軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

受け継がれた物の価値

「見て下さい! 私にも織れましたー!」

お世辞にも上手とは言えないヨレヨレの布を手に、嬉しそうにマリーが駆け寄って来る。

「あらあら、初めてにしては上出来じゃない!」

エイダさんもニコニコ顔だ。

「はい! 刺繍をしてハンカチにします。ちょっと見た目はヨレヨレだけど、肌触りは中々の物ですよ!」

渡された布を触ると、確かに気持ちの良い触り心地だった。

とはいえ王都で着ていた部屋着の肌触りに比べると雲泥の差で、やはり布を織る人間の技量も大切なんだなと痛感する。

この技が、布が、廃れてしまうなんて……。

無理! もったいなーーい!!

「あの! 失礼を承知でお願いがあるのですが、この布を売って頂けませんか!?」

エイダさんは、まぁ! と驚くと目を丸くしている。

「わざわざお金なんて払って頂かなくても、こんな物で良ければいくらでもプレゼントさせて貰うわよ?」

違うのだ。プレゼントして欲しい訳ではない。

この布は素晴らしい物だから、お金を払う価値がある。だからプレゼントして貰うのではなくきちんと買い取りたい。

今後の事も考えて、私は必死にそう説明するのだが、いまいち本気にして貰えない。

『お金を頂くなんてとんでもない。自分の作った物を喜んで貰ってもらえるのはそれだけで嬉しい事なのよ?』

と、エイダさんは笑っているが、違うのだ。

この布の価値を、他でもないここにいるご婦人方に知って貰いたい。

私がどうすればいいのだろうかと頭を悩ませている間にも、お茶会の話題はどんどん別の物へと変わってしまう。

無念……。

ご婦人方からしたら、今日突然現れた若い娘の言う事を真に受けないのも当然だろう。

これまた今後の課題だな……。ああ、課題がどんどん増えて行くー。

その後は、ご婦人方とお茶を飲みながら楽しいお喋りを沢山して、色々な話を聞かせてもらった。

ご高齢のご婦人は先々代の伯爵時代にも詳しくて、興味深い話が沢山聞けたのは予想外の収穫だった。

お土産に持って行ったモチモチドーナツは大好評で、『貴族向けに販売するなら一口サイズにして綺麗なピックを刺したらどうか?』とか『アイシングで綺麗な模様を付けるといいのではないか』等、富裕層の女性ならではの洗練されたアイデアも沢山頂けた。

マリーは熱心にメモを取っていたので、きっと後でベーカーに渡すのだろう。

楽しい時間はあっという間に過ぎて、そろそろお開き、という頃。

このまま帰る訳にはいかない私は、図々しいとは思いつつも、次のお茶会にも参加したい旨を伝えてみた。

「まぁ! もちろん大歓迎よ! ねえ、皆さん?」

「ええ、ええ、今日はとても楽しかったもの」

「ふふ、またアナちゃんとマリーちゃんとお喋りできるなんて嬉しいわ」

ご婦人方はみんな好意的に受け入れてくれる。素直に嬉しかった。

帰りがけ、綺麗に巻かれた布を持ってパタパタとエイダさんが駆け寄ってきた。

「アナちゃん、これ貰ってくれるかしら?」

『はいっ』と渡された布はズッシリと重たくて、結構な長さがあるだろう事が分かる。

「そんな! 頂くなんて申し訳ないです!」

「あら、だって私の布をとても気に入ってくれたんでしょう? 貰ってくれたら嬉しいわ! それとも、私、お世辞を真に受けちゃったかしら?」

そう言って小首を傾げて悪戯っぽく微笑むエイダさん。

なんてチャーミングなマダムなんだ! 20年後は私もこうありたい。

……じゃなくて! 困ったな。これじゃ受け取らざるを得ない。

「ありがとうございます。……あの、せめて今度何かお礼をさせて下さいね?」

私が布を受け取ってそう言うと、エイダさんはコロコロ笑いながらこう言った。

「アナちゃんとマリーちゃんがまた来てくれるのが1番のお礼になるわ! みんな今日はとても嬉しそうだったから。 いつも同じメンバーでばかり集まっているから、新メンバーは大歓迎よ」

迎えの馬車に乗り込み、門の前で手を振ってくれるエイダさんに手を振り返す。

「奥様! お茶会楽しかったですね!」

「本当ね。皆さん素敵な方だったわ」

街の中をゆっくり馬車で走っていると、以前アップルパイを食べた綺麗な公園が見えて来た。

相変わらず沢山の領民達が楽しそうに過ごしている。

「アナお姉ちゃーん! マリーお姉ちゃーん!!」

私達の馬車を見つけた子供達が、手を振りながら嬉しそうに追いかけて来た。

お忍びで街に出ている時に、何回か一緒に遊んだ事のある子供達だ。

「馬車を止めてくれるかしら? 少し公園に寄ってもいい?」

護衛の彼に了承を得ると、馬車から降りる。

マーカスとの約束なので護衛は必ず1人ついているのだが、荷物さえ無くならないこの伯爵領で、果たして本当に護衛は必要なのだろうか?

それに……

『やっほー! アナー!!』

『見て見てー』

『こちら満員でございまーす』

もうすっかり見慣れてしまったが、今日も今日とて伯爵領には精霊達が溢れている。

特に邸の庭と公園は精霊の人気スポットらしい。

誰かがベンチの上に置いてあった帽子の中に、何故か山盛りの精霊達がおしくらまんじゅうの様に詰まってキャッキャと遊んでいる。

いつもの3人の精霊も私の側を飛んでいるし、ハッキリ言って私の守りは異常に固い。

護衛の皆さんには無駄な仕事をさせている様で心が痛むのだが、こればっかりはしょうがないよねぇ。

『私には精霊の守りがあるので護衛は結構です!(キリッ)』

なんて言ったら、ヤバい人認定は確実だ。

「2人とも今日はまた一段と可愛い格好して、どこかお出かけだったの?」

精霊達を見てぼんやり考え事をしていると、公園に居たお母さん達に声をかけられた。

この時間帯の公園は、小さな子どもを連れた20代前半位の若いお母さんが多い。

「その先にある、エイダさんのお邸に行ってたんです。お茶会にお呼ばれしまして」

私がそう説明すると、お母さん達の間に感嘆の声とため息がもれる。

「素敵! いいわねー、私達も一度でいいからエイダさんのお邸にお呼ばれされてみたいわ」

「本当、憧れるわよねぇ、エイダさん!」

やはりエイダさんは住民達の中でも憧れの存在なのかー。

うんうん、素敵だもんねぇ。

「見て下さい! 教えて貰って、この布私が織ったんですよ!」

マリーが得意げにみんなの前に布を広げる。

「わー、羨ましい! 私も織ってみたいわぁ」

…………『織ってみたい』ですと?

『……せっかく曾祖母の時代からずっと受け継がれているこの布を失くしてしまうのは勿体無くて……』

『新メンバーは大歓迎よ』

先程聞いたエイダさんの言葉が耳に蘇る。

ーーこれは……イケるかも!?

上手くいけば、ウィンウィンウィン位いけそうな考えに私が興奮していると、子供達にぐいぐいと手を引っ張られた。

「アナお姉ちゃん、遊ぼうよー!」

「いいよ、何して遊ぶ!?」

いいアイデアを思い付いてご機嫌な私がそう答えると、子供達は声を揃えてこう言った。

「鬼ごっこ! お姉ちゃんが鬼ね!」

「よーし! 全員捕まえちゃうぞー!!」

『きゃーっ』と言って公園の中を散らばって行く子供達を追いかけて私が走り出そうとしたその時。

背後から聞き覚えのある声がした。

「おいおい、いくら何でも馴染み過ぎだろう……?」