作品タイトル不明
あと三年……。
オディロンとレイナがここを去って一週間。
新たなことを始めようと、一人でずっと悩んでいる。
オディロンとレイナはあれから顔を出すこともなく、きっと自分たちのいた住処に帰ったのではないかと思う。
また時間が経てばこちらに来るのだろうが……。
私が領主代行となり、印章も使用できなくした今、勝手に税金を持ち出すことはできないだろうし、スフェレライト領の領民には、私が領主代行になったこと、オディロンが来ても絶対税金を渡さないこと。
もしそれでも引かなければ「ジェラルディーナ様に確認いたします。確認出来たらお支払いいたします」とオディロンに伝えて、すぐに私に連絡するよう指示を出している。
「お父様との借金返済期限まであと三年。できるところまではと思って色々行ってきたけど、まだまだこれだけでは足りないわね……」
商会も軌道に乗っていて、おにぎり屋さんとサンドイッチ屋さんはついに二号店を出すことに成功したところだ。
二号店もすごい人気で、今のところ行列が絶えないと聞いている。
最近ではフローライト領だけでのお米生産が間に合わなくなってきていることもあって、他の地でも作ってみようという話が上がっている。
試しにフレデリクお兄様の友人が経営している領地で、新たにお米を作り始めていた。
フローライト領と似たような気候の領地ということもあって、問題なさそうと手紙で連絡をいただいている。
「やっぱり……一番は畑のフル活用なのよね。土地の状態が改善されつつある今、やるとしたら多毛作法を取り入れることかしら。」
この一年を使って、土地の状態は以前よりも改善されつつある。
南の領地は勿論の事、北側の領地もこの一年を使って土壌改良してきたからだ。
しかし、それだけでは収入の安定化はなかなか難しい。
一年を通して領民の生活が平均的かと言われればそうではなく、畑などが機能していないときはどうしても収入が減ってしまう。
収入が減ってしまえば、出稼ぎに出なければならないし……。
「外に出なくても、ある程度安定して稼げるようにすることが今後の課題ね……」
多毛作法を取り入れれば税収率もアップするし、領民たちの生活水準も高くなる。
さらに出稼ぎに行っていた若い人たちが戻ってきて、家族皆で生活できるようになるはずだ。
「多毛作法を始めて安定させるなら最低でも二年欲しい所よね。それと並行して色々な商品を開発する。あとは……他領のトンネル工事派遣に……カカオやコーヒーが取れる領地があるなら提携を結びたいところね。今は貴族しか気軽に食べられないチョコレートやコーヒーも、領民に行き渡りやすくなるかもしれないし。」
考えたことを書き留めていくと、「そろそろ休憩ですよ。」と言わんばかりに扉をノックする音が聞こえた。
「お嬢様。コーヒーをお持ちしました。少しお休みになられてはいかがでしょう。」
私がコーヒーの方が好きと知ってから、エルダはコーヒーの淹れ方をマスターしてくれて、いつもコーヒーとちょっとした甘いお菓子を持ってきてくれるようになった。
「ありがとう。そういえば、カイトスとアルナイル、ステラはどうしてる?」
カイトスとアルナイルが家に来て二年。
あっという間に二歳になった双子は、専ら剣を振り回す遊びに夢中だ。
よく庭でラルフお兄様と一緒に剣の稽古をしている。
稽古と言っても、見様見真似で剣を振り回しているだけだけど……。
二人とも昔から知育玩具で遊んでいたこともあってか、他の二歳児に比べてよく話す子に育っていた。
後は双子で話し相手がいることも大きいんだと思う。
ステラはカイトスとアルナイルの後をついて行っては、自分も同じ遊びをやりたがるようになった。
年が近い分、一人だけ仲間外れにされるのが嫌なようで、二人について行っては置いて行かれてよく泣いている。
お父様がステラのことをかわいがりすぎているので、少し我儘に育たないか心配をしていたのだが、双子たちのお陰でその心配はなさそうだ。
「三人とも遊び疲れて寝てしまいました。ステラお嬢様を見ていると、昔のジェラルディーナ様にそっくりですよ。」
どこか懐かしそうな顔をしながら笑うエルダ。
「そんなに似ているかしら?」
コーヒーをテーブルに置きながら頷くエルダを見て、子供の頃の自分を思い出す。
「えぇ、そっくりですよ。ジェラルディーナ様の場合は泣くということはなかったですけどね……。涙をぐっとこらえて、ラルフリード様やフレデリク様についていきますし、『お兄様ができるなら私もできるわ!』が口癖でしたからね。崖のぼりや木登りなんて始めた時は肝が冷えましたよ。」
中々自分の小さいころの話を聞くことがないからか、聞いていて恥ずかしくなってくる。
「負けず嫌いでじゃじゃ馬なお嬢様でしたから、今も色々なことに取り組めるのではないかと思いますけどね。ステラお嬢様にはもう少しお淑やかに育ってほしいと、フレイチェ様とお話しているんですよ。」
お淑やか……確かにそんな言葉は何処かに置いてきてしまった。
「ハハ……そう……ね。ステラにはお淑やかに育ってもらいたいものね……」
コーヒーを一口飲むと、ほろ苦い味が口の中に広がった。