作品タイトル不明
またあいつか!!
「エルダ。申し訳ないのだけど、お母様とお父様に明日帰ることになったことを伝えてくれる?」
手紙を読み終えると、タイミングを見計らったようにエルダが入ってきた。
私の様子を見て、エルダもスフェレライト領で何かあったのだと何となく察したらしい。
「承知いたしました」
と一言いうと、エルダは部屋から出ていく。
部屋に一人になったのを確認した後、私は大きなため息をついた。
「本当。あのくそ野郎は……どこまで行ってもくそ野郎なのね。大事なあそこをちょん切ってやりたいくらいだわ!」
どこで仕入れたのかわからないが、私がいないタイミングを見計らってオディロンが帰ってきたそうだ。
何かするわけではなかったが、小麦粉やお米を大量に詰め込んで家を出て行ったらしい。
侍女や従者が止めたようだが、
「俺に逆らうのか!! 逆らうとどうなるかわかっているのか!」
と言って脅してきたとのこと。
残っている侍女や従者は孤児だった者ばかりで、ここを追い出されたら行く場所がない人ばかりだ。
そんなことを言われて、言い返せるものは一人もいなかった。
「小麦粉とお米ね……。確かに今、お米はおにぎり屋のお陰で高く売れているし、スフェレライト領の小麦に柔らかいパンを作る秘密があるのではないかと思われているから高騰していたけど……。もしかして売るつもりなのかしら」
小麦だって他の地域の物とあまり変わらないし、お米だって使い方がわからなければ、おかゆになるか芯の残ったぼそぼそのご飯になるかだけだ。
絶対オディロンは何も知らないのだろうと思う。
そして手紙で一番気になったのは最後の一文……。
“また……一つの袋を置いて去っていきました。”
一つの袋と聞くと、一年前にあいつが置いて行ったものを思い出す。
「取りあえず、手紙はここで途切れているし、明日帰って確かめなければならないわね……。できれば急ぎだから馬で帰りたいところだけど……カイトスとアルナイルをどうしようかしら……」
明日帰るのにどうしようかと考えていると、エルダが戻ってきた。
「ジェラルディーナお嬢様……旦那様と、奥様がお呼びです。執務室にいらっしゃるとのことですので、至急向かってください」
お父様とお母様にこのことについて少し相談できるのはありがたい。
一旦自分だけ帰って、数日後にカイトスとアルナイルを迎えに来るのも一つだろう。
お母様なら良いと言ってくれそうだし……。
「わかったわ!」
私は部屋から出て、急いでお父様たちのいる執務室へ向かった。
***
執務室に着くと、ノックもそこそこに扉を開ける。
「お父様、お母様。お待たせして申し訳ございません」
「いや、構わん。先ほどエルダから話は聞いている。明日急遽帰らなくてはならなくなったそうだな」
「はい、実は……」
手紙に書いてあった内容を話す。
オディロンが家に訪れたこと。
備蓄として置いておいたお米や小麦粉を持って、また家から出て行ったこと。
従者や侍女が止めても止まらず、それどころか暴言を吐いてきたことなどをだ。
「そして、また一つの袋を置いて行ったそうなのです……。手紙はそこで途切れていたので、確認できていないのですが、嫌な予感がしてしまって……」
一つの袋と聞いた瞬間、お父様やお母様の顔がみるみる険しくなっていった。
「そうだな……それは早めに確認した方がいいだろう。話は大体わかった。明日、お前は馬で先に帰りなさい。カイトスとアルナイルは、馬車で私たちが連れていく。フレイチェもそれでいいか?」
まさか、お父様が二人を連れて馬車で来てくれるとは思っていなかったが、私がまた王都に迎えに来るとなると時間がかかるし、とてもありがたい。
「えぇ、構わないわ! むしろ今お昼を過ぎたばかりだし、馬で行けばスフェレライト領には陽が暮れる前に着くでしょう。こちらのことはいいから、ジェラルディーナは今から戻りなさい。明日朝いちで私たちもそちらへ向かうから。わかったわね?」
お母様の言葉を聞いて、お父様の方を見ると、
「そうだな……その方がいいかもしれん」
と独り言のように小さい声で一言いうと、少し考えてから、
「出発は一時間後だ。それまでに準備をしておきなさい」
と一言言って、お父様は出て行った。
まさかここまでとんとん拍子に話が進むとは思っていなかったけど、今は家族に感謝しかない。
私は部屋に戻って急いで準備をした。
***
ジェラルド視点。
ジェラルディーナから話を聞いた後、急いで王宮へと向かった。
向かったのは国王の元ではなく、ラルフリードのところだ。
王都からスフェレライト領までの道程で危ないところがあるわけではないが、一人で帰らせるのも気が引けた私は、ラルフリードにお願いしようと思ったのだ。
ラルフリードのいるであろうエリオット殿下の執務室へ向かうと、タイミングよく三人が執務室から出てくるところだった。
「ラルフリード」
「ち、父上!? 父上がここに来るなんて珍しいじゃないですか!! 何かあったんですか?」
声をかけると、ラルフリードがこちらに気付いて近づいてくる。
ここまで急いできたからか、少し息が上がってしまっていた。
「急ですまぬが、ジェラルディーナがスフェレライト領に戻ることになった。急ぎだから馬で戻るんだが、お前に護衛を頼みたくてな」
私の雰囲気と、急遽帰ることになったこと、それも馬でときたら何かあったことは察しが付くだろう。
ラルフリードは何も聞かずに頷く。
「わか……「わかった。俺が行こう!」」
…………。
「「「え!?」」」
ラルフリードの言葉に被せるように返答してきたのは、ここまで話を聞いていたエリオット殿下だった。
「エリオット殿下が行くのですか?」
「あぁ。それに私は一年間、スフェレライト領の領主代行のようなものだ。だからスフェレライト領に行っても問題ないだろう。それに領主代行として、何が起こったのか心配でもあるからな」
取ってつけたような言い訳に、皆溜息をつく。
「「「(どうせ、ジェラルディーナと一緒にいたいだけだろうが……)」」」
「仕方がありません。王子が行くと言ってきかないのですから、ラルフリードと私が一緒についていきましょう。フローライト伯もそちらでよろしいでしょうか?」
これ以上言っても埒があかないと思ったフィリベールが、三人で行くことを条件に出して、ひとまず話はまとまった。
「構わない。何があったかはジェラルディーナから話を聞いてくれ。私は明日カイトスとアルナイルを連れてスフェレライト領に向かうから。頼んだよ」