作品タイトル不明
お醤油とから揚げ。
お味噌ができて数日。
「つ、つ、ついにできたわぁぁぁ!!!」
そう!
遂にお醤油ができたのだ。
お醤油の最後の仕上げにかなり時間がかかった。
特に諸味と呼ばれる麹と塩水を混ぜたものを搾るのが大変だった……。
一人の力で搾るには限界があったので、従者にお願いしてなんとか搾ることが出来た。
そして、その後の火入れの工程がまた難しかった。
火加減次第では焦げてしまうし……。
色々試行錯誤をしながら、なんとか出来たのはお味噌が出来て二週間後の事だった。
「フフフ……これで遂に煮物が作れるわね。それ以外にも唐揚げでしょ。焼豚でしょ。煮魚も作れるし……和食が作り放題だわ!」
できた醤油を持って調理場へ向かうと、そこには待っていましたと言わんばかりに、エリオット殿下とお母様。それにエルダまでもが仁王立ちで立っていた。
「へ!? お、お母様に……エリー……それにエルダまでどうしたの?」
「へ? どうしたの? じゃないわよ! また一人で美味しいもの食べようとしてるのは分かっているのだから。そんな楽しそうなこと、誘ってくれないなんて酷いじゃない!!」
お母様の言葉に頷く二人。
どうやら皆、味噌を食べた時に新しい扉が開いてしまったらしい。
「えっと……でも、すぐに料理はできないから、少し時間がかかるわよ?」
お味噌は焼きおにぎりが食べやすいと思ったけど、今回は唐揚げを作ろうと思っていたのだ。
唐揚げは子供から大人まで楽しめる料理だし、嫌いな人は居ないだろう。
「大丈夫だ。時間は余裕があるからな」
エリー……貴方、本当に王子なのよね!?
王都にも帰らずずっとここにいるし、本当に時間に余裕があるのか関係なく不安だ。
「私も大丈夫よー。今、カイくんもアルくんもおねんねの時間だし。ね? エルダ」
「はい。大丈夫でございます!」
お母様もエルダも、この為に寝かしつけてきたのか。
なんだか静かだなと思ったのだ。
お母様が甘やかすから、二人ともおばあちゃんっ子になってしまっているし……。
「はぁ……何を言っても無駄のようですので……。そしたら一時間くらいで作ります。本当はもう少し寝かした方がいいのですが、味見分だけ先に作って、残りはディナーで食べましょう」
三人に椅子を用意すると、座ってこちらを見ている。
お母様もエリーも、ここの雰囲気に合っていなくて笑えてくる。
私はエプロンをつけてから、唐揚げの下味をつけはじめた。
「料理長……このトリ肉を一口大に切ってくれる?」
料理長に鶏肉を切ってもらっている間に、下味に使う調味料を準備する。
今回はオーソドックスな下味だ。
醤油ベースに、酒、にんにく、生姜を入れる。
オイスターソースがあればさらにおいしくなるんだけど、この世界には無いものだから今回は仕方がない。
全ての調味料を入れて混ぜると、その中に切ってもらったお肉を入れていった。
お肉に下味をつけている間に、お味噌汁と人参のきんぴら。それと、味変できるようにタルタルソースを作っていく。
「本当にいつ見ても手際がいいですよね」
料理は動線が命だ。
一品一品時間をかけて作っていくのも一つだけど、家庭料理は短い時間でどれだけスムーズに作れるかが肝だったりする。
これでも九十八歳のババアだったのだ。
毎日料理をしてきて、何十回、何百回、何千回と色々なものを作ってきた。
「そう? 料理長だって手際いいじゃない」
「それは勿論、これが仕事ですからね。奥様とは違いますって」
私の手元を見ながら、料理に何を入れているのかきちんと確認していくあたり、さすがプロだ。
いつも私が作ったあとの料理も完璧に再現してくれるし……。
副菜などを簡単に作っている間に、下味も十分ついたところで、唐揚げを揚げていく。
揚げる時は火傷とかしたらお母様たちがうるさそうなので、料理長にお願いした。
「料理長、油の中で焦げないように揚げてちょうだい。中まで火を通して欲しいから、火は強くしすぎないようにね。大体七、八分くらいかしら。衣を持って少し震えるような感覚が来たら、火が通っていると思うから」
「承知です!」
そう言うと、一つ一つ丁寧に揚げていく料理長。
料理長が揚げてくれている間に、私はタルタルソースを作っていく。
マヨネーズを作るために、お酢も作ったのだ。
お酢、塩、卵黄を入れてよく混ぜる。
そしたら少しずつ油を足していくと、マヨネーズが出来るのだが、これがすごい大変だ。
途中、他の料理人に変わってもらいながら、何とかマヨネーズを作り終えた。
そこにゆで卵と玉ねぎのみじん切り。
お酢と、砂糖、塩を入れてよく混ぜると、タルタルソースが出来上がる。
胡椒は最近出回りだしたばかりで、とても高いものだから今回は入れずにそのままにした。
丁度私がタルタルソースを作り終える頃には、唐揚げも揚げ終わったようだ。
「出来ましたよ!」
調理場の休憩室を借りて、そこに作ったものを並べていくと、待っていましたと言わんばかりの勢いで前のめりになっていく三人。
「今回は唐揚げに、人参のきんぴら、それとお味噌汁を作りました。取り敢えず味見ですので、唐揚げときんぴらをどうぞ……。熱いので気をつけて下さいね」
お味噌汁は夕飯の時間に出すからと、唐揚げをひとつずつ取り分け用のお皿に取って渡すと、フォークを刺して食べ始める。
私も皆が食べ始めたのを見てから口に入れた。
…………。
「「「……。」」」
皆食べるのに夢中なのか、一言も発しない。
まずかっただろうか……?
「……あ、あの……? 不味かったですか?」
私はこの味に慣れているし、とても美味しいと感じるんだけど……。
私の言葉にハッとしたのか、三人とも口をまた動かし出した。
「「「おいしい!!」」」
どうやら初めて食べた味に、宇宙を見ていたようだ。
「よかったです! もう一つはこのタルタルソースをつけて食べてみてください」
そう伝えると、三人ともタルタルソースに唐揚げをつけてから口に運んでいく。
まだこの世界にマヨネーズは無いはずだし、マヨネーズは根強い人気があるものだから、ヒット商品間違いないだろう。
「こ、これは……なに!? すごく美味しいわ!!」
「俺もこのタルタルとやら気に入った。唐揚げ以外につけても美味しそうではないか?」
どうやらお母様やエリーにも味の良さが伝わったらしい。
「これでお醤油も、マヨネーズも、タルタルソースも完成したから、商品化できるものが増えそうだわ! ありがとう!」
時間はかかってしまったものの、スフェレライト領の特産品としてお味噌や醤油ができたし、副産物でお酢なども作れたのは大きい。
あとはこれらをどう普及していくかだけど……。
その前に、今年の税を収める時が来てしまいそうなので、まずはそちらに手をかけることにした。