軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

59.駆けつけた先で

スレイとエリアの二人を乗せ、ロイドは獣道をひたすら疾走していた。

小枝が身体を屈めているスレイの頭上をかすめるのがわかった。顔を上げることは危険であり、魔法を行使する為の動作をするのは難しそうである。

エリアも身体に掴まっているので余計な行動はしない方がいい。今はロイドの優れた感知能力に期待するだけだった。

(以前から思っていたが……ロイドは本当に 大灰色狼(ダイアウルフ) なのか)

大灰色狼(ダイアウルフ) としては非常に大型で戦闘力は体格相応に高い。だが何より賢さが獣としては類を見ない程である。ふと、スレイの頭に伝説の魔狼の名前が頭をよぎったが、それを即座に否定した。

もし、そうならばスレイの能力で使役出来ることなど万が一にもない。

おそらく人間やエルフ、あるいはゴブリンといった種族にも英雄が存在するように、 大灰色狼(ダイアウルフ) にも英雄的な素質を持つ個体が存在するという事なのだろう。

ロイドは頼れる相棒でありスレイにとっての誇りでもあった。

「エリア、しっかり掴まってろ!」

「……は、はい!」

急な斜面を下っているのがわかった。背に抱きつくエリアの事が気になってはいたが、意識を向ける余裕はない。

スレイも急な下りで魂だけが上空に取り残されるような浮遊感に怖さを感じていたからである。

やがて、なだらかな地面に到着しロイドが減速してゆっくりと歩き出したのがわかった。

ようやくスレイが顔を上げると、開けた視界の先にある存在に気づいた。

「……エリア、居たぞ」

目の前には泉が沸き出ているのが見えた。

その傍には、うつ伏せに倒れるリュックサックを背負った子供の姿。おそらく彼が探しているコニーに違いない。

(……まさか泉に毒が?)

エリアは慌ててコニーに駆け寄り、スレイは泉の方に近寄った。湧き水がきらきらと輝く様子が見える。

その淡い輝きには既視感がある。匂いを嗅ぎ、確信したスレイは手で掬うと、水を舐めた。

「 魔素(エーテル) だ。……こんな処に源泉があったのか。エリア、どうだ?」

「心臓は動いています。呼吸もありますね。……服の汚れや擦り傷などはありますが、大きな外傷はありません。すぐ回復の準備を」

「魔素中毒を起こして気を失ったのかもしれないな。 完全回復(パーフェクトヒール) なら治せるよ。……多分、飲み水を見つけて大量に飲み干したのかもしれない」

幸い命には別状はなさそうだった。

治療はエリアに任せ、スレイはロイドと共に周囲を警戒しつつ、錬金術協会から借りた羊皮紙の地図を広げ、場所を確認した。

(……錬金術協会の地図には載ってなさそうだな。未発見の源泉かもしれない。ロイドの足取りを考えても、ここまでは簡単にはこれなさそうだしな)

この 魔素(エーテル) の源泉は長らく手を付けられた様子もなく、ここだけで依頼分の一二〇本分の魔素が採取出来そうである。

スレイは空を見上げたが、密集した高い木々で覆われてほとんど隠れてしまっていた。ヘンリーが上空からここを発見する事は出来なかっただろう。おそらく窪地のような地形だろうか。

今の正確な場所は分からないが、おそらく借りた地図に載っているポイントの何処にも該当しない場所である。後でヘンリーに 飛行(フライト) をお願いして、正確な場所を記したいと思った。

『 完全回復(パーフェクトヒール) 』

エリアは神聖術の詠唱を終え、コニーの治療を行っていた。

「う……ううん」

「コニー君……大丈夫ですか」

エリアの問いかけに、コニーはゆっくりと頷いた。

「昆虫を追いかけたら、坂から足を滑らせて……お姉ちゃんは?」

「私はエリアと言います。コニー君ですか?」

エリアの問いかけに、コニーは頷いた。

「あなたを探しに来ました。お父さんとお母さんが心配しています。一緒に帰りましょう」

そう言い終えるとエリアはやわらかに微笑んだ。

瞳に涙を浮かべて震えるコニーをエリアがそっと抱きかかえる。

スレイはその様子をみて、ほっと溜息をついた。

「とりあえず一件落着か。…… 魔素(エーテル) の源泉が見つかって、依頼も片付け」

「グルルルルル……」

突然ロイドが、スレイの呟きを遮るように唸り声をあげて警戒心を露わにした。

ロイドの向く方向に視線を送る。

「……エリア、親子の再会までには、もう一段落必要みたいだ」

スレイたちの居る 魔素(エーテル) の泉、そしてロイドが駆け下りてきた急斜面の獣道。

それらとはちょうど一二〇度の方角に、なにやら大型の生物が姿を現した。

三メートルほどの高さを持つけむくじゃらの姿で、腕が地面につきそうなほどに長い。頭には二本の角。

その生物はスレイ達のいる泉に向かってゆっくりと歩いてきている。

毛むくじゃらの顔から、わずかに覗く丸く白い目は狂気を帯びているように感じた。おそらくここでの声を察知したのだろう。

スレイは冒険者時代にこの怪物と一度対峙した事があった。

「 獣巨人(トロール) だな。安全な山って聞いてたが、道を外れればこんな怪物が潜んでいるのか。……エリア、泉を背にしてコニーの傍に。神聖術の援護を頼む」

「……任せてください。スレイさん、気を付けて」

獣巨人(トロール) の怪物ランクはA-となっている。

特筆すべきは異常ともいえる再生能力。長いリーチを持つ怪力の両腕も厄介で、それが高ランクの原因となっている。火力に優れた『アタッカー』や『マギ』でなければ、この高い再生能力を持つ怪物相手にフィニッシュまで持ち込むのは難しい。

一対一でBランク認定の『アタッカー』では分が悪く、Aランク認定ならばやや優勢といったくらいの想定となるだろう。

ただ、それは今までの戦闘データを元に、冒険者ギルドが定めたランク付けに過ぎず、Aランク『アタッカー』の絶対的有利が確約されたものではなかった。

数で勝っているとしても決して油断できるものではない。そして、 獣巨人(トロール) が一体とも限らない。

幸い今の処は一体しか姿が見えなかったし、群れていないのであれば単独の可能性の方が高い。

早々にケリをつけた後、コニーを連れてこの場から離脱した方が良いだろう。

「ロイド、行くぜ!」

スレイは愛用のショートソードを抜刀し、刃を 獣巨人(トロール) に向けて構える。既にロイドも身を屈めて臨戦態勢に入っていた。

そして 獣巨人(トロール) が目前まで迫ってきた頃、スレイとロイドは呼応するように一斉に動き始めた。