軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

コーヒー。

エリー達がスフェレライト領を出て数日。

南の領地から持ってきたカカオ豆とコーヒー豆を、どうしたらチョコレートとコーヒーにできるか考えていた。

とりあえずカカオは、取った初日に中身を割って豆を取り出し、木箱に入れて発酵させてみたけど……。

持って帰ってくる間にも時間が経っているし、一応テレビでやっていたのを覚えている限りの見よう見まねって感じだから、本当にこれで合っているかは出来てみないとわからない。

「もしかして、コーヒー豆も焙煎する前に発酵が必要なんじゃない……?」

取り敢えず、半分はそのまま炒ってみることにし、半分は発酵してから炒ってみることにした。

どっちが合っているのか、これが合っているのか全然分からないけど、分からないなら試行錯誤しかないだろう。

半分の豆を炒り始めてから数時間後。

「やっぱり思っていたのとは全然違うわ。」

匂いもコーヒー豆という風味とは違うし、ただの焦げた匂いしかしてこない。

それに食べられそうな感じもしないし……。

「これはやっぱり一度発酵が必要だったみたいね。取り敢えず発酵してからもう一度作ってみましょう。」

こうしてひたすらコーヒー豆とカカオ豆を試行錯誤すること半年……。

ついに、コーヒー豆とカカオ豆が完成した。

この半年、ずっとコーヒー豆とカカオ豆だけを作っていればいいというわけではないから、色々動きながら行った。

邸の料理人たちや従者たちが手伝ってくれなければ難しかっただろう。

「つ、ついにできたのね! コーヒー豆とカカオ豆が! ここまで出来たら、私も作り方がわかるわ!!」

まずはコーヒーからだ。

この世界にはコーヒーなんていうものはないし、苦味という味にも慣れていない人が多いと思う。

けど、人によってはそれがおいしいと感じる人もいるだろう。

特にお父様とかは、砂糖のたくさん入ったクッキーなどが苦手と言っていたから好きかもしれない。

コーヒー豆を大きめの鍋に入れて火をかける。

蓋を閉めたら、音がパチパチするまでゆっくりじっくり炒っていく。

周りからは「油をひかずに豆だけで!?」なんて声も聞こえたけど、油をひかずに炒っていくのがポイントだ。

火にかけてから少し時間が経ってくると、コーヒーの香りがほのかに漂ってくる。

「こ、この匂いは!? 嗅いだことがないが、いい香りだ。」

料理長の言葉に、他の料理人たちが一斉に頷く。

コーヒーの香りをいい香りと感じた人は、きっと苦手ではないだろう。

中には香りから得意ではない人もいるくらいだし……。

コーヒーを飲むのがうん十年ぶりだからか、心が躍る。

「そろそろいい感じね!」

香りが強くなってきたら火を止めて、炒ったコーヒー豆を粉になるまで挽いていく。

本当はコーヒーミルとかがあればいいんだけど、まだ試作品だからそこまでできていないため、薬を粉にする薬研を用意した。

においがつかないように新品だ。

薬研にコーヒーを入れてゴリゴリと粉にしたら、布の上に粉を置いて、ゆっくりとお湯を注いだ。

少しずつコーヒーが落ちていくのを見ていると、心が落ち着いてくる。

私が行っている作業に興味津々なようで、料理長たちが遠めにこちらを見ていた。

そしてコーヒーを入れ始めてからしばらくすると、匂いにつられてか、エリーやラルフお兄様まで調理場に集まってきた。

「なんだかいい匂いがするな。今までに嗅いだことがない匂いだ。ついに、ディーナが言っていたコーヒーとやらが完成したのか?」

「エリーにラルフお兄様も。それにフィリベール様も隠れているようだけど見えているわよ。」

フィリベール様は「二人に言われて仕方なく着いてきました」という感じを出しているが、実際は気になって仕方がないようで、チラチラと調理場の中を覗いている姿が見える。

出来上がったコーヒーをカップに移して、皆の前に置いていく。

料理長たちは、どうやら自分たちで作ってみたいらしく、道具を持ってその場からいなくなった。

「三人の分も用意いたしました。人によっては苦手な味かもしれないのですが、もし苦手だったら砂糖を足してください。少し甘くなるかと思います。」

今日のこの日のために用意しておいたクッキーも机に置く。

調理場の小さい机に、王子と貴族男性二人。

しかも全員イケメン。

なんともシュールな絵面で、ついつい笑ってしまった。

「何故笑っているんだ。」

笑っていることに気づいたラルフお兄様が、私のおでこを軽く指で小突いた。

「す、すみません。なんだかこの光景が面白くて。」

お兄様たちも私の言いたいことが分かったようで、少し渋い顔をしていた。

何も、コーヒーを飲む前からそんな顔しなくてもいいのに……と思ったのは心の中に留めておこう。

「折角だし、冷めないうちにいただこう。」

話を遮るように、エリーがカップに口を付けた。

王子なのに毒見とかしなくていいのだろうかと思うけど、もう今更か……唐揚げの時も我先にと食べていたくらいだし。

「うぇ! なんだこの何とも言えない味は……腐っているんじゃないのか!?」

苦いというのを知らない人が初めて飲むと、これは腐っているという味になるらしい……。

お兄様はどうやらこの苦さが苦手なようだ。

この苦味がコーヒーのおいしいところだというのに。

「ラルフお兄様。これは苦いというの。お兄様は苦いのが苦手なのね。クッキーと一緒に食べたら少し中和されると思うけど、クッキーと一緒に食べてみて。」

クッキーに口をつけてから再度コーヒーを飲むお兄様。

少し味が中和されて甘くなったからか、先ほどの渋い顔が解れている。

「これならちょうどいいな。甘すぎる菓子が苦手だったが、これなら食べられそうだ。」

そう言って、クッキーとコーヒーを一緒に楽しみ始めた。

次にエリーとフィリベールだが……。

「俺はこのコーヒーの味、嫌いじゃない。風味もいいしな。」

「えぇ、私もです。それに眠気覚ましにも丁度よさそうな……」

二人の会話を聞いている限り、どうやらコーヒーを気に入ってくれたようだ。

「フィリベール様の仰る通り、コーヒーに入っている成分には眠気を覚ましてくれる作用が入っていると聞きます。なので、寝る前に飲むのはやめた方がいいですね。」

昔は逆に眠らないようにするために飲んでいたけど、途中からは全然効かなくなっていたことを思い出す。

「そうなのか。じゃあ寝たくないときに飲むのが丁度いいな。」

フィリベール様の考え方が昔の私そっくりだ。

これは仕事をしている間は寝ないように飲み続けると言っているのと同義だろう。

私は頬を引きつらせながら、

「体に悪いのでほどほどに寝てくださいね。」

と一言伝えた。

コーヒーは無事に出来上がったし、次はカカオからチョコレートを作ろうと調理場に戻ると、三人は椅子に座りながらこちらを見ている。

どうやら三人とも、このままチョコレートができるまで居座るつもりのようです……。