作品タイトル不明
成果。
「それと、こちらの資料をご覧下さい。」
この一年間行ってきたことの内容と、その成果についてまとめた資料を宰相に渡す。
宰相がパラパラと中身を確認すると、バッと顔を上げてこちらを見た。
「ど、どうした!?」
宰相の行動に、国王陛下だけでなく周りの貴族達も吃驚している。
「陛下もこちらを見てください。それと貴族の皆さんにも配りましょうか。ジェラルディーナ夫人。よろしいですね?」
確か十部くらい刷ってきているから、貴族の皆さんに配ることは可能だけど、いかんせん昨夜急いで作った資料だ。
そんな大層な代物では無いはずなのだけど……。
「構いませんが……。」
私の返事を聞く前に、宰相は資料を配っているし。
宰相の姿を見て、フィリベール様にトンネルの話をした時のことを思い出す。
フィリベール様も、興奮したり集中したりすると周りの声が聞こえなくなっていたな……と。
「とても綺麗にまとめられていて、とても見やすい。しかもそれだけじゃない……全く同じ資料が、それも十部あるではないか。同じ絵も載っているし、これはどうやってるんだ!?」
興味があったのはそっちかぁぁぁ!!
“資料の内容が綺麗にまとまっている”という所ではなく、印刷という技術に興味を持ったようだった。
これはある意味、トンネルを掘った時の副産物だったのだが……。
トンネルを掘った時、なるべく地盤が緩くならなそうなところを掘ったら鉄鉱石がたくさん出てきて、その鉄鉱石を再利用できないかと考えた結果が活版印刷だった。
資料をまとめたり、商会のメニュー表を作るのに役立つだろうと思って作ったのがきっかけだ。
絵はグラフしか載せていないけど、この世界でグラフなんていう概念は無いから、見て吃驚したのだろう。
「こちらは活版印刷という印刷技術を使ったものです。こ、こちらの内容については後ほどお話させていただきます。と、取り敢えず今は、この一年の報告をさせて頂いてよろしいでしょうか?」
後で話すことを伝えると、仕切り直すように国王陛下が咳払いをした。
「すまんな。話を続けてくれ。」
「はい。この一年間で行ってきた政策として、三つございます。一つ目は先ほどお話したトンネル。二つ目は南の地にできている作物を商品化すること。そして三つ目は痩せこけた土地を再生することです。」
“痩せこけた土地を再生する”という話をした瞬間、静まっていた会場がザワザワとしだした。
―――そんなことが出来るのか!?
―――いや、できるわけが無いだろう。
―――本当にできるとしたら……私達の住む土地ももっと良くなるかもしれない。
私の言葉を信じていない人。
私の言葉を信じたいが、まだ信じられないと思っている人。
もし出来るならやり方を教えて欲しいと思っている人。
様々な言葉が会場中を行き交っている。
「一つ一つ説明させていただきます。まずは皆様。そろそろ小腹が空いてきている頃だと思いますので……少し場所を移動したいと思うのですがよろしいでしょうか?」
エリーに前もって別会場を一つ準備しておいてもらった。
勿論、国王陛下にも許可を取ってもらっている。
別の部屋に移動をすると、一席ごとにコーヒーとチョコレートを準備してもらっていた。
「こちらはコーヒーとチョコレートというものです。最近シュエット商会から売り出し中の商品で、人気が出てきています。暖かい地域にしかない、コーヒー豆とカカオ豆から作りました。皆さんも暖かい地で一度は見た事があるんじゃないでしょうか。」
コーヒーとカカオの、発酵する前の状態の実を皆の前に出すと、一人の貴族が立ち上がった。
「あれは! 食用には向かないと捨てることしか出来なかった実じゃないか!」
その言葉に頷いている者もいる。
やはり、今日集まっている人達は同じような領地を所有する者でビンゴだったようだ。
「はい。その捨てるしか無かった実をなんとか物にしたのです。これには半年以上かかりました。もし他の地でも同じようにカカオ豆やコーヒー豆が捨てられているということでしたら、我がシュエット商会が買い取ります。チョコレートとコーヒーの製法についてはお教えできませんが……」
「何故製法を教えてくれないんだ!」という声がちらほら聞こえたけど、そう簡単にホイホイ製法を教えるなんてことする訳がないだろう。
もし製法を教えるのであれば、きちんと契約を交わして、お金を払ってもらうし、主導権は全てこちらが握らせてもらう。
姉妹店としてお店を出したいなら、毎月の売り上げの何割かはこちらに払ってもらいたいところだ。
まぁ、今ここでそんな話はしないけれど。
私の話を聞いて、貴族たちの目は、少しでも買い取ってもらえるならという派と、姑息な真似をしてと思っている派に分かれている。
取引するなら絶対前者の人だけにしようと心に決めた。
「そして三つ目の土壌改良です。これはフローライト領でも行っており、すでに成果が出ているものでもあります。一つは連作障害を起こさないよう、同じ作物を繰り返し植え続けない工夫をしました。あとは暖かい地域で育ちやすそうなものを植えるようにして、今は様子を見ている状態です。あとは肥料をまくこと。」
国王陛下は資料を見ながら話を聞いている中で、一度手を挙げた。
「何故同じものを続けて植えてはいけないのか、肥料とは何か教えてくれ。」
「では、次のページをご覧ください。こちらはフローライト領で数年かけて実験した結果です。同じ作物を繰り返し植え続けると、土の栄養価が失われやすくなり、作物が育ちにくいという結果がわかりました。」
フローライト領でおいしいお米が食べたい一心で色々実験をした結果を見ながら説明をすると、国王陛下はあごひげを触りながら「なるほど……そんなことがあるのか……」と納得してくれた。
「そして肥料については色々種類がありますが、一番は堆肥が効果的でした。堆肥とは牛糞などの家畜の糞と、稲の落ち葉、野菜くずなどを腐熟させたものを言います。」
私の言葉に対し、一人の貴族が大声を上げた。
あの人は、さっきの話の時も文句を言っていた人だ。
「汚いじゃないか! そんなの食べられたものではない!」
「汚い? ですか。私的にはその言葉が出てくる方が汚いと思いますが……この結果だってこちらの資料に載っていますし、堆肥には様々な栄養があるのです。あくまでも自然の輪廻にのっとっているだけの事。やせた土地に対し、何もせずそのまま放置している方がよっぽどどうかと思いますが……。」
一歩一歩近づいていき、資料のページを目の前に突き出すと、何も言い返せないのか言葉を詰まらせていた。
「現在スフェレライト領では、サトウキビとサツマイモを交互に植えて様子を見ております。これでうまくいくようであれば、今後は別の物も植えていく予定です。」
資料を見ながら全て説明を終えると、国王陛下は一度目を閉じて考え出した。