軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

俺のゾウ

音を立てずに室内に入って俺は姿を現しますぞ。

「ただいま帰りましたですぞー」

「おかえりなさいですわ!」

「キタムラおかえりー!」

ユキちゃんとコウが元気よくお出迎えしてくれました。

一仕事を終えて帰ってきた時にフィロリアル様達の楽しそうなお顔を拝見出来る……実に愛の狩人冥利に付きますな。

「お義父さん達はまだ帰って来ていない様ですな」

「そうですわ。かなり長いですわね」

ユキちゃんが窓から外の様子を確認しますぞ。

あのケバマンモス、お義父さん達を相手に長々と屋敷の紹介をしているのでしょう。

そんな事は容易く想像できますぞ。

ぶっちゃけお前の為にお忙しいお義父さんの時間を割くのは大間違いではありますが、そのお陰で警備が手薄になったので譲歩はしてやりましょう。

さて……。

「コウ」

俺はコウの方を向いて尋ねますぞ。

「なーに?」

「コウはゾウの事は好きですかな?」

「うん」

「それはどのくらい好きなのですかな?」

「んー?」

コウが小首を傾げつつ俺を見つめますぞ。

俺は真摯に見返します。

「どういうことー?」

「将来のお嫁さんにするくらい好きかと聞いているのですぞ?」

「んー……?」

「ゾウがお義父さんの物でも良いかと聞いているのですぞ?」

「んー? エルメロは、イワタニの配下なんでしょー?」

この反応、どうやらコウのゾウに対する好きはお姉さんやその友人と同じような好きな様ですな。

少々心配ではありましたが杞憂でした。

「よくわかりました。問題ないですな」

「よくわかんなーい」

コウの頭に無数の疑問符が浮かんでおりますな。

「まだまだコウは子供ですわね」

「ぶー! コウ子供じゃないー」

ユキちゃんの言葉にコウがムキになっておりますぞ。

微笑ましい光景ですな。

「いずれコウもわかる時が来ますぞ。この前のナンパはその練習なのですからな」

「そうなんだー? コウ、エルメロをナンパ? うーん?」

やはりコウはピンと来ないようですぞ。

まあ、コウの恋愛はまだまだ先と言う事ですな。

何分コウの好きになる方は最初の世界基準でいえば少しずれておりますからな。

今度はどんな方を愛するのか想像もできませんぞ。

では、お義父さんに説明をするとしましょう。

という訳で俺はお義父さん達が帰って来るまでユキちゃん達と一緒にアイドルの振付練習を始めたのですぞ。

そう考えながら俺はフィロリアルマスクの勝利ポーズを取ったのでした。

「なるほどね。そういった事情があったのか……なんとなく想像はしていたけど……」

しばらくしてお義父さん達がケバマンモスの案内を終えて帰ってきました。

本来は夕食まで色々と根掘り葉掘りケバマンモスがついて来ようとしたらしいのですが頃合いを見てパンダとエクレアが間に入って戻ってきた感じですな。

そして盗み聞きされないようにユキちゃん達と力を合わせて監視&魔法で内緒の話ですぞ。

内容はもちろんゾウに関した状況説明ですな。

「踏み込ませたあたいが言うのもなんだけど、エルメロの家は複雑だねぇ」

「なんというか、ラーサさんとは逆パターンだよね」

「……そうだねぇ」

パンダが若干眉を寄せますが否定はしないようですぞ。

「家柄や血縁と言うのは時に厄介な物であるからな……メルロマルクの貴族にも稀に亜人が生まれる場合があるのだが、そうなった者は随分と悲惨な事になったという話だ」

メルロマルクでも似たような話は転がっているのですな。

あの国は性格のひん曲がった貴族が多いのでしょうがないですぞ。

「メルロマルクの場合は……貴族の女性が行った危ない火遊び、奴隷とかを相手にした危険な恋愛の結果かな?」

「当人が起こした問題ならまだマシであるな。火遊びから運良く母親似の子供が生まれ、数代後……となるとな……」

身に覚えのない不貞で家を追い出される未来が容易く想像できますな。

もしくは奴隷などに責任を擦り付けて処分と言った所でしょう。

メルロマルクは豚が有利な国ですから、豚側の非は放免されやすいそうですぞ。

反吐が出ますな。

ちなみに最初の世界のお義父さんの話だと、メルロマルクが豚有利なのは過去の勇者の嫁面した豚が建国した国だとかなんとか。

赤豚本体の干渉もかなりあるそうですぞ。

「あー……そんな事もあり得るんだね。てっきり半々みたいなのが生まれるのかと思ったよ」

「この辺りは色々と不思議でな。ちなみにシルトヴェルトの伝承だと盾の勇者と亜人獣人の子供は亜人獣人の血が濃く発現し、薄まらないと言われている」

「いや、それは知りたくなかった」

お義父さんが激しく眉を寄せて困った表情をしておりますぞ。

ふむ……お義父さんの子供ですかな?

凄く薄ぼんやりとしか思い出せませんな。

樹とストーカー豚の子供がネガディブな癖にハイテンションだったのは覚えているのですが。

「そっか……エルメロさんには育ての親が居て大切にされていたんだね」

「義理の親を大切にする気持ちはわかるねぇ」

パンダも義父はクジャク獣人ですからな。

血が全てではないとわかっているのでしょう。

「この家からすると思わぬ活躍をして俺の側近にまで地位が上がったエルメロさんは……目の上のタンコブって所なのかな?」

「おそらくはそうなのであろう。ただでさえイワタニ殿へのアプローチに失敗し、排除された状況で、家の者と数えるのも嫌な者が出世してしまった。切るには難しいがこのままにはしておけないのだろう」

「だからどうにか側近の地位を挿げ替えたいって所なんだろうねぇ……浅はかだねぇ。エルメロもガツンと言えば良いってのに」

そうパンダが締めました。

よし、今ですぞ!

お義父さんにゾウを大プッシュしましょう。

これで明るい未来が見えて来ましたな。

「ですのでお義父さん! ここは俺の豚経験から言わせてもらうと、ゾウにがんばれ! とか好きだ! とか俺のゾウなんだぞ! と、言えばゾウが家に反旗を翻して事が丸く収まるのですぞ!」

「元康くんの過去の遍歴から言われてもなぁ……それで上手くいけば良いけど……うーん」

お義父さんが若干懐疑的な態度で腕を組んで唸っていますぞ。

何かおかしいですかな?

俺の時は大体こんな感じでなんとかなりましたが?

「まあ豚とゾウでは遺伝子から違いますからなぁ」

「いや、そういう意味じゃないんだけどね……」

「とにかく勢いですぞ。想いが全てを引っくり返すんですぞ」

「う~ん……いや、まあ、気持ち的にはわからなくはないんだけどね? まあ参考にはさせてもらうよ」

「そもそもキタムラ殿の言い方はどうにも同意しがたいのだが……こう、女性を何だと思っているのだと……」

エクレアも何やら疑問があるようですな。

どうにも受けが悪いですぞ。

ゾウの何がそんなにダメなのですかな?

「まあ豚に効いた手でしかないので、難しいというのは理解できますぞ」

「そういう意味では……いや、気にしなくて良い」

「相変わらず槍の勇者が関わるとややこしくなるねぇ」

「ユキは元康様にそんな事を言われたら全力でなんであろうと突破してみせますわ!」

ここでユキちゃんが俺の案を推してくれました!

確かにどことなくユキちゃんからは貴族やお金持ちのオーラがありますからな。

気品もあるので貴族なのは間違いないですぞ!

「勢いだってのはわかるけどね……まあ、ちょっと待っててよ。俺なりの手も無いわけじゃないんだ。と言うよりもさ……なんか相手が自爆しそうでね」

何やらお義父さんに案がある様ですな。

なんでも家柄的に脳筋なのに頭を使おうとしているそうで、ボロが多いそうですぞ。

そんな訳で俺達は夕食が出るまで話をしておりました。

そうして夕食の時間になりました。

屋敷内にある大きな食卓のある部屋へと俺達は通されたのですぞ。

高めのテーブルの上には山のように食べ物が盛られておりますな。

主に野菜類が多めの印象ですぞ。

これを作ったのは……やはりネズミ獣人と奴隷達ですかな?

で、マンモス一家が揃い踏みで着席しております。

ゾウは……お義父さんから一番離れた地味な席に座らされております。

若干表情が暗いですな。

「エルメロー、コウ、隣が良い」

ここで不安そうなゾウを心配したコウがゾウの隣に座りたいと立候補しますぞ。

うう、良い子になりましたな、コウ。

モグラを食べたいなどと騒いだ世界とは雲泥の差ですぞ。

「……じゃあ席を空けますね。その代わりに貴方の席を使わせてもらうわ」

と、ケバマンモスがここぞとばかりにコウの座るはずだった席を開けさせてお義父さんの近くに寄りますぞ。

若干お義父さんに近寄ったので有利と判断したのでしょう。

それとなくマンモス一家が目だけで連携して自然と席替えをしました。

完全にお義父さんへの猛プッシュをする姿勢を維持しておりますぞ。

ちなみに俺はコウの席をケバマンモスに取られてイラっとしました。

「それでは……」

と、その後はシルトヴェルト恒例の食事の祈りを始めましたな。

一応熱心な信者ではあるのでしょうな。

腹に一物を抱えていますが。

お義父さんも馴れた様子で祈りに合わせております。

で、和やかに見えつつ何処となく緊張した匂いの漂う食事が始まりました。

「これがエルメロのお家の味ー?」

コウが出された料理を食べながらゾウに尋ねますな。

「ええ、そうみたいですね」

ちょっと返答がおかしいですな。

まあ無意識に言っているだけかもしれませんが。

もしくはマンモス達は料理を滅多にしないのかもしれません。

「ふーん……量はたくさんあるね。もっと食べて良い?」

「ええ、どうぞ」

ゾウが大皿から小皿……それでもまだ大きい皿に移してコウの前に置いて食べさせますぞ。

コウもゾウの持つ食べ物を載せたスプーンに合わせて口を開いて食べております。

微笑ましいですな。

なんとなくですが、最初の世界のお義父さんが雛への給餌みたいだとか仰りそうな光景ですぞ。

ちなみにコウの反応通り、味は普通ですな。

お義父さんの味に慣れているコウからすれば微妙と言った所でしょうか。

それを口に出さない慎み深さまで獲得している様ですぞ。

コウの成長が果てしないですな。

俺も誇り高い気持ちになってきました。

「ふふ……エルメロはそんな子供に夢中なのかしら? 盾の勇者様を大事にしないとダメじゃない」

ケバマンモスがここぞとばかりにコウを出しにゾウ下げに入りました。

イラッですぞ。

身の程を弁えろですぞ。

「……」

ゾウは黙々とコウをやさしく見つめながら食事を与えていますぞ。

「んー……ダメだった?」

「いいえ。ほら、食べこぼしてる」

ゾウがハンカチを出してコウの前に差し出しますな。

これをコウは受け取って口元を拭きますぞ。

「それで盾の勇者様、今日は我らが領地の庭園を視察なさったとの話、その庭園で採れた作物で作った料理はどうでしょうか?」

年を取ったマンモスがお義父さんに尋ねますぞ。

「素晴らしいと思いますよ。食材の味がしっかりと出ていますね」

卒なくお義父さんは返しますな。

まあ……食材の味はしっかりしていますな。

お義父さんが卒なく返す時の常套句ですぞ。

最初の世界のお義父さんは本当に美味しい料理を食べると『ほう……』と言って黙々と食べる方ですからな。

というよりも料理の批評など、俺の知る限り頼まれでもしない限りやった事はありませんぞ。

「いやぁ、厚い歓迎、とてもうれしく思います」

お義父さんが若干嘘くさい笑顔ですな。

何か仕掛けるのでしょうか。

この元康、怖いお義父さんが久々に見れると思うとゾクゾクしてきました。

ここは『ハイ』と続けるべきですかな? ハイ。

「こちらもその歓迎に関して高く評価しております」

「ありがたき幸せ」

マンモス一家の代表であろう年寄りマンモスが答えますな。

「なので歓迎だけではこちらも申し訳なく思います。それでですね、こっちもお礼がしたいと思うので……エルメロさん」

「は、はい。なんでしょうか?」

お義父さんの問いにゾウが応じますぞ。

「確かコウやフィロリアル達に歌を教えているんだよね?」

「は、はい」

「ここでそれをしてもらっても良いかな? ただ食べるだけよりも良いでしょ? 音楽を奏でたり歌ってもらうのはさ。エルメロさんは俺の守護騎士なんだから、家とは別で頼める?」

なんとなく、お義父さんが俺の守護騎士という役柄を強調した様な気がしますな。

マンモス一家もお義父さんの言葉に若干眉が跳ねたように見えますぞ。

お義父さん……これは逆効果なのではないですかな?

ゾウは周囲のプレッシャーを受けて絶句しておりますぞ。

「エルメロー」

ここでコウがフォローとばかりにゾウの手を握りますぞ。

後で聞いた話によるとお義父さんに事前にゾウと一緒に歌ってほしいと頼まれていたそうですな。

「イワタニのお願いだし、歌おうー」

「コウさん……」

ゾウはコウを見た後、静かに深呼吸をしてから頷きましたぞ。

「はい。じゃあ歌いましょうか」

ゾウはコウと手を繋いで食堂の奥のちょっと開けた大きな暖炉の前に立ちますぞ。

「それじゃあ……」

深呼吸をし、フィロリアル様達と合唱の練習をしていた時と同じように手を軽く振ってから歌い始めました。

もちろんコウも合わせて歌いますぞ。

その歌声は……フィロリアル様のような小鳥の囀りのような透き通るような綺麗な歌声とも異なる、ズシンと響くようなまさにゾウらしい力強く心に来る歌声ですぞ。

なるほど……ゾウに音楽の才能はあるのは確かな様ですぞ。

年寄りネズミがそう言っていたのは納得ですな。

そんな、誰もが聞き入りそうな素晴らしい歌声がしばし続きました。

コウはゾウの歌声をサポートするように歌っておりますぞ。

「これは……優雅ですわね。ユキも参考にすべきだと思いますわ」

ユキちゃんも最近ではアイドルのショーに関しての理解が深まっております。

更に一皮むけそうですな。

ゾウは歌うことに集中しておりますぞ。

声がどこまでも届きそうですな。

夢中になるとどこまでも集中してしまうタイプなのはわかりますぞ。

コウも合わせて歌い、やがてコウと一緒に踊る……いえ、コウがゾウに乗ったりしながら華麗なダンスを始めましたぞ。

合わせてゾウも手を上げたり鼻を上げ下げしたりと……まさにミュージカルのような事を自然と行っていきました。

歌声だけなのに楽器の演奏まで聞こえてくるかのようですぞ。

そんな不思議な一時もやがて終わりへと向かい。

静かにゾウは歌い終えました。