軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

82.魔術剣士団受付嬢

フレデリカと別れてから数十分程歩き、スレイはルーンサイド南部にある魔術剣士団の兵舎に到着した。

雨は既に小康状態となっていたが、空は相変わらずの曇天模様である。

(……ここであっているんだよな)

目の前には立派な二階建ての横長の兵舎が映った。あいにくの雨の為か広々としたグラウンドには誰も居ない。

スレイは看板を確認した後、変成術で作り上げた即席の傘を閉じ、入り口の扉をノックしてから開いた。

「……おや、スレイ殿」

玄関の扉を開けると、目の前にある受付の前に依頼人である魔術剣士団隊長エドガーが居た。

カウンターの奥には、銀色の髪をボブカットにした受付嬢らしき女性が入っている。この様子だと二人で談笑をしていたのかもしれない。

「依頼品のポーションを持ってきてくれたのかな。このような悪天候の中、申し訳ないね」

「気にしなくていいよ。さっさと依頼を終えておきたかったからな。とりあえず完成品をここに置くよ」

スレイはあらかじめ用意しておいた袋の中から、薄紫色をしたポーション瓶を五つ取り出して、カウンターに並べた。

「エドガー、色の指定はなかったけど、この色でいいのかな」

「ああ、スレイ殿、それで構わないよ。……私とした事が色の指定を失念していたか。悪かったね」

「すみません、ちょっと見せて下さい」

受付嬢らしき女性が手を挙げながら、スレイとエドガーの会話に割り込むと、カウンターに並べられたポーションを掴み取り、表情を落とした。

その動作からすると、そういうフリをしているのでいなければ鑑定を行っているのだろう。

「……Bランクのストレングスポーション。違いますか?」

「それで正解だよ。鑑定能力持ちなのか」

「そうです。まあ、瓶のネックに掛けられたラベルに『Bランク ストレングスポーション』と御丁寧に書いてありますけど。……これはスレイさんが?」

「ああ、一応間違わないようにと思ったんだが。……余計なお世話だったかな」

「貴方は気が利きますね。良い心掛けです。第一印象はとても良好です」

受付嬢の女性にしては、感情の揺れが少ない淡々とした物言いだったが、どうやら褒めて貰っているらしい。

その物静かな雰囲気は、包容力のある錬金術協会のイライザとは対照的である。

「失礼。私はルーンサイド魔法剣士団受付嬢のエリスです。一七歳。ルーンサイド魔法学院卒」

「……一七歳? 今、魔法学院を卒業したといったのか。四年制だったよな」

「はい。一〇歳の頃から通っていましたから」

エリスはクールな表情の中に、少し優越に満ちた表情を見せた。話に嘘でなければ相当の才能があるといっていい。

一〇歳から例外的に魔法学院の門を叩くには、魔術あるいは神聖術の才能を幼少から示す必要があり、さらに試験を通過するだけの一般教養も当然備えておく必要がある。

「受付嬢で済まない範囲で仕事を請け負っていますけど。ハイパー受付嬢ですね」

「今行った鑑定もハイパー受付嬢の仕事の一環という事かな」

「ええ、受け取った品が間違っていたでは済まないですからね。私はSランク鑑定術の認定を受けています」

Sランク鑑定能力。先ほどの魔法学院卒の話も相俟って、相当の実力者である。明確に天才と呼べる領域に居る存在だと窺えた。エリアやヘンリーの顔がふと思い浮かぶ。

もっとも、スレイも師匠から受け継いだSランク鑑定の能力が備わっていた。変成術というものは、少なくとも同ランクの変成物の鑑定をこなせる必要がある。そうでなければ変成した物が正しく行えたかもわからないからである。

「……エドガーさん。彼を推薦すると言っていましたね。ルーンマウンテンで事件を解決したとか」

「ああ。エバンス家の御子息の救出に力を尽くしてくれた。 獣巨人(トロール) を 一対一(タイマン) で倒せるほどの実力もある」

「へえ、 獣巨人(トロール) を。……やりますね。 火炎球(ファイアボール) でしょうか。だとしたら魔術Bランクは堅いという事ですか」

獣巨人(トロール) は炎が弱点である。この受付嬢はそれを知っているという事だろう。やはり学識に優れた少女らしい。

それはともかくとして、一つ気になった事があった。エドガーが言った一人で倒したというのは少し語弊がある。

「ちょっと待て、あれはロイドも一緒だったからな。俺一人じゃない」

「使役も能力の内だろう。一個人の能力で事を成したと言える」

「そうそう。スレイさんは 大灰色狼(ダイアウルフ) を使役しているらしいですね。今、ここに連れてきていますか?」

「……いや、置いて来たよ。雨が降ってたからな」

「そうですか。一目お目にかかりたかったのですが」

スレイがロイドの不在を告げると、エリスは今度はわかりやすく残念そうな表情を見せた。

どうやら感情に乏しい訳ではないらしい。