軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

代償

「――――――――――!」

俺は天に向って声にならない叫びを上げていた。

憎い!

何が憎いって、この世界にいる全てが憎い!

気が狂いそうになるほど俺に対して厳しいこの全てが恨めしい。

そうだ。全てをこの力で焼き尽くしてしまえば良いんだ!

視界が赤と闇に染まり、何もかもが憎む対象に映る。

「――!」

誰かの声が耳に入り、水を掛けられたような気がするが、ソレすらも意味を成さない。

「――!」

触れているものがうっとおしい。焼き尽くすか!

「ごしゅじんさまは、本当に世界の全てがきらいなの?」

俺を嵌め、そしていたぶり、殺そうとする全てが憎い!

「ほんとうに? ほんとうに、そう思っているの?」

ああ、だからどうした!

「じゃあ、フィーロやラフタリアお姉ちゃんとの日々はいやだったの?」

声に……何かが思い出される。

幼い女の子が俺に付き従って、たとえ何があったとしても俺に対して忠誠を誓い、負傷しても俺の為に尽くす……その顛末が俺の視界を埋め尽くす。

そして卵から雛が孵り、育ち、大好きだという思い続けている心が伝わってくる。

「それ……は……」

「違うよね。だって、ごしゅじんさま何だかんだでフィーロたちの為にがんばってたもん」

闇が晴れるように視界が徐々にクリアになっていく。

「だからね。ごしゅじんさまの怒り、憎しみをフィーロは食べてくね」

スーッと視界が完全に晴れ、俺は辺りを見渡す。

「ナオフミ様!」

「大丈夫か!?」

俺が叫び声を上げてから数秒も立っていないのだろう。訝しげな目で俺を見ている。

「ごしゅじんさま大丈夫?」

「お前が抑えてくれたのか?」

「うん。ごしゅじんさまも大変だったんだね」

フィーロは俺を後ろから抱き抱える。良く見ると四肢が炎で黒く火傷している。憤怒の盾がグロウアップした時の加護にフィーロの体が耐え切れなくなってきている。とても痛いはずだ。なのに痛がりのフィーロが俺の心配をしている。

「フィーロもねラフタリアお姉ちゃんもメルちゃんもみんなみんな、ごしゅじんさまを信じているよ。だからがんばって」

「ああ」

ここで怒りに飲まれてはいけない。

あと少しで俺を苦しませた元凶の一つが潰せるのだ。

ここさえ越えれば、後はどうとでもなる。

俺達を、メルティを、勇者を、全て自分の都合良く利用するアイツを……。

俺は……アイツを、倒す!

「……行くぞ」

「こんな状況でまだ手段があるのか?」

「ああ、俺の一番強い盾に必殺のスキルができた」

「なんだその姿は。さっきも禍々しかったけど、もっと酷くなっているぞ」

憤怒の盾Ⅱの竜を象った形状がラースシールドに代わった事で、更なる禍々しさを宿した。竜の顔立ちが悪魔のような形に変わり、角の部分は曲がっている。

「いずれお前等に撃つかもしれないスキルだ。それよりもスキルを放つ余裕を作ってくれ」

「お前って奴は……しょうがない。今だけはお前を頼ろう」

「ですね。信用することは難しいですが、こっちも手段がありません」

「一か八かだな」

「魔法は……俺達が何とかしてみせる」

勇者達は頷き、教皇に向けて構える。

「おやおや……まだ無駄な抵抗を繰り返しますか。ですがそれも終わりとしましょう。こちらも準備が整いました。トドメを刺させていただきましょうか」

辺りに魔力の気配が強まっていく。

上には高密度の光が今にも降り注がんとしていた。

「フィーロ!」

俺の叫びに勇者達は教皇に向けて駆ける。

求めに応じてフィーロは俺を背負う。

「飛べ!」

「はーい!」

高らかに跳躍した俺を乗せるフィーロ。

「「「高等集団合成魔法、『裁き』!」」」

上空から光の洗礼が降り注ぐ!

「いけええええええええええええええ!」

俺は盾を上に構える。

ビキビキと音を立てて、上から降り注ぐ光が俺を照らす。

しかし、ラースシールドⅢの防御を貫くことは出来ない。俺から下にはまったくのダメージを負わすことすら出来ない。

「裁きでも傷を負わないだと!」

教皇の表情に驚愕の文字が彩られる。笑顔の仮面が剥がれたな。

こちらも相応の代価を払ってこの盾を使っているんだ。

それ位は見せてもらわないとな。

「馬鹿な。ですがこれは受けきれまい!」

剣を高らかに俺に向けて、教皇は振りかぶる。

「フェニックスブレイド!」

教皇の剣から火の鳥が飛び出し、俺に向って来る。

「喰らうか!」

俺は盾を前に掲げる。

そして魔法を詠唱するフィーロと心の疎通を図り援護する。

詠唱が思い浮かぶ。憤怒の衣(中)の発動条件か?

『力の根源たる盾の勇者と眷属が命ずる。真理を今一度読み解き、炎を喰らいて力と化せ』

「ラースファイア!」

憤怒は今、俺達の力となる。

火の鳥は俺達にぶつかり、全てを焼きつくさんと燃え広がるが、その炎を力へと変換して走る。

「な! 私のスキルを喰らっただと!」

「皮肉なもんだな。貴様の鳥は神鳥の餌になったぞ」

勇者達の攻撃と、フィーロの力強い蹴りによって教皇を守る結界は即座に打ち砕かれた。

「ふぇにくすすとらいくー」

フィーロの必殺の突進!

フィトリアに放った必殺技が今、実戦に耐えうる性能を宿して教皇へと襲い掛かる。

「流星剣!」

「流星槍!」

「流星弓!」

教皇は剣を槍に変えて構えた。

「天地逆転の構え!?」

元康が驚愕の声を上げる。

つまりは槍の上位スキルって所か。

「ぐ……神の意思に逆らってはなりません」

フィーロの必殺技以外が弾かれ、槍から光が溢れる。

「ぐあ!」

「グフ!」

「ぐ……」

カウンタースキルか!?

何処までもしぶとい!

「だが、俺は止められないぞ!」

「そうですかな?」

教皇の奴、今度は弓に形状を変えて大きく飛びずさる。

「逃がすか! フィーロ!」

「うん。はいくいっくー」

瞬時に教皇に追いつき、フィーロが蹴りを加える。

しかし、フィーロの攻撃した教皇がフッと消え去った。

逃がすか、お前は今日ここで倒す。

何処だ、どこにいる。

「ハイドアロー!?」

樹の声。

「そのスキルは残像を大量に作るスキルです! 気をつけて!」

く……目標を特定できないだと!?

見ると何十人も教皇が増えているかのように辺りに大量の残像が現れる。

「ふふふ、少々驚きましたが、そろそろ本気で終わらせてもらいますか」

教皇が弓を構えて、俺達に向けて大きなスキルを放ちだす。

「これが最も強力な単体スキルです。盾の悪魔、その身に味わうが良い」

光り輝く弓。

くそ、耐え切れるとは思うが、反撃の手段が無い。

『力の根源たる女王が命ずる。真理を今一度読み解き、彼の者を氷結による拘束を与えよ』

「ドライファ・アイシクル・プリズン!」

大量に生み出された教皇の残像の一体の下半身が凍りついた。

「今です」

誰だ!?

いや、それを気にしている時間は無い。

今は奴を倒す事だけを考えろ。

ブルートオプファー!

やはり俺の視界に詠唱が浮かぶ。

『その愚かなる罪人への我が決めたる罰の名は神の生贄たる絶叫! 我が血肉を糧に生み出されし虎挟みにより激痛に絶命しながら生贄と化せ!』

「ブルートオプファー!」

ぐふ……。

な、なんだ!? スキルを放った瞬間、全身から血が溢れ出し、肉が裂け、骨が軋む。

これは……自殺スキルだったのか!?

教皇の奴、俺が勝手に重傷を負って、笑みを浮かべる。

だが、次の瞬間――教皇の足元に地面から赤黒いトラバサミのような物が出現する。

普通のトラバサミとは違い、噛み合わせる部分が多重構造となっている。一言で表現するのなら地面から生えたサメの口のような物だと思えば良いだろう。

「な――」

ガツン! という鋭い金属音が起こり、一瞬で教皇はトラバサミに噛み付かれる。

「ぐぎゃああああ――」

叫び声が木霊する。

トラバサミの中で赤い飛沫と黒い影が瞬いてる。

「なんの、この程度――」

これは……エグイ。

教皇も対策を取ろうと動こうとしたのだろうが、それを嘲笑うかの如くトラバサミが何度も開閉を繰り返す。

「ぐは……がは――た、たす……か、神……」

最初の一撃目では教皇も大ダメージで済み、即座にトラバサミを破壊する為にスキルを放ったが傷一つ付かなかった。

二度、三度の開閉で伝説の武器の複製品に亀裂が入り、四度目の開閉で金属を砕く音が響く。

そして蟻地獄の如く、ほとんど肉塊となった教皇を噛んだままトラバサミが地面に沈んで行き、消えていった。

「……」

その光景を俺達は息を呑んで見送る。

カースシリーズのスキルはどれも血生臭いものばかりだ。

精神を侵食する盾だからだろうか。

常用して良いものではないと今更になって気付かされる。

「きょ、教皇様が悪魔に負けてしまった」

絶望するかのように三勇教徒達は呟く。

「ええ……貴方達はもうお仕舞いです」

雄たけびと共に討伐軍が三勇教徒達に突撃し、拿捕していく。

教皇も複製品も無くなった今、俺達の勝利は確実の物となった。

しかし……俺は討伐軍を見送ると同時にフィーロからずり落ちた。

ラースシールドによって追加された新たな攻撃スキル、ブルートオプファー。

強力な力だが、その代償はあまりにも大きかった……。