軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

唯一無二の存在

「アンタは何言ってんだい?」

おかしいですな。

パンダは俺の知る範囲でキールと一緒にそういった仕事を嫌がりながらもやっていたはずですぞ。

嫌と言いつつ実はやりたい仕事だと覚えております。

そんな感じで話をしながら向かうと動物園を抜けて屋敷に着きましたな。

係員が出迎えてくれますぞ。

そして屋敷内で待たされました。

お義父さんは屋敷内に設置された培養カプセルのような物をサクラちゃんと一緒に見ております。

「動物園的な物かと思ったけど、こう言う所が異世界って感じだね」

「間違いはないですな」

主治医が村に来た時も研究所にはこういった機材がありましたな。

他にも最初の世界のお義父さん達はバイオプラントを改良して便利にしていました。

「前に来た時、こうして待っている際にはパニック映画の研究設備みたいだとお義父さんと話をしましたな」

「全くその通りで冗談に出来なさそうだね。さながら動物園部分は恐竜パークかな? 事故とか起こったら……余裕で逃げ切れそう」

「んー? 逃げるの?」

「いや、そういう訳じゃないけどね。俺の方の世界でこんな感じで危なそうな研究をしていると事故が起こるって物語が多いんだよ」

「へー」

「事故が起こるのですか?」

ユキちゃんがお義父さんに尋ねますぞ。

「大丈夫だとは思うよ? で、パターン的に魔物が大暴れって感じだね」

「その様な暴挙をするような方々には思えませんでしたわ。とてもこの場所を大切にしていましたわよ」

「魔物と会話できるってのも緊張感がなくなるのかもね。とは言ってもこういったパターンで怖いのは細菌タイプのゾンビとか、魔物の自我を破壊するタイプの研究かな?」

「なんか妙な事故を期待している声がするわね」

絶妙なタイミングで主治医が姿を現しました。

お前は聞き耳でも立てていたのですかな?

「そういうのは理解の少ない夢想家や、患畜との信頼のない研究者が起こす事よ」

「は、はぁ……すみません」

「いいわ。どうせ理解される事が少ないとこっちもわかっているし。私の所へようこそ、あなた達が盾と槍の勇者一行なのかしら?」

「はい。俺の名前は岩谷尚文、盾の勇者として召喚されました。槍を持っているのは槍の勇者の北村元康くん。他にシルトヴェルトの守護騎士をしているラーサズサさんにシュサク種の代表をしているヴァルナールさん」

それからお義父さんはサクラちゃん達を紹介するように腕を広げますぞ。

おお、サクラちゃん達を特別扱いしてくれるのですな!

まあ当然ですぞ。

どちらかと言えば主治医が魔物好きだからかもしれませんが。

「そして、この子達は勇者が育てた事で変化したフィロリアル達です」

「よろしくですわ」

「んー……」

「よ、よろしく」

各々ユキちゃん達はお義父さんに言われて挨拶をしますぞ。

「わざわざありがとう。私の名前はラトティル=アンスレイアよ。親しい人はラトと呼ぶわね。一応ここの代表をしているわ」

主治医が歓迎すると言った様子で俺達に答えました。

「それで? ここに何の用なのかしら? その子達の診察でもしてほしいのなら喜んでするわよ?」

「コヤツの腕は確かですぞ。ただ、強引な診察は避けてほしいですぞ」

「それは私の興味次第ね。とはいえ、人化するフィロリアルというのも興味の対象であるのは確かね」

興味ありげに主治医はユキちゃんをマジマジと見ますぞ。

「ユキちゃん、暴れると薬を盛られて動けない様にされるので我慢ですぞ」

「わ、わかりましたわ! 高貴たる者、この様な場で品の無い事をしない様にしますわ」

さすがユキちゃんですな。

溢れんばかりの高潔さが滲み出ていますぞ。

「では良いですぞ。あまり強引な診察はやめるのですぞ」

「はいはい。わかったわよ」

そう言って主治医はユキちゃんの診察を始めました。

途中でユキちゃんにはフィロリアルに戻ってもらったり色々とやりましたが暴れた末に薬を盛られるような事はありませんでした。

やはり主治医は話せばわかる奴ですな。

「まあ最初の一匹を見た限りなんとなくわかった程度だけど、健康そのものね」

「ユキちゃん、おとなしくしていて良い子でしたな」

「はい。元康様、ユキはやり遂げましたわ」

「んー……」

サクラちゃんは若干眉を寄せ、コウはむず痒そうにしております。

できればやりたくないというお顔ですな。

「二人とも落ち着いて。暴れなければ二人の状態をしっかりと見てくれるんだから」

「でもー……」

「やー」

本能的に医者を怖がっているのかもしれません。

ですが、これもサクラちゃんとコウの為なのですぞ。

「暴れても良いけどね。そうなったらそうなったでデータが取れるし」

などと言いながら主治医はサクラちゃんとコウもしっかりと見ました。

お義父さんが宥める様に一緒にいてくださったおかげか、サクラちゃんもコウも我慢が出来ましたな。

「ふむふむ、これがフィロリアルの変異体な訳ね。よくわかったわ」

主治医はそう言ってメモにまとめておりますな。

「それで私に何か用があるって話だけど、何なのかしら?」

「そうですな。何かあった際のフィロリアル様の健康チェックは当然の事ですが、他にも色々とありますぞ」

「元康くんはサクラちゃん達の事を診てもらう以外にも用事があったんだ?」

「もちろんですぞ」

むしろそっちが本命と言っても良い位ですぞ。

主治医はその界隈では最高の人材ですからな。

「で、何をラトさんに?」

「それはもちろん、フィーロたんですぞ」

「は……? あー……わかった。ちょっとサクラちゃん達は部屋の外で待ってて。ラーサさんとヴァルナールさん、お願い」

「あいよ。お前等行くよー」

「何の話をするのですか?」

「んー?」

「コウ達は聞けないのー?」

「ちょっと難しい話をするからね。退屈だから外で待っていてほしいんだ」

お義父さんが気を利かせたのかサクラちゃん達を追い出してしまいましたな。

それからお義父さんは若干面倒そうな顔をしつつ話を続ける様に手で合図しました。

「で? いきなり何なのよ?」

「話は長くなるのですが、元康くんはこの世界と同じ時間を何度も経験しているそうで、それを俺達はループと呼んでいます。実は何度もラトさんに会った事があるそうです」

「ですぞ」

「俄かには信じがたい話ではあるけれど、確かメルロマルクから始まったシルトヴェルトでのタクト騒動辺りで少しばかり耳にした気がするわね。槍の勇者には未来予知ができるって話」

「ええ、その件で色々とあった訳なんですけど……」

「さっきのフィーロタンってのは?」

「フィーロたんはフィーロたんなのですぞ」

「元康くんは説明が下手だから少し待ってて」

お義父さんに注意されてしまいました。

まあ確かにお義父さんが話している最中に俺が口を挟んで上手く行った事はほとんど無いですぞ。

しょうがないので黙っているしかないのですかな?

「それでですね。元康くんにはとても大切なフィロリアルが居まして、その子がフィーロというんですよ」

「ふーん。それがどう繋がるのかしら?」

「そのフィーロという子は、どうやら別のループでサクラちゃんが至る可能性のある子であるそうで、既に育ってしまったサクラちゃんをどうしたらフィーロって子にできるのか? と元康くんはラトさんに相談しようと思ってきたんだと思います」

おお、さすがお義父さんですぞ。

俺が主治医に言いたいことを大体おっしゃってくださいました。

「ですぞ」

「あれだけのヒントでそこまで察する事の出来る盾の勇者の洞察力に感心すればいいのか、物凄い難題をいきなり投げ付けて来た槍の勇者に呆れればいいのかしらね」

「いきなりで申し訳ありません……」

「別に良いけどね。多少は興味のある対象を持ってきてくれた訳だし、面白くなりそうな題材でもあるから」

おお、主治医は話に乗ってくれるようですぞ。

「ちょっとこっちもストレス溜まっていたし、こういった面白そうなことで発散しないとね」

「何かあったんですか?」

「まあ、盾や槍の勇者も間接的には関わっているんだけど、元・鞭の勇者に関する騒動の余波というのかしらね」

タクトですかな?

まだ奴は迷惑をかけてくるのですかな?

いい加減ウンザリしてきましたな。

「私がライバルと認めていた外見幼めの白衣を着たホムンクルス研究所の奴がいたんだけどね。タクトが殺されたと知るなり職務放棄した挙句、機材を持ち出してどっか行ったらしいのよ。で、未だに行方不明……いえ、今は逃亡中だったかしら?」

「タクト派閥残党ですか」

「そうなるわ。どこに逃げ出したのやら……その尻ぬぐいとかいろんな方面からの手伝い要請とか、色々とね。なんだかんだあってフォーブレイも大混乱だったの」

なるほど……やはりタクトを上手く倒せなかったのが痛いですな。

それだけ奴の派閥が大きいという事でしょう。

主治医は非常に苛立った様子で両手を上げて答えますぞ。

「学会や発表会もしばらくは延期になるわ。散々よ。ま、そんな騒動も盾と槍の勇者が戦争を収めてくれたお陰で、ある程度沈静化してよかったとは思うけど」

「本当、彼等は世界を私物化していたんだなー」

「逃がさず皆殺しが一番早いですぞ。今までも、これからもですな」

「殺しを推奨するのは良い話じゃないんだけどね……」

お義父さんはお優しいですな。

タクトはこの慈悲に感謝しなくちゃいけませんぞ?

まあ、タクトの事ですから絶対に踏み躙るでしょうがな。

「で、さっきの話なのだけど、一度生まれて育ったフィロリアルを育て直したいって事で良いのよね?」

「はい。そういう事になると思いますが……何かありますか?」

お義父さんが何やら無理な事を前提に尋ねました。

「そうねー……パッと思いついて現実的な案が一つ。やや夢見がちな話だけど勇者なら出来るかもしれない案が一つね」

「あるんですか?」

「ただ、満足する結果になるかはわからないわよ?」

「何があろうと参考に教えてください」

「じゃあ現実的な案からね」

主治医はそういって組んでいた腕を組みなおして答えますぞ。

「一つはサクラって子から生体情報を採取してホムンクルスやクローンを作成して育てる。要するにコピーを一から作成してフィーロって子にさせる方法ね」

「あー……なるほど、錬金術の技術に関して詳しくはないですけど、なんとなくわかりました」

「育て方や環境で変わると言うのなら、状況を模倣できればある程度近づけることは可能でしょう?」

「なんとなく狂気的な話になって来てるけど……」

お義父さんが俺を見ますぞ。

サクラちゃんを元にコピーを作り出してフィーロたんに育て上げるのですかな?

むむむ……ですぞ。

「それはつまり、上手く行けば無数にフィーロたんを作り出せるという話ですな?」

「一応はね。ただ……不気味な光景になりそうだなぁ。タダでさえフィロリアルが沢山いるのに……」

「難点は魂の側面で本物であるのかは槍の勇者から観測するほかないわ」

主治医のセリフでふと思いますぞ。

元康よ、お前はそれで満足なのですかな?

そうして作られたフィーロたんは本物なのですかな?

偽者のフィーロたんを量産する事がお前の愛なのですかな?

「違いますぞ! フィーロたんは唯一無二の存在なのですぞ。この世のたった一人の愛の天使なのですぞ」

無数のフィーロたんがいたとしても本物は一人。

それが俺の愛なのですぞ。

「まあ……それが良いかもしれないね。俺も見たくない」

「となると今度は途端に現実味がなくなる案になっていくわよ?」

「その案とは何ですか?」

現実味があるかどうかは聞いてから決めますぞ。

案というのは沢山あって困る物ではないですからな。

「いろんな物語とかで語られる若返りの秘薬をどこからか探すなり作るなりしてその子が雛鳥になるまで服用させる」

「うわ……確かに現実味がない、のかな? 俺から言わせてもらえば異世界召喚だって創作物語の次元だから否定しきれない」

「勇者からするとこの世界自体が不思議で満ちているのね……中々に難しい認識になるわね」

「元康くんは若返りの秘薬とか知らない?」

「若返りの秘薬ですかな?」

さすがに俺もそのような薬に関しては知りませんぞ。

ゲームだった頃にはクエストアイテムとかであったかもしれませんがそこまで俺も詳細を覚えているわけではありませんしなぁ。

あ、ただ、昔お義父さんが言っていた物を覚えていますぞ。

「不老不死の薬と呼ばれる薬の方は真実かは知りませんが、知っていますぞ」

「もっと怪しげな方を知ってたよ。けど結局ダメじゃん」

「そういう訳ね」

「かといって俺は諦めませんぞ」

「諦めないのは元康くんの長所だけど、こればかりはなー……」

「後はそうね。かなり強引な方法だけどサクラって子を記憶喪失にでもしてみたら? フィロリアルが何を基準にして人化する姿を決めているのか特定できていないけど、それまでの人格ならばできるかもしれないわね」

「つまりサクラちゃんをどうにかして記憶喪失にさせろって事ですかな? それは無理ですぞ」

フィロリアル様に無意味にケガ等させられませんぞ。

フィーロたんであろうとお義父さんの命令で眠らせたりするのが俺の限界ですからな。

「じゃあ無理よ。他を当たってほしいわ」