軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

酒場

その日の晩。

不機嫌だったラフタリアを連れて、気分転換に島の酒場に入った。

最初こそ嫌な顔をしたラフタリアだったが、しばらくすると楽しげな笑みを浮かべたので安心した。

酒場内は活気で溢れていて、冒険者が各々騒いでいる。

何処何処の狩場で何Lv上げたとかを話し合っていて、時々経験値が増えるアクセサリーの話が飛び交っている。

あの詐欺商、上手くやっているな。

ちなみに勇者の酒場代は女王持ちなのを確認している。

とりあえず、カウンター席に座ってラフタリア達を見た。

「そういえばラフタリアは酒に興味があったんだったな」

「いえ……そういう訳では」

「実年齢は子供なのに、こういうのに興味を持つようにもなるのか」

俺も成人する前は酒に憧れた事があるので、少しは気持ちがわかる。

酒場の親父に適当な酒を注文した。

「フィーロはどうする?」

「んー?」

酒の匂いが嫌なのか微妙な顔をしている人型のフィーロが騒がしい酒場を一瞥する。

「なんか楽しそうだけど……変な匂い」

「まあなぁ」

どうやらフィーロには早過ぎたみたいだ。

まだ子供だからな。そもそもフィロリアルに酒なんか与えて変な事が起こったら困るしな。

「さあ! どっちが勝つか!」

と、酒場内で力自慢の腕相撲を始めた連中が現れた。

屈強な男二人が相手の腕をへし折るような気迫で腕相撲をしている。

その後ろでどちらが勝つか賭けが始まっていた。あ、元康が女の子を口説きながら酒を飲ませている所を発見、あいかわらずな奴。

その背後には踊り子が色っぽい踊りを繰り広げている。更に近くでは詩人らしき奴が竪琴を片手に歌いだしている。

こういう所は本当異世界って感じだよな。

「あ! なんかあっちが楽しそう!」

フィーロは鳥だからな。さえずりとかの関係でああ言ったモノに興味を取られるか。

「おう、行ってこい。迷惑を掛けない様にな」

「うん!」

フィーロはトコトコと踊りと歌の方へと走って行く。

と、同時にカウンター席に座っていた俺達に酒が配られた。

軽く飲む。

うー……ん。やっぱり異世界でも酒の味はそこまで変わらないな。

ジュースみたいな感じ。

「これがお酒……」

「ま、肉体的には大人だからラフタリアも飲んでみると良い」

「はい!」

なんか、子供が初めての体験をするようにラフタリアは恐る恐る酒の器に口を付ける。

「……なんかちょっと苦いですね」

「まあ、そうだな」

俺としては水やジュースと大して変わらない感覚なんだがな。

酔った事無いし。

「ナオフミ様はお酒を飲むのはどう思っています?」

「俺は別になんとも……酒飲む趣味は無いな。付き合いで飲む程度だ」

「そうなんですか」

「俺の世界じゃ飲まない奴もそれなりに居るけど、この世界じゃ珍しいかもな」

錬や樹は未成年だけど、異世界だからと飲んでいるかもしれない。

あ……酒場の外で宴会に参加している樹を発見。

お前は未成年だろうが。

ま、ここは異世界だ。罰する法律が無いか。

こりゃあ錬も飲んでいる可能性が高いな。

「どれくらい飲めるかを測定してみるのも良いかもしれないな」

「はぁ……」

ラフタリアは器に口を付けてゴクゴクと酒を飲み干す。

「こんな感じですか?」

「そうだな」

元の世界に居た頃の宴会を思い出す。

別に女の子が酒を飲んじゃいけないとかの感覚を俺は持ち合わせていない。

ま、最近ストレスが溜まっていると思わしき、ラフタリアには良いんじゃないだろうか。

大昔から酒は日々の疲れを癒す手段として使われたから少しは効果が期待できるはず。

我慢強い子だからなぁ。本音はどうなのか気になるし。

「ほら、気にせず飲め」

「はい」

とラフタリアに酒を勧めていると、詩人が歌っていた方でざわめきが聞こえてくる。

見ると、魔物の姿になったフィーロが詩人の演奏に合わせて歌っている。

最初はビックリしていた詩人とその周りだったが、フィーロの歌声が思いのほか良くて、テンションがヒートアップしている。

楽しんでくれれば良いのだが……。

ん? 元康の奴、フィーロが歌っているのに気付いたみたいだ。

放っておこう。魔物の姿だし、襲い掛かる事は無いだろう。

「フィーロちゃん天使の姿で歌ってー!」

「ヤー!」

……うん。大丈夫そうだ。

それから30分。

「今回のLv上げでナオフミ様と一緒に戦ったらどれくらいLv上げができるでしょうか?」

計15本分の酒を飲んでラフタリアは俺に向けて自分の考えを話している。

酔っているのか凄く曖昧なラインだ。

頬は若干赤いのだけど、それ以外はシラフっぽい。

かなり酒に強いみたいだ。

それに付き合っている俺が言うのもアレだと思うが、明日に影響が出る程飲まれると困るんだが……。

酒場の親父もラフタリアの酒豪に驚きを隠せないっぽい。

どうやら亜人が特別酒に耐性がある訳では無さそうだ。

しかし……カウンターに置いてあるこのブドウみたいな果物、凄く美味いな。

ブドウを凝縮したみたいで、だけど後味はすっきり。なのに、何時までも口に残っているような……ついつい次に手が伸びてしまう。

「勝負ありー!」

腕相撲で負けた奴がこっちに転がってきた。

「ちょっと! こっちは話をしているのですから邪魔しないでください!」

ラフタリアが不機嫌そうに言い放つ。

普段ならこんな事言わないな。酒が入っている所為か?

相当ストレスが溜まっていそうだ。原因は元康や錬だけではないかもしれない。

考えてみれば、行商、波、逃走生活と休まる時間なんてほとんど無かった。

ガス抜きも必要かもしれないな。

「ハッ! 文句があるなら腕相撲で勝ってから言うんだな」

「そうですか……いいでしょう。相手になります」

腕をたくし上げてラフタリアは腕相撲に参加を表明した。

まあ……大丈夫だよな。変に怪我したら困るが。

しかし……このブドウ美味いな。

「あの……」

酒場の親父が心配そうに俺に話しかけてくる。

「ん?」

「大丈夫なんですか?」

「ま、問題ないだろ」

「いえ、そうではなく……」

「は?」

なんか、酒場の親父の顔色が青い。

何で青いんだ?

「酒だ! 酒を追加しろ!」

と、言って、大きなタルを持ってきた男が酒場の隅に飾ってあるブドウの実を一粒、タルに入れてかき混ぜる。

隠し味って奴かな。まあ、こんだけ美味い実だからなぁ。

そんな感じで酒場の賑わいは続いていく。

ラフタリアは腕相撲で対戦相手を瞬殺し、賭けは白熱していた。

この子に腕相撲で勝てるのは誰だ! って、騒いでいる。

フィーロの方は歌うのがそんなに楽しいのか、詩人と熱唱中だ。

良い気分転換になってよかったな。

ヒョイっとブドウっぽい果物の実を口に放り込む。

「あ、あんた何やってんだ!」

凄い大声で一人の男が俺を指差した。

その声に酒場は一瞬で静まり返る。

「なんだ? どうした?」

実を食べ終わって、男に尋ねる。

酒が入り過ぎて絡んできているのか?

「ルコルの実を直接食うって死ぬ気か!?」

「はぁ? なに言ってるんだ?」

もう一房、近くにおいてあったので、摘んで口に放り込む。

直後、ざわめきが大きくなった。

なんか変なことでもあったのだろうか?

「ナ、ナオフミ様。どうしたのですか?」

騒ぎに酔いも醒めたのかラフタリアが普段の態度で尋ねてくる。

「さあ? そこの奴が騒ぎ出して、良く分からん」

癖になる味だコレ。好物になりそう。

もう一個頂こう。

パクっと口の中に放り込む。

「ああ、また食った!?」

なんか、酒場中の注目が俺に集まる。

一体、何を驚いているんだ?

もう一個を放り込む。

「どうしたんだよ?」

元康の野郎が舐めた目で俺に近づく。

「いやな、こいつがこの果物を食う俺に文句をつけてさ」

「へぇ……その実、凄く高いんじゃないか?」

「そうなのか? それは悪かった。後で支払うから我慢してくれ」

影にでも言えば金は払ってくれるだろう。ここは女王持ちだからな。安心して食える。

「まあ……それなりに高くはあるのですが……問題はそこじゃなく……」

歯切れ悪く酒場の親父が答える。

なんなんだ?

「あの……その、ルコルの実というのは大きな水樽に一粒混ぜてやっと飲める酒の元なのですよ。そんなモノをそのまま食したら……」

「はぁ? 何を言っているのか。俺を驚かすつもりなんだな」

「いえ……本当の事で……」

「尚文が酔って無いんだ。そんな嘘は通じないぜ」

元康がルコルの実を一粒、摘んで口に放り込む。

「お……なんか濃厚な味わい、これは美味――」

言い切る前に元康の奴、前のめりに倒れこんだ。

バタン、と受身を取らない大きな音が響く。

ははっ! 白目剥いてるぞ、コイツ。

というか、この実そんなにやばいのか?

「た、大変だ! 槍の勇者様がルコルの実に当たって倒れられた!」

「急いで吐かせるんだ!」

「おう!」

何か酒場内は騒然となり、元康は担いで運ばれていった。

まったく……楽しい雰囲気が台無しじゃないか。

それにしても高濃度のアルコールが含まれている、ねぇ。

「ラフタリアも食うか?」

「いえ……」

「じゃあフィーロが食べるか?」

歌うのをやめたフィーロが俺の方に来たので実を口元に近付ける。

するとフィーロは口を押さえて俺から距離を取った。

「や!」

「食いしん坊のお前が珍しいな」

「その実、なんか嫌!」

うーむ……どうも反応が悪いなぁ。

まさかフィーロにまで断られるとは思わなかった。

「ウワバミじゃあああああ!」

「化け物がいる!」

「酒の神様ですらも尻尾を巻いて逃げ出すぞー!」

なんか大混乱になったな。

この実がねー……何かの冗談だろ。

俺は騙されないぞ。

「なんか騒がせてしまって悪かったな。宿に戻るか」

「は、はい」

騒然とする酒場で話を纏めて、俺達は立ち去ろうとする。

「ああ、後で金は払うから、盾の勇者の使いの者が来ると思う」

酒場の親父にそう言って、俺達は宿に戻って寝た。

盾の勇者は人の姿をした化け物だとか、変な噂が島を巡ったらしいが……大げさな奴等だ。

そんなに三勇教の権力は生きているのだろうか?