えてくれたからだ。
「そもそも、なぜ自分がいけると思ったんだ?」
国王陛下が行けなければ、エリーの兄であるハルトムート王太子殿下が行くだろうし、ハルトムート王太子殿下が行けなければサミュエルが行くだろう。
そもそも自分で継承権を放棄すると国王陛下に宣言したのだ。
その時点で王族が招待されたことに対して、行く順位は低くなるのも当然である。
「だって、ジェラルディーナと仲がいいのは俺じゃないか……。」
ジェラルディーナと仲がいい悪いで決まっているわけじゃないと思うんだがな。
そもそも俺だってお前の側近をしているから蒸気機関車に乗れなかったんだ。
すごい興味があったのに……。
言葉に出したい気持ちを抑えて、エリーの話を右から左へ受け流す。
「まぁ、それは仕方ないと思うぞ。また仕事が終わったらジェラルディーナに会いに行けばいいじゃないか。きっとジェラルディーナも会いたいと思っていると思うぞ。」
魔法の言葉“ジェラルディーナも会いたがっているぞ”と言えば、すごい勢いでエリーが仕事を片付けていった。
初めからそのスピードで行えば、もっと早く終わったはずなのだが……ジェラルディーナのことになるとうだうだ考えるからな……。
そして、国王陛下たちが戻ってきた後、俺は仕事が終わったエリーと一緒にスフェレライト領へと向かった。
エリーがディーナを見つけるなり、走り寄っていく。
「ディーナ! 久しぶりだな。」
「エリーに、ラルフお兄様、久しぶりね! 会いたかったのよ!」
俺は久しぶりに会ったかわいい妹の頭を軽く撫でた。
「俺も、ディーナに会いたかったんだ!」
「私もよ!」
こうやって二人の会話を聞いていると、好いている者同士がやっと会えた……みたいに聞こえなくもないが、俺にはディーナの“会いたかった”が別の意味に聞こえて仕方ない。
「それで、二人はここにどのくらいいれるの?」
滞在期間を聞くなんて、益々怪しい。
以前は期間なんか聞かなかったし、エリオットがどれだけいても気にしていなかったのに……。
「そうだな……一ヶ月くらいか。」
「いや、三ヶ月はいれるぞ! 三ヶ月だ!!」
いや、三ヶ月は無理だろ……。
また仕事が溜まって、王宮から出してもらえなくなるぞ!
今回だってハルトムートが怒って出してくれなかったじゃないか……わかっているのか!?
でも、あぁなってしまっては人の話を聞かないと思った俺は、小さく肩をすくめて頷いた。
少し、ディーナは納得していなさそうな感じではあったものの、小さい声で「まぁどっちでもいいか……」と言ってから話し出した。
「そ、そうなのね。なら、丁度よかったわ! じゃあ、三ヶ月、申し訳ないのだけど、スフェレライト領をお願いしてもいいかしら。パウルに聞けば一通りわかるようになっているから! もし分からなければ手紙を頂戴ね。」
それだけ言った翌日。
ジェラルディーナは俺とエリーを置いて、他の家族たちと温泉旅行に行ってしまったのであった。
俺はこの時のエリーの絶望した顔を、一生忘れることはないだろう。