軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

チョコレート。

チョコレートはコーヒーより少し作るのに時間がかかるだろう。

なんて言ったって、ペースト状になるまで混ぜなければならないからだ。

「粉末状になるまではコーヒー豆を炒る時に手伝ってもらったから残りの工程は半分くらいだけど……これがまた大変なのよね……」

さらに細かくなるように、すりこぎとすり鉢を使ってゴリゴリしていく。

すりこぎとすり鉢は、この為だけに今回作ってもらった。

少しずつカカオの香りが充満してくる。

カカオの香りは慣れない人が嗅ぐと酔ってしまうと聞いたことがあるけど、コーヒーを飲みながら談笑をしている三人組には全然効かないようだ。

そして、すりこぎを使って細かくすること数十分……。

腕がそろそろ限界だと思ってきたころ、エリーが近寄ってきた。

「これを回せばいいのか? 俺が代わる。ディーナは少し休んでこい。」

いやいや、王族にこんなことやらせるなんて……ダメだよね! 普通……。

なんなら、そこはお兄様がやるって言ってくれるんじゃないの?

ラルフお兄様のほうをジロリと見ると、お兄様がスッと目を逸らした。

「いえ、でも……」

「いいんだ。俺がやりたいんだから。時間になったら教えてくれ。」

私が持っていたすりこぎをひょいっと奪って、ゴリゴリとすり始めた。

そして、待つこと三十分くらいだろうか。

細かくなってきたのを確認した私は、チョコレートを仕上げるためにココナッツオイルを加えていく。

ポイントは湯煎をしながら混ぜていくということだ。

植物油ならなんでもよかったんだけど、幸いなことに南の領地にココナッツやバナナも実っていた。

そこからココナッツを持ってきて、ココナッツオイルにしたというわけだ。

バナナはトンネルが出来れば収穫して売りに出そうかなと思っている。

「あとは何度かテンパリングの作業をすれば完成ね! 水が入らないように気をつけながら行わないと……。」

湯煎で溶かしたチョコレートを、広めの台の上に広げて冷やし、また湯煎にかける。

これを何度か行っていくうちに、チョコレートに艶が出てきた。

「これで完成か!?」

甘くて美味しい匂いにつられて、ラルフお兄様とフィリベール様が近付いてきた。

「粗方完成はしていますが、ここから固める作業があります。固まるまでは二時間くらいかかるでしょうか……?」

「「「に、に、にじかん!?」」」

クッキーを作るのにだって結構時間がかかるし、フルコースを作るとなったら半日以上時間がかかる。

きっとこの人たちは、料理をするのにこんなに時間がかかると思ってもいなかったんだろう。

「えぇ。それに、美味しいものを作るには時間がかかるものだわ! 三時のお茶の時間には出せると思うから、それまで待っていてちょうだい!」

そろそろお昼の時間になるし、料理人たちも三人が怖いのかチラチラこちらを見てきている。

料理長に関しては、三人を連れていくように目で訴えてくるし……。

「ほらほら、そろそろお昼時の準備をしなくちゃいけないんだから、外に出ていった、出ていった。気が散って、仕事の邪魔になってるわ!」

お兄様の背中を押して、調理場の外に追い出す。

エリーとフィリベール様も残念そうな顔をしながら後ろをついてきた。

***

コーヒーを飲んだ時は衝撃を受けた。

芳醇な匂いが調理場中に漂った時、絶対美味しいだろうなと思った。

そして飲んでみたら、程よい苦さが口の中に広がり、なんだか癖になる味をしていたのだ。

ラルフは苦手だったようだが、俺にはちょうどいい味わいだった。

これがあれば、甘いものが苦手な俺でも何とかなりそうな気さえする。

昔から、砂糖の味しかしないような甘ったるい菓子を食べるのは、いつも苦痛でしか無かった。

十年くらい前から砂糖が出回り始めたが、砂糖の使い方を間違えているんじゃないかって言うくらい甘く……。

それでも、お茶会に出れば何とか食べきらなければ失礼にあたると思い、無理やりにでも飲み込んでいた。

そんな時、ディーナが作ってくれたクッキーというのを初めて食べる機会があった。

どうせ甘いだけで美味しくないんだろうと……どうしても食べる気にならずにいたのだが、たまたま俺の腹の音が鳴ってしまい、ディーナに無理矢理クッキーを食べさせられたのを今でも覚えている。

「ディーナのクッキーなら甘くても食べられるようになったんだよな……。」

皆で廊下を歩きながら、ふと昔の記憶がよみがえる。

いつからだろうか。

ディーナを好きになったのは……。

クッキーを食べた時かもしれないし、病弱な俺と嫌がりもせず遊んでくれた時かもしれない。

いま思えば、ほんの些細なことがきっかけだったような気さえする。

「エリー。どうかした?」

俺の声が聞こえていたのか、ディーナが振り返った。

「いや、なんでもない。」

ディーナが作るものはなんでもおいしいからな。

チョコレートがどんなものなのか、今から楽しみで仕方がない。

お茶の時間がこんなに楽しみなのは久しぶりだ。

黙々と仕事をしていると、あっという間にお茶の時間になり、ディーナがチョコレートを持って現れた。

「お待たせー! チョコレートができたわよ! あと一緒にコーヒーも持ってきたわ!」

見た目は可愛らしい形をしているが、左から右に行くにつれ甘さが違っているらしい。

左側が甘さ控えめで、右側が甘めだそうだ。

「あと、ラルフお兄様にはこれ! コーヒー牛乳よ!」

作り方は簡単らしく、コーヒーと牛のミルクを混ぜて砂糖を入れたらしい。

ラルフは気に入ったのか、「美味い」と言って飲んでいた。

三人それぞれチョコレートを手に取ると、恐る恐る口の中に入れる。

俺が甘いものが嫌いなのを知っているディーナは、甘さ控えめのものをくれた。

「こ、これは……!?」

コーヒーとは違った苦味と一緒に、カカオの匂いが口の中にふわっと広がる。

舐めていると、あっという間に溶けて口の中から無くなった。

「うまい……。」

それ以外の言葉が、俺は出てこなかった。

ラルフやフィリベールも同じ気持ちなのか、口の中でチョコレートが溶けてなくなるのを楽しんでいる。

俺たちの言葉を聞いて嬉しかったのか、ディーナがにこりと笑って――

「これでまた一歩、オディロンの破滅が見えてきたわ!」

恨んでいる気持ちもわかるが、まさかそんな言葉が出てくるとは思わなかった。