軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

説得

「うわぁ……」

北東の国境沿いにある関所近隣を見渡して俺は思わず呟いた。

何故呟いたかと言うと、国境沿いに凄い数の騎士や兵士が待ち構えているからだ。

これは全軍集まっているんじゃないか?

もしも別の国が攻めてきたらどうするんだ。コイツ等。

いや、さすがに全軍って事は無いだろうが、それでも多い。

「盾の悪魔は確実にシルトヴェルトへ逃亡を図るはずだ! 貴様等、絶対に逃すんじゃないぞ!」

「はい!」

なんともまあ……騒がしいことで。

アリが通る隙間もないってくらい関所は厳重な警備が施されている。

俺だけなら正面突破する事ができるかもしれないが、今はラフタリアや第二王女がいる。

無理があるだろう。

俺が正面から突破し、他の奴等が先に行くという手も考えたが……怖いのは他の勇者が居ることだよな。

さすがに前回の波で俺が相手を撤退させたけど、あれは相手が消耗していたというのが大きい。

正面から、しかもあれだけの相手を前に時間を稼いで逃げ切れるかと言うとかなり怪しい。

しかし、俺がシルトヴェルトへ行くと言うのがどうしてこうも察知されているんだ?

まあ、奴等にとって都合の悪い国なのだろうとは思うが……。

どちらにしても想像以上だ。

「どうするかな……関所を通らず、道無き道を進んで超えるか」

「無理……」

第二王女の奴、ポツリと呟く。

「何が無理なんだ?」

「緊急配備が掛かってるみたい。国境を越えたら警報が鳴り響いてあそこの人達が駆けつけてくる」

「それは厳しいな……」

俺のイメージでは赤外線の警報装置のような物が浮かぶ。たぶん、そんな感じの奴が国境沿いに設置してあるのだろう。

あれだけの数に山狩りされれば見つかるのも時間の問題となる。

「フィーロの足なら逃げ切れるんじゃないのか?」

「先回りされちゃう。警報線はずっと前にあるから見つかったら逃げ切れない」

「うむ……妙に詳しいな」

「母上が緊急時には覚えておきなさいって……維持がとても大変なのだけど、緊急配備だから多分、惜しまない」

「そりゃあ念入りな事で」

殺意が湧いてくるな。

どうやっても俺を逃がさないつもりみたいだ。

「ともすれば、どこか別の国を経由してシルトヴェルトへ逃げるのが妥当か」

一番近い国境がここだったのだが、手段は選んでいられない。

という所で近隣の村人と鉢合わせしてしまった。

変装しているから大丈夫だろう。俺と第二王女は藁に隠れているし。

「あ……」

やっぱり、なんか謎の沈黙が村人とラフタリアとで視線が合う。

「盾の勇者様、こっちは危険です。迂回することをオススメします」

どうしてこうも直ぐにばれるかね。

ラフタリアの変装の手段を考えなきゃいけない。

「あ、勇者様に貰った植物の種のお陰でわが国は持ち直しました。ありがとうございます」

よくよく見たら村人じゃない。隣国の奴だ。

しかも行商中だったっぽく、古着を藁の中へ放ってくれた。

「御付の方にはもう少し、泥臭い感じにすると大丈夫だと思いますよ。美人のラクーン種の亜人と言うのでばれます」

これは俺の落ち度だ。さすがにラフタリアはラクーン種という亜人の中でも顔が良い方らしいからなぁ。

むしろ行商時は接客させていたし、有名人になっていたか。

そもそも俺はラフタリアを買った時、奴隷商にこう言われた。

ラクーン種は見た目が些か悪い種族、と。

他の奴に任せる訳にはいかないから、偽装手段を変えないといけないな。

「色々とすまないな」

「いえいえ、盾の勇者様にしていただいた事に比べれば、この程度小さな事です」

俺は彼等に銀貨を何枚か渡し食料を補給する。

特にフィーロの食料が問題だ。

逃亡生活の所為で腹が減ったと騒ぐ。

そして何より移動速度が落とされるのが一番怖い。

現在俺達の長所はフィーロによる足の速さと偽装能力にある。

目立つフィロリアル・クイーンの姿ではないから逃げられている。

道行く賞金稼ぎや冒険者を相手にしていたら限りが無いからな。

「あ、行商人ですか? ちょっと買出しに来たのですけど……」

やば!

兵士が隣国の奴へと近づいてくる。

「……盾の勇者様?」

く、兵士にばれた! フィーロに命令して黙らせて逃げ――。

「僕ですよ。ほら、波で勇者様と協力した」

よく見ると、兵士は志願兵だった。

そういえば、頼まれて城にまで戻ったが、クズと決別して後のフォローができなかった。

少し心配していたのだが、やはり俺達に協力したからこんな地方に飛ばされたか。

あの時は盾の悪魔という話を知らなかったからな。

考えてみれば彼等からしてみれば相当な決意が必要だったはず。

出世は確実に閉ざされただろう。

「……左遷させてしまったか?」

「いえ、お咎めは無いですよ。何故か」

「そうか、だが国境警備は左遷ではないのか?」

「それが違うようなのですよ。騎士団の大半がここに集結しています」

俺の為だけに!?

おいおい。幾らなんでもあのクズ。どんだけ俺にシルトヴェルトへ行って欲しくないんだよ。

本格的に奴等の目的がわからなくなってきた。

もしかすると俺の知らない何かがシルトヴェルトという国に隠されているのかもしれない。

これは行かない訳にはいかない。

敵が嫌がる事=こちらの最善手である可能性が高い。

理由は解らないが、行って確かめるだけでも実りはあるはず。

「とにかく、ここは危険です。一刻も早くお逃げください」

「感謝する」

「いえ、それだけではありません……他の勇者様方もこちらに来ているようなので、鉢合わせをすると盾の勇者様が困るかと」

……確かに。

前回の波の時、グラスを撤退させられたのは他の勇者共が消耗させていたと考えるのが妥当だ。

ともすれば、あいつ等の実力は俺よりも遥かに上と見て良いだろう。

下手に遭遇したら殺されるかもしれないなぁ。

ラフタリアが放られたややみすぼらしい服を着て、泥を顔に塗りたくっている。

「とりあえず、手早く逃げるとしよう」

「疑惑が晴れることを祈っております」

何食わぬ顔で隣国の村人と志願兵と別れ、俺達は迂回する為に南へ戻ろうとした。

あれから少しだけ進んだ所だった。

元康一行と樹一行が道行く馬車や荷車をただ見ている

やはり志願兵の話通り来ているようだ。

……僅かに盗み見る。

それぞれの魔法が使える奴が何やら詠唱している。

「居ました! そこの藁の荷車です!」

俺が不信に思い。嫌な予感がした直後の事だ。

元康と樹の奴、俺達の荷車に向けて駆け寄ってくる。

く!? どうしてばれた?

いや、おそらくはあの魔法を使っていた連中だろう。

解析か何か、そんな魔法だと推測する。

俺は、被せていた藁を払いのけて、荷車から飛び出す。フィーロも事態を察知してフィロリアル・クイーンの姿に戻った。

「やはりいたか!」

近くに居たのだろう。錬一行まで駆けつけてきた。

くそ……幾らなんでも状況が最悪だ。

「見つけましたよ! メルティ王女を解放しなさい!」

樹の奴、我こそは正義の使者であるとでも言うかのような腹立たしい顔で俺を指差していた。

「解放も何も、第二王女は別に拘束していないぞ」

「白々しい、証拠はあがっているんだぞ!」

「そうだ。お前に正義はない」

「正義……ねぇ?」

波では基本的に人命は騎士団任せの連中が正義を言い放つか。

ホント、自らの正義感を満たすことしか考えていない奴等だ。

待てよ……よくよく考えて見れば、コイツ等に事情を話すという手もある。

抜けてこそいるが錬は疫病の村を心配していたし、樹はアレで正義感だけは無駄にある。

これを利用できないだろうか。

まあ、どうせ俺の言う事なんて最初から信じるつもりなんてないだろうがな。

それでも一応、説明してみる価値はある。

要するにコイツ等の正義感を別の方向に向けられれば良いんだ。

巨悪の陰謀を阻止する。

ゲーム好きが憧れるシチュエーションの一つだ。

信用させる事ができれば……あるいは国に疑心さえ抱かせれば布石になるかもしれない。

「お前等の言っている事は本当に正しいと、正義だと言えるのか?」

「どういう事だ?」

「第二王女はこの通り、怪我一つ無く生きている」

どこから攻撃が飛んできても守れる態勢を維持しつつ第二王女を勇者達に見せる。

心配そうに俺を見上げ、第二王女は大きく頷いた。

「剣の勇者様、槍の勇者様、弓の勇者様。盾の勇者様は無実です。むしろわたしの命を守ってくれています」

第二王女は普段の様な子供っぽい言葉使いでは無く、王女然とした口調で話す。

その言葉に三人から動揺の表情が読み取れる。

自分のしている事が実は悪の片棒を担っている。

正義感の塊であるコイツ等からすればとてつもない屈辱だろう。

「どうか信じてください。此度の騒動は大きな陰謀が隠されています」

「しかし、メルティ王女はその男に連れ回されているではありませんか」

「それこそ、私の命を守ってもらう為に、わたしからお願いしています」

第二王女本人の口から説明されて樹はたじろく。

「不自然ではありませんか。盾の勇者様がわたしを誘拐する事に何の得があるのですか?」

「そ、それは……」

理由でも探しているのか?

目が泳いでいるぞ。

「だが、コイツは――」

「勇者様方はメルロマルク国が盾の勇者様だけ扱いがおかしいと考えませんでしたか?」

「確かに……」

「母上が仰っていました。今は人と人とが手を取り合い、一致団結して災いを退ける時だと……勇者様方にこの様な不必要な時間の浪費をさせる余裕はこの世界には無いのです。どうか、武器をお納めください」

勇者三人は本来の目的に気付いたのか、構えた武器の握りを弱める。

少し位自覚はあるのだろう。

自分達が前回の戦いで負けた事に。

第二王女の言う通り、俺達は早く自身を鍛え、武器を強くしなければいけない。

勇者という使命を全うするつもりなら、レベルも、武器も強化できない、この状況はそれこそ無駄この上ない。

「わかったか? これは陰謀だ。これから俺の知る限りの真相を話す。戦うか否かはそれからでも良いだろう?」

俺がそう言った直後、ビッチが前に出てくる。

「盾の悪魔の言葉を聞いてはなりません!」

ぐ! ビッチの奴、俺が事情を説明しようとするや前に出て言い放ちやがった。

何を言うつもりだ。

妹でも心配している素振りを見せてポイント稼ぎでもするのか?

「今回の事件が明るみになった時に説明されたではありませんか! 盾の悪魔は洗脳の力を持っていると!」