軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

番外編 転生したら盾の勇者の極悪王女だったんだけど、どうすればいいと思う?

気が付いた時私は豪華な部屋で一人でいた。

ここは……一体……?

事態が飲み込めずに近くにあった鏡台を見る。

するとそこにあったのは見覚えのある私の顔ではなく……うん。この顔は間違いなくヴィッチと呼ばれる悪役にして全ての元凶の顔だった。

ぼんやりとだけど前世……? を思い出す。

現代社会でOLをしていたはず。

私の名前は……なんだったっけ? よく思いだせない。

ただ、この鏡に映る女が『盾の勇者の成り上がり』と『槍の勇者のやり直し』において敵として登場する愚かで極悪な王女であるのは間違いない。

盾の勇者の成り上がり。

小説家になろうというWEBサイトで投稿されたのを皮切りに書籍化し、アニメ化までした作品。

図書館に本を読みに来た大学生の岩谷尚文がたまたま見つけた四聖武器書と言う本を読んでいる内に、本の中で活躍する世界を救う盾の勇者として異世界に召喚されると言うありきたりな始まりから起こる様々な陰謀に巻き込まれて行く物語。

ゲーム感覚が抜けない他三人の勇者を皮切りに、宗教的に敵国の神様である盾の勇者を迫害しようとする召喚国メルロマルクが起こす陰謀や冤罪事件を撥ね退けて行く話で、高校生ごろから私はこの話を読んでいた物だ。

邪道で王道、王道で邪道と、読む人によって色々と評価が別れる作品で、ストレスが掛る故に苦手な人も多いわね。

その盾の勇者の成り上がりが終わった後に作者が新たに書いた番外編が槍の勇者のやり直し。

これは盾の勇者の成り上がりで当面の敵として描かれる槍の勇者が、並行世界にループしてしまった事から始まる物語。

未来を知っているけれど、人格が変わってしまった不器用な槍の勇者がどうにかして理想の未来……じゃないわね。

盾の勇者のヒロインの一人、フィーロに心酔しつつ過去の過ちを悔み、盾の勇者を助けようと四苦八苦しながらフィーロに出会おうと頑張る話かしら。

色々とぶっ飛んでいる槍の勇者が必要な工程を力技で解決しようとするから本編である盾の勇者の成り上がりでは描写され切れなかった出来事なんかが分かったりする話よ。

私はこの二つの物語をよく読んで楽しんでいたから覚えている。

小説の挿絵や各種メディアで描かれる登場人物をこれでもかと見ていた。

だからこそ、見間違えるはずもない。

この猫を被れば美少女と言えなくもない顔立ち、不敵に笑えば確実に悪役だとしか言えない顔になるこの女は間違いなく……後にヴィッチと呼ばれる悪役王女である。

その悪役王女になんで……?

もう一度、鏡を眺める。

う~ん、確かに美女よね。

悪役っぽい表情をしないで自然にしていると……男性向け作品のヒロインに見えなくもない……これってどういう仕組みなの?

少なくとも初対面で悪女だとわかる顔じゃないと思う。

まあ、そうじゃないと原作での出来事と辻褄が合わないという事なのかもしれない。

そう思いながら窓から外を見ると……階段を上ってくる人物がチラッと見えた。

アレは……うん、間違いない。

四聖勇者達だ。

私はそっと部屋の扉を開けて見張りの巡回をしている兵士に声を掛ける。

「ちょっと」

「ハ! なんでございましょうか! マルティ様!」

兵士が私に声を掛けられて怯えを隠した敬礼を行う。

まだ私の権力があるみたいね。

念のため確認しましょう。

「今、城で何が起こっているか教えて下さらないかしら?」

「ハ! 三勇教会とオルトクレイ王の指示により、四聖勇者の召喚に成功したとの話が城中に知れ渡っております! 謁見に参加致しますか?」

やっぱり……どうやら私は本当に異世界……盾の勇者の成り上がりの世界に来てしまったみたいね。

現に私の視界にステータスアイコンを呼び出す項目が出ているし……。

「いえ、ですが……奥で様子を見る予定よ」

確か……この王女は実は玉座の間の奥で隠れていたって話だったはず。

「呼び止めて悪かったわね。仕事に戻りなさい」

「ハ!」

兵士はそのまま敬礼して足早にその場を去って行ってしまった。

大方私の陰口とか言っているんだろうなぁ。

さて……正直に言えば私は盾の勇者シリーズはかなり読み込んでいるし好きな作品だ。

色々とカップリングの妄想も捗るし、槍の勇者のフォーブレイ編とかかなり好きな……そう言う類の人種なのは間違いないわ。

推しは槍×盾よね。

逆も良いわ。

この二人の絡みが見たい。

このチャンスを利用して色々と暗躍したいくらいには思考が回るのだけど……同時に盾の勇者シリーズにおける私の状況というのが非常によろしくない。

何せこの作品では前世の記憶を持つ者を転生者と呼び、世界を滅茶苦茶にしてしまう全ての黒幕……その駒だったのだ。

だから……私が下手に動くと殺されるのは元より、魂まで消されたりしかねない。

ふと、私は夢じゃないのかと頬をつねると痛みが走る。

うん……やっぱり私はヴィッチに転生してしまっている。

いえ……憑依してしまっているのよね。

このヴィッチには色々と裏設定というか厄介な存在であって、憑依とかしたらその大元に色々とありそうなのだけど……妙な声とかは無い。

……どうしたら私はこの先を生き残れるかしら?

世界は波って現象が起こっている。この危機に関して安易な対応をしていると国がどんどん荒廃するのは元より、世界が滅びかねない。

何せ勇者同士の不和を国が暗躍しているし、盾の勇者を嵌めて殺した後、世界は三勇者によって救われるとかこの国の宗教は信じているらしい。

自身の信仰している宗教徒以外は滅びの時から逃れられない。

危機を乗り越えた教徒と勇者達で新たな時代が始まる。

私の知る前世の世界での宗教とかも教本とか調べると結構、そういう記述があるのよね。

信者を繋ぎ止める方法なんだろうと想像できるけれど、三勇教はそれを実行に移してしまっているのだ。

愚かしいとは思えるけれど、終末論なんてどこでも転がっている。

それこそ私の前世の世界でもあったはず。

で、そんな情勢の中で……私が行動すべき事は?

善玉の転生者として勇者達に事情を説明して信じて貰う?

私はこの作品の全てを知っているから信じてほしい、みたいな。

ただ……これを言った瞬間、転生者として黒幕が仕掛けた爆弾が爆発して頭が炸裂した挙句、魂まで消滅とかしたら話にならない。

傍観者を決めて何もせずに勇者達から距離を取る?

それも悪くは無い。

少なくとも何もしなければ私の命の危機だけは回避できるかもしれない。

ただ……妙な真似を……そうね。

現代知識を駆使して何かしら余計な事をしようものなら運命的に私には破滅が待っていそう。

そうやって調子に乗っていると碌な事にならない作品世界なのは間違いない。

メタ的な思考だけどね。

女王もメルティ王女も、何もしなければ文句は言わないでしょう。

けど……確か私って、勇者召喚の責任を取らされて鬼畜なフォーブレイ王への縁談を女王は持ちかけられている展開になるんじゃなかったかしら……。

女王は温情があって私を嫁入りさせるのは避けたいって方針だけど、フォーブレイ王の強い要望となると断り切れずに差し出してしまう可能性はゼロじゃない。

槍の勇者の仲間をしていたからと言うのも嫁入りを断れた理由になっていたのは想像に容易い。

行動も危険、何もしないのも危険……っと。

程々に……それでありながら女王に嫁入りさせない様にさせつつ、勇者達を刺激しない……平民としてや国外に逃げるのはきっと影とか暗躍部隊の所為で無理ね。

そんな真似したら何か企んでいると怪しまれて嫁入りに踏み切られかねない。

……結構詰んでいる状況に思えて来てしまったわ。

なんでよりにもよってヴィッチになってしまったのよ。

どちらかと言えばメルティとかラフタリアになりたかったわ。

いえ、むしろモブ、キールとか……この際イミアとか地味な方が良いのかしら?

けれど、確かこの辺りもかなり悲惨な過去と境遇持ちだったはず。

そんな状況にはなりたくない。

……逆に誰だったら良いのって位よね……っていたわ。

怠け豚ことエレナよ!

コイツは上手い事勇者に取り入れて顔色さえうかがっていれば無難に逃げきれる。

過去に特別不幸な設定がある訳でもない。

もしくはフィーロ……?

いえ、この辺りはきついわ。

考えても見なさい。

現代でOLしていた私が『フィーロの名前はフィーロ!』とか言っていたら、色んな意味で問題あるでしょ。

そもそもフィロリアルに転生出来るかわからないし。

槍の勇者が育てたモブフィロリアルならまだ良かったわ!

魔物転生万歳!

ギリっと思わず爪を噛んでしまう。

その姿は完全に悪女の姿であった。

私はその足でそっと、勇者達の謁見を覗き見ようと謁見の間へと向かう。

ぼんやりとだけど王女としての記憶から城の間取りは把握しているから迷ったりはしない。

どうやって上手く立ち回るべきかしら?

この世界って色々と異世界人が来ているから現代知識で儲けるとか評価を得づらいはず。

なんて思っていた所でふと――ある考えに至ってしまった。

……今、私が転生してしまったこの世界は『盾の勇者の成り上がり?』

それとも『槍の勇者のやり直し?』

前者だったならばまだ色々と可能性が眠っている。

それこそ王や国の暗躍に関して献身的に盾の勇者である岩谷尚文のそばに居れば、どうにかなる可能性は高い。

苦労はあるでしょうけど、その分、見返りも大きいわ。

女王も評価するので嫁入りも回避できる。

性格が変わらない盾の勇者はちょっと下心はあるらしいけれど、それも極々普通の青年で通る。

話せばわかるタイプのオタクのはず。

こっちが本心を隠しても信じてくれるでしょう。

しっかりと育ててあげれば……うん。

生き残れる可能性は高いわね。

暗部の暗躍に関しては女王側にがんばってもらいましょう。

身を守る事に関してだって作品知識があれば大丈夫。

裏設定も槍の勇者を読み込んでいたからどうにかなるはず。

それに盾の勇者って料理マンガの世界から来た疑惑があるし、どれ位美味しいのかちょっと興味ある。

けれど……もしも槍の勇者の方だったら最悪ね。

だって槍の勇者のやり直しでは、主人公である槍の勇者は基本的に女の言葉は豚の鳴き声にしか聞こえない。

しかも私はその中でも飛びきり最悪の豚で『赤豚』とか呼ばれている。

更に言えば、隙あらば殺しに来る可能性は高い。

こう……唐突に私を殺すとかしそうだもの。

特に何かしている訳でもないのに、城の中を歩いていたら突然背後から槍で胸を貫かれて死亡……ですぞ、フハハハハ……BADEND……とかありえる話だし。

こう、行動する度に死亡判定が1%確定で存在しながらセーブ機能なし、みたいな。

なんていうの?

鎧のアイツみたいに。

ちょっとメタな話だけど、ありそうじゃない。

私の知らない先の連載分での出来事が~って感じの展開。

何故なら槍の勇者のやり直しの続編である真槍はまだ完結していない。

まだ描写されていない部分とか地雷は無数に転がっているかもしれないわ。

とにかく……まずはどっちであるかを確認しましょう。

さっきの様子から間違いなく謁見する際に自己紹介をするはずだもの。

私はそっと玉座の間の裏に来て聞き耳を立てる。

「ワシがこの国の王、オルトクレイ=メルロマルク32世だ。勇者共よ顔を上げい」

ああ、この体の父親である、後にクズ王と呼ばれる人物ね。

杖の勇者にして英知の賢王と呼ばれ、過去のメルロマルクでは随分と活躍した人物らしいわ。

今は……控えめに言ってマダオね。

まるでダメなおじいさん、略してマダオって感じ。

色々と失わないと目が覚めない困ったジジイよ。

娘の私の言葉は聞き入れてはくれると思うけれど、それでも盾の勇者である岩谷尚文に関しては暴走する可能性が高い。

私がやめてと言った程度で止まってくれれば良いけど……メルティの説得でも引く様子は無かったらしいから難しいか。

なんて考えをしていると王とその周りがこの世界の危機に関して説明し始めた。

「話は分かった。で、召喚された俺たちにタダ働きしろと?」

「都合のいい話ですね」

「助ける義理も無いよな。タダ働きした挙句、平和になったら『さようなら』とかされたらたまったもんじゃないし。というか帰れる手段があるのか聞きたいし、その辺りどうなの?」

「ぐぬ……」

ここで勇者達が密かに拳を握ったのよね。

「他に援助金も用意できております。ぜひ、勇者様たちには世界を守っていただきたく、そのための場所を整える所存です」

「俺達を飼いならせると思うなよ。敵にならない限り協力はしておいてやる」

「……そうだな」

「ですね」

……うん。この流れは盾の勇者よね。

よかったよかった。

いえ……なんか不安になってきた。

詳細まで覚えているかと言えばこの辺りのやり取りは少し怪しい。

ただ、流れ的には……間違いない、はず。

私は両手を合わせて祈る様に勇者たちの自己紹介を聞く。

「俺の名前は天木錬だ。年齢は16歳、高校生だ」

うん、ショタっぽくて可愛いよね。

最終的に一番良い性格になると思うわ。

王道って彼よね。

平和になった後の出来事が色々と同情を誘うけど。

それよりもこの先よ!

盾、盾、盾!

「俺の名前は北村元康! 愛の狩人ですぞ!」

槍だったーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!

私は壁に寄りかかり、これから起こりうる死亡フラグに絶望をせざるを得なかった。

私の人生どうなっちゃうのー!?