軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

80.ノースフィールドの地

「……つまらない身の上話をしてしまいましたわね。スレイ、御免遊ばせ」

フレデリカはそう告げると表情を少し硬くさせた。

魔法の才能に重きを置く貴族の家は多い。子爵家生まれではあるがヘンリーも魔術の名家だと言っていた。

セントラル王家に次いで権威を持つ四大公爵家の者となれば、間違いなく生まれ持った魔法の才能は重んじられ、そして才能がない者はフレデリカの言った通り不遇な思いをする事になるのかもしれない。

扱いの程度は何とも言えなかったが、少なくとも彼女自身はそういった思いを抱きながら幼少を過ごしたようだった。

「つまらないなんて思っていないよ。……ノースフィールド公爵領か。いい処なのかな」

「是非一度いらっしゃって。夏は涼やかで、過ごしやすい事この上ないと思いますわ」

「ああ、夏は良さそうだよな。……冬は?」

「……幻想的な銀世界。……冬はおすすめとは言い辛いですわね。ですが」

フレデリカは一拍置き、さらに続けた。

「ノースフィールドの最北端では、冬季によく 極光(オーロラ) を御覧になれますわ。スレイは御存知かしら?」

「 極光(オーロラ) か。名前だけは良く知っているよ。……フレデリカお嬢様は見た事あるのかな」

「ええ。絶景とだけ。また御目にかかりたいと思っていますわ」

目を輝かせながら話すフレデリカだったが、スレイは自らに凶刃として振るわれた魔剣、 極光の嵐(オーロラストーム) を想起して思わず顔をしかめてしまった。

それを目にしたフレデリカが不思議そうな顔をしていた。

「……気難しい顔をして、なにか 極光(オーロラ) に嫌な思い出でもありまして?」

「いや、そういう訳じゃないんだ。俺も一度は見てみたいな。……ところでフレデリカお嬢様」

「何ですの」

「アトリエの活動はどうなんだ? 俺はようやく二つ目の依頼が終わりそうな処だけど」

その質問にフレデリカは一瞬真顔になった後、何ともいえない表情を見せた。

言うべきか言わないべきか、あるいはどの言葉を選ぶか迷っているのかもしれない。

「……思い通りにはいかない。というのが答えかもしれませんわね」

その言い回しから、順調とは言えない何かがある様子がうかがえた。

思い当たる節が一つある。フレデリカのアトリエに偶然案内されたエリアから、フレデリカが上級錬金術師と口論していたという話を聞いていた。

「それは、アトリエでの商売的な話か?」

「ええ、それもありましてよ。……新参者には風当たりが強いという事ですわ。……見習いの身で遠慮のないわたくしが悪いのかしら」

「商売仇がいるみたいだな。……見習い錬金術師のうちは程々でいいんじゃないか。俺くらいのペースでも、問題を起こさなければ見習いは解除して貰えるらしいぜ」

錬金術協会幹部のアルバート曰く、錬金術師の仕事は月一回か二回でも問題ないとの事だった。程々の実績を残しつつトラブルさえ起こさなければ、基本的に見習いは卒業できるらしい。

それは逆にトラブルを起こしてしまった時は、見習いを一年で解除して貰えないという可能性を考えなくてはいけない。その程度が過ぎれば錬金術師の資格を剥奪といった事も十分考えられる。

「いいえ。わたくし上級錬金術師を目指していますの。……来年の夏、ノースフィールドに帰参する前には何としてでも」

天下の四大公爵の令嬢である。一年を超えるルーンサイドの長期滞在は許されていないのだろう。

フレデリカは既に変成術はAランク相当の実力がある。その事は上級錬金術師の条件の一つだった。あとは実績を積み重ねるだけである。

だが、一年で認められるのは基本的には見習い錬金術師の解除のみ。もし上級錬金術師への飛び級が認められるとしたら、それ相応の成果が必要になるかもしれない。

「上級錬金術師か。 霊銀(ミスリル) を変成できるんだから、上級錬金術師相当の実力は既にあるんだよな」

「ええ。でもわたくしは実績が足りない。……だから商売で一歩も引くわけにはまいりませんの」

「なるほどな。……けど、その肩書はあえてフレデリカお嬢様に必要なものなのか。ルーンサイドに留まるならともかくとして、ノースフィールドでは意味がない気がするけどな」

スレイの言葉に対し、フレデリカは否定するように首を振った。

「……貴族というものは箔、つまりは見栄を重んじますの。……くだらない事かもしれませんわね」

「ああ、いや、そんな事は思っていないよ」

「いいえ。スレイから見たら、きっと些末な事。……わたくしだって半分くらいはそう思ってますの。けれど」

「フレデリカお嬢様」

「わたくしのような落ちこぼれでも家族に認められたい。……ただの承認欲求ですわ」

フレデリカの想いは切実なものであり、錬金術師、そして彼女が得意とする変成術に自らの存在証明を重ねているように思えた。