軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ゾウ推し

そんな、後日の事は別にして帰る途中の事ですぞ。

「うええええええ……」

シルトヴェルトの町の中でリスのような獣人の子供が泣きながらキョロキョロと何かを探すように歩いておりました。

「どうしたの?」

コウはそこで天使様の姿に形を変えて、リス獣人の子供に声をかけますぞ。

「……迷子になっちゃったの。ここどこ? お母さんに会いたい」

「えっとーどこではぐれちゃったの?」

「商店街」

「じゃあ一緒に探そう?」

コウの提案にリス獣人の子供がこくりと頷きました。

「ちょっとじっとしててー」

コウがリス獣人の股下に頭を入れ、グイっと立ち上がりますぞ。

「わ! すごーい! 力持ちー!」

「うん。コウ力持ち! どう? お母さん見つかりそう?」

「え? うーん……見つからない」

「じゃあこっち行こうか。キタムラもー」

「わかりましたですぞ! この子のお母さんはどこですかなー? 迷子ですぞー!」

そんな訳で俺達は迷子の親を探して商店街の中を進みますぞ。

ですが、迷子の親がなかなかに見つからない所か、活気づいて人ごみにまみれてしまいますぞ。

「うーん……ねえ、ちょっと驚くかもしれないけど、危ないから暴れないでねー」

「え? うん」

コウが諭すように迷子にお願いして、了承を得てからフィロリアルキングの姿に変わりますぞ。

ボフっと姿を変え、周囲の者たちは驚きますな。

ただ、変身できる獣人等が多いシルトヴェルトではそこまで大きく驚かれはしないようですぞ。

ですが目立つ背の高さも相まって人ごみでもコウが目立つようになりました。

「この子のお母さんはいませんかー?」

「ここ、ここです!」

何やら人ごみの中で手が上がっているのが見えますぞ。

「あ! お母さんだ!」

と言うわけでアッサリと迷子の親は見つかりましたぞ。

「本当、お手を煩わせて申し訳ありません」

コウの保護者をしている俺に迷子の親であるリス獣人は頭を下げますぞ。

俺が槍の勇者であるのは国の者達なら知っているので、腰を抜かすほど驚かれましたがな。

「大事が無くて良かったですな」

「よかったねー」

「ありがとー!」

「そ、それでは……このお礼はいつか」

「気にしないで良いですぞ」

「では」

と言うわけで俺達はリス獣人親子に手を振ってその場を離れました。

「ふんふーん」

コウは鼻歌を歌いながら城への道を歩いていきますぞ。

しかし……先ほどのやり取り、コウも随分とやさしい子に育ってくれてうれしいですな。

ここでふと、モグラを食べたいと提案してお義父さんに激しく怒られたコウの姿が脳裏をよぎりました。

そうですぞ。

ここにはコウがトラウマを宿す恐るべき案件があるのですぞ。

お姉さんやその友達がいないとコウは小さな獣人を食べたいと言うようになるはず。

「コウ」

「なーに?」

「さっきの迷子はどうして声を掛けたのですかな?」

「え? ダメだったー?」

「いえ、コウはとても良い事をしたと俺は思いますぞ。ですが、美味しそうと思って声を掛けたのかとも思ったので聞いたのですぞ?」

するとコウは若干不快と言った様子で眉を寄せます。

「えー食べないよーコウ、そんな食いしん坊じゃないもん」

おお、これはトラウマ回避ですぞ。

お義父さんのお仕置きがなくなったと判断して良いですな。

しかし、どうしてこの様な結果になったのでしょうか?

もしかして既に手遅れ……俺の知らない所でお義父さんにお仕置きされてしまったのかもしれませんぞ。

「あ、でも前のコウだったら考えてたかもしれなーい」

「そうなのですかな?」

「うん。エルメロがね、お城の小さな獣人の人達を美味しそうだなーって見てたら、食べちゃダメだって教えてくれたのー」

なんと!

あのゾウがお姉さん達の代わりを務めてくれたのですかな!?

仲が良いと思っていましたが、これは収穫ですぞ。

「それは良かったですな」

「うん!」

なんて感じで俺達は城へと戻りました。

それから俺はさりげなく、コウと……ではなくフィロリアル様達と遊ぶゾウを観察しました。

「じゃあ、まずみんなー音程を合わせてー」

指揮棒を持って集まったフィロリアル様に合唱を教えている姿がそこにはありましたぞ。

「あー……」

「「「あー……」」」

「うん。じゃあまた歌いましょー」

「はーい!」

「わー!」

確かに……音楽をしっかりと楽しく教えているようでしたな。

賑やかなハーモニーが城の中に響いて聞こえてきました。

とても心地いい歌声ですな。

なるほど。

俺も色々と忙しかったので確認はしておりませんでしたが、このような事があったのですな。

素晴らしいですぞ。

このゾウの教えがあって、フィロリアル様達は自然とアイドルとしての技能が上昇していたのですな。

オペラ風の歌などは俺は教えていませんから良い練習ですぞ。

「はい、今日はここまで」

「はーい」

「また明日ね」

「また明日ー!」

ゾウが楽しい歌の遊びを終えて、フィロリアル様たちと別れて城内へと入ってくるのを確認しますぞ。

「ゾウ」

「え? あ、槍の勇者様。どうも」

ゾウに声を掛けると、ゾウは俺に挨拶をしてきました。

「コウに色々と教えてくれたのは元より、フィロリアル様達に歌を教えてくれていたのですな。よくぞしてくれました」

「あ、はい」

ここまで有能であるならば俺も色々と力にならねばなりませんな。

恩には恩をですぞ。

「その礼にこれからはお義父さんとより仲良くする事を許しますぞ」

「あ、ありがとうございます……?」

パンダが頼れるポジションでお義父さんを攻略するようでしたが、ゾウをもう少しお義父さんに推して行くとしましょう。

「えーっと? 槍の勇者様がなぜ許可を?」

ゾウが小首を傾げていますな。

まあお義父さんの恋愛を俺がどうこう言うのに違和感を覚えるのは当然でしょう。

ですが、お義父さんの忠実な配下として相手は選んで欲しいと願っているのですぞ。

具体的には……。

「お義父さんをライバルのアタックからお守りし、心を射止めるのですぞ」

「は、はあ……」

「俺も応援していますぞ」

ピンと来ないと言った様子でゾウは俺の話を聞いていたのですぞ。

その日の晩、食事の席の事ですぞ。

お義父さんの勧めもあってみんなで楽しくお食事しています。

今日はお義父さんが気まぐれに俺達にだけという事で料理を作ってくださいました。

「おいしー」

「うむ……偶にしか食べられんがイワタニ殿の料理は絶品であるな」

サクラちゃんとエクレアが揃ってお義父さんの料理を褒め称えておりますぞ。

当然、俺やユキちゃん、コウだって同じ思いですな。

「ありがとう。今日の昼食に面白そうな料理があったから試しにみんなの口に合うように再現したんだけど、どうだった?」

「こりゃあシェフに食わせられないねぇ……残酷な意味で」

「美味しいと思いますよ」

パンダとゾウもお義父さんの料理に関しては素直ですな。

尚、ライバルは今夜はシルドフリーデンで仕事があるそうで来れないそうですぞ。

お義父さんが心配しておりましたが、無用ですな。

「あ、そうですぞ。お義父さん、ちょっと話があるのですぞ」

「どうしたの、元康くん?」

「お義父さん、パンダと仲良くするのも良いですが、ゾウも悪くはないですぞ。こやつは良いゾウですぞ」

「や、槍の勇者様……!?」

ゾウが何やら困った様な表情で俺を見ていますが、謙虚な態度であろうとしているのですな。

俺は鈍感ではないですぞ!

よく鈍感とか馬鹿とか豚に言われましたが違うのですぞ!

出来る男、元康……ここでしっかりとゾウが優秀である事をお義父さんに教えてあげましょう。

コウは元より、フィロリアル様達と仲良くしているゾウへのお礼ですぞ!

「ん? ちょっとよくわからないんだけど、エルメロさんの事?」

「そうですぞ!」

「そろそろ元康くんもエルメロさんの事をゾウと呼ぶのはやめた方が良いんじゃないかって思うんだけどな」

「む? そうですかな?」

「アタイの事をいつまでパンダって呼ぶのかねー」

「パンダはパンダですぞ。エクレアがエクレアであるように、ですな」

「いや、キタムラ殿がいつまで経っても間違えて呼んでいるだけで私の名前はエクレールなのだが……」

エクレアが何やら抗議していますな。

「エクレアはエクレアですぞ」

「……あまり気にしない方が私は楽だと悟ったので気にしないでくれ。キタムラ殿に人の女性として認識されているだけでも他とは違うのだ。大きく望むのは間違いなのだろう」

「あー……うん。話がしやすいようにラーサさんも獣人化しているんだしね」

「亜人姿で声を掛けたらまるで話を聞いてないんで驚いたねぇ……そういう意味じゃ希少なんじゃないかい?」

何かおかしな事がありましたかな?

とにかく、ゾウですぞ。

コウの縁もあって名前を覚える努力をしてみましょう。

「えーっと……メロンでしたかな?」

「……違います」

ゾウが即座に否定しました。

間違いの様ですな。

「エクレールさんの時もそうだけど、何でデザート系……?」

う~ん、確かそんな感じの名前だったと思うんですがな。

エルメロンとか、そんなんだったと思いますぞ。

「さっきから呼ばれているのに適当に覚えている元康くんって……」

「むしろここでエルメロだけがしっかりと槍の勇者に呼ばれるってのはねー」

「パンダは細かいですな。メロンは良いゾウだからですぞ」

「本当にやめてください……」

メロンが困っていますな。

俺はメロン……ではなく、ゾウを困らせたい訳ではありません。

コウを導いてくれた恩を返したいだけなのですぞ。

「アタイも面倒だから好きに呼ばせるよ。つーか……その理屈だと、メルロマルクの騎士様は人間って呼び方にしないといけないと思うんだけどねぇ」

「私も正しく名前を呼ばれている訳ではないのだが……」

「まあまあ……で、エルメロさんがどうしたの?」

そんな感じで仲裁してから、お義父さんはゾウについて聞いてきました。

「ですから、ゾウは良いゾウですぞ」

「うん、そうだね。真面目だし、エクレールさんとラーサさんとの間を取り持ったりもするから助かってるよ」

「それだけではないのですぞ!」

俺はお義父さんにコウの問題を説明しました。

「フィロリアルってのは案外危険な生き物だからねぇ……」

なぜかここでパンダが遠い目をするように言いました。

なんですかな!?

フィロリアル様に文句でもあるのですかな?

「否定はできんな。勇者殿達と出会う前は気性の温和な生物だと認識していたのだが……」

エクレアまで同意していますぞ。

お義父さんは苦笑いをしていますな。

「んー? コウ何か悪いことした?」

「してませんぞ」

「そうだね。コウはとても良い事をしたと思うよ」

俺とお義父さんに褒められてコウは若干照れていますぞ。

「えへへ……」

「ただ……とても怖い思いをしたコウがいると言う話なのですぞ」

「そんな違いがあるんだねー……ガエリオンちゃんは知ってるのかな?」

なんでそこでライバルが出てくるのですかな?

とは思いましたが、俺と同じくループしているので別の角度から意見がほしいという認識なのでしょう。

「俺がいない所で、聞いても良いですぞ」

ライバルの口から聞くのは不服ですからな。

ですが確かな事実として存在する問題なのですぞ。

「んー?」

サクラちゃんはよくわからないと言った様子で首を傾げておりますぞ。

「ナオフミが怒るってどんな風にー? お城で毒が入ってた時みたいなー?」

「あれはあんまり怖くなかったよね?」

「ですわね。想像し辛いですわ。シルドフリーデンでの高圧的な感じでしょうか?」

コウとユキちゃんもピンとこないご様子ですぞ。

そうでしょうそうでしょう。

あのループのお義父さんだって怒りたくて怒った訳ではありません。

コウの為を思って心を鬼にして叱ってくれたのですぞ。

だから怖くて当然なのですぞ。

「それはもう恐ろしい思いをして、コウは臆病になってしまうのですぞ」

「ぶーコウ怖くないもん」

「コウ、元康様が仰るのですから事実なのですわ。それを回避できた事を喜ぶべきなのですわ」

「確かにピンとは来ないねぇ。普段の調子を見るとよりね。あたいの背中になんか飛びついていたくらいかい?」

「まあ、俺もあんまり怒らないようにはしてるし、シルドフリーデンでの件は、強く出なきゃいけないからやってただけさ。あれは……その、ちょっと精神的にね」

お義父さんもあの時はお疲れって感じでしたな。

フィロリアル様の高貴な羽には負けますが、パンダは毛がふっさふさですからな。

「イワタニ怖くないよ?」

「恐れるコウもいたって話ですぞ」

「ぶー! コウ怖いものない!」

コウも男の子という事でしょう。

経験していない自分の弱い所を指摘されて、反論している感じですな。

「かといってお義父さんを怒らせてはダメですぞ! 取り返しがつかないのですぞ! メッ! ですぞ」

下手に言った所為でコウにトラウマを与えてはダメなのですぞ!

ですが、ゾウのお陰でもう安心ですな。